子どもの習い事は親の一大事:「ため親」の危険な育児は子を潰す

天才を伸ばす育児

全日本柔道連盟による小学生柔道全国大会廃止の決断は、子どもの心身健全な発育を阻止する「ため親」撲滅への大切な一歩。「子どものため」と言いながら、子どもの人生を潰す「ため親」についての解説です。

今回の記事のテーマ

「子どものため」言いながらわが子を潰す「ため親」とは?

ため親とは:子どものためと言いながら、自分の目的を子に強制する親

ため親とは:子どものためと言いながら、自分の目的を子に強制する親。子どもを叱る親
  • スポーツのトーナメントで1位になるため
  • 音楽のコンテストで優勝するため
  • 有名小・中・高校の受験に合格するため
  • 有名大学に進学するため
  • ・・・など、数えきれない到達すべき目標

上記で述べた「〜するため」の目標を、「わが子のため」と主張して、子どもに押し付ける親御さんのことを、私は「ため親」と呼んでいます。

「ため親」は、「子どものため」と言いながら、実は親である自分自身を満足させてくれる課題を、子どもに強制するのです。

「ため親」は、我が物顔で子どもの才能を食い尽くし、子どもの未来を潰します。

子どもためにと目標を強制する「ため親」の子どもによくある特徴

  • 親の顔色をうかがう
  • 与えられた課題は上手にこなせる「いい子」
  • 優秀だが天才的には突出していない能力の持ち主
  • 大人になる前に努力の息切れ
  • 深刻な心の問題を抱えて失望した人生を過ごす

「ため親」の子どもの特徴:親の顔色をうかがう

「ため親」の子どもの特徴:親の顔色をうかがう子ども

「ため親」の機嫌は、自分が子どもに選び与えた「ためになる課題到達の成否」に左右されます。

  • 自分が与えた課題に子どもが成功 →機嫌よく子どもをほめる
  • 自分が与えた課題に子どもが失敗 →子どもをけなす・無視する

親から愛されたい気持ちは、私たち人間の心の中にある本能です。

ですから、子どもは必死になって、親の機嫌を良くするために、親から目の前に突き出された課題に取り組みます。そして、親の顔色から愛情の証を探し求める子どもになるのです。

「ため親」の子どもの特徴:与えられた課題は上手にこなせるいい子

「ため親」の子どもの特徴:与えられた課題は上手にこなせるいい子。最優秀しか許されない子ども

親の選んだ課題の克服に集中するため、「ため親」の子どもたちは次第に、課題を上手にこなせるいい子に育ちます。課題ができると「ため親」にほめられる。だからさらに頑張るいい子の誕生です。

その分、彼らは自分の好奇心を育て、チャレンジする機会に恵まれないので、自分の頭で考える思考力、そして失敗を乗り越えて継続する力が乏しい子どもに成長するのです。

「ため親」の子どもの特徴:優秀だが天才的には突出していない

「ため親」の子どもの特徴:優秀だが天才的には突出していない

皮肉なことに、熱狂的な「ため親」のお子さんの能力は、まわりと比べて優秀だけれど、天才的には突出していないケースが目立ちます。

「ため親」の欲求を常に満足させるには、子どもは絶え間なく努力して、トップポジションを走り続けなければならない。

しかし、年齢が上がるにつれ、「ため親」から出される課題の克服度と、親の態度がヒートアップしていきます。なぜなら、どの分野でもトップの位置には、努力をしているようには見えないのに、「ため親」の子どもを打ち負かす能力の持ち主が、幅を利かせてくるからです。

親に強制されている「ため親」の子どもとは反対に、自分が好きで得意なことに打ち込んできた子どもたちは、疲労知らず。好きなことだから夢中になれるし、失敗してもへのかっぱ。 そして何より、課題に楽しみながら取り組んでいる。

「ため親」の子どもには、自分で選んだ目的を飄々とこなしてきた、打たれ強い子どもたちに太刀打ちする術はありません。彼らが自分の好きなことに注ぐ情熱は本物なので、「ため親」の子どもは自らの力のなさを意識し始めます。

「ため親」の子どもの特徴:大人になる前に努力の息切れ

「ため親」の子どもの特徴:大人になる前に努力の息切れ。息切れする子どもを叱る親

けれども、「ため親」の子どもに休憩や失敗は禁句。ですから、さらなる努力を親に強いられる。「ため親」は、自分の失望を言葉では表現しないかもしれませんが、機嫌の悪さを態度で示し、「もっと頑張りなさい」というあり得ない要求を子どもに突きつけることに長けているのです。

どんなに頑張っても、自分の頭と情熱で動いている子どもたちとの差が埋まらなくなった「ため親」の子と、ヒステリー状態になった「ため親」を待ち受けているのは、人生のネガティブ・スパイラルです。

「ため親」の子どもの特徴:深刻な心の問題を抱えて人生を過ごす

「ため親」の子どもの特徴:深刻な心の問題を抱えて人生を過ごす。目を塞ぐクマのぬいぐるみ

かつてはあれほど優秀だったのに、自分の期待を裏切った子どもを愛せない「ため親」は、自らの育児法を冷静に振り返ることなく、すべての責任を子どもに押し付けます。

「ため親」は、ありのままの子どもではなく、自分の欲望を思い通りに満たしてくれる子どもを愛する親。

失敗イコール自分の存在意義と理解している「ため親」の子どもにとって、事態は深刻です。

親の間違った愛情から人生を歪められてしまった、本来なら才能のある子どもたちはこうして、自分自身に「親を失望させたダメな存在」とスタンプを押してしまうのです。

「ため親」の子どもたちが、その後自力で自分の人生の立て直しに成功することは、非常に難しい道のりです。

児童虐待の定義:「ため親」の行動は、虐待の一種

児童虐待の定義:「ため親」の行動は、虐待の一種。暗闇に転がるクマのぬいぐるみ

(児童虐待の定義)

第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。

 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。

 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。

 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。第十六条において同じ。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

引用元:児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)施行日令和2年9月10日(令和2年法律第41号による改正)

ややお堅い法律の文章ですが、「ため親」の支配的な育児の仕方は、心理学的な虐待に当てはまることがおわかりいただけるかと存じます。

心理学的な虐待は、例えばイギリス全土における虐待発生率の調査において、以下のように定義されています。

  • 親が子どもの考えをコントロールし、他のサポートや発達の源から切り離す
  • 子どもを物理的にコントロールし、身体的な障害とは異なる苦悩を引き起こす
  • 子どもの自己価値、自尊心に対する精神的な攻撃
  • 子どもに愛情や看護を与えない
  • 子どもにことばや態度で著しい嫌悪感を見せる
  • 子どもをことばで脅し、強い恐怖感を引き起こす
  • 子どもが大事にしている人や物を傷つける

参照元:仁平義明. (2011). 子どもの虐待と心の回復 (リジリエンス) の指標. 白鴎大学論集, 26(1), 363-390.

「ため親」の虐待・不適切行動は問題行為として認識されにくい現実

「虐待のハインリッヒの法則」(仁平、2006)

「ため親」の虐待・不適切行動は問題行為として認識されにくい現実。「虐待のハインリッヒの法則」(仁平、2006)の図
出典:仁平義明. (2011). 子どもの虐待と心の回復 (リジリエンス) の指標. 白鴎大学論集, 26(1), 363-390. p.383の図4を引用

「ため親」は、非常に厄介な存在です。

「ため親」の周囲にいる人には、ちょっとやり過ぎの印象が明らかなはず。でも、よそのご家庭の親子関係に口を出すことは、ためらわれるので、口を塞いで見守るだけ。そもそも、「ため親」は他人の意見には、耳を貸したりしないので、批判をしてもスルーされるのは確実。

「ため親」が子どもの心に残した傷跡の深さが明らかになるのは、子どもの心が完全に折れてしまい、精神疾患を発症してから、というケースが多いのも問題の複雑性が増す要因のひとつです。

「虐待のハインリッヒの法則」(仁平、2006)の図が示すように、「ため親」による虐待も、明らかな問題として扱われるのはごく一部だけ。

水面下では、傷害のない虐待と虐待のポテンシャルがあるグレーゾーンに陥り、心に深刻な傷を負ってしまった子どもたちが、誰にも届かない叫び声をあげているのです。

全国小学生学年別柔道大会廃止の決断は警鐘。「ため親」撲滅への一歩

全国小学生学年別柔道大会廃止の決断は警鐘。「ため親」撲滅への一歩。子どもを叱る親にストップサインを出す子ども

全日本柔道連盟が発表した全国小学生学年別柔道大会廃止の決断は、無意識のうちに子どもの才能と未来を食い尽くしている「ため親」への警鐘です。

公益財団法人 全日本柔道連盟:全国小学生学年別柔道大会について (更新日2022/03/18) (閲覧日2022/03/22)

社会が動かないと、「ため親」の支配に置かれる子どもたちは、自力で「ため親」から逃げ出すことはできません。ですから、全日本柔道連盟の素晴らしい決断に、私は心からエールを送りたい。

柔道だけではなく、すべての習い事や学業は子どもの心身健全な発育を促すためのサポートになるべきで、障害を引き起こす原因になってはいけないのです。

為末大さんのツイートは、本来子どものためのスポーツで加熱する親の姿を鋭く捉えた内容です。

子どもの人生を踏みにじるだけではなく、子どもに重荷を背負わせても自分の責任に目を向けない、自分勝手な「ため親」が、ひとりでも少なくなることを、切に願っています。

優秀な子どもを鍛えて、無理矢理天才児に仕立て上げる親を、ギフテッド児の教育が指針のひとつだった娘の母校で間近に見てきた、私の体験談はコチラです。

・・・そして習い事はむやみに数だけ増やす必要はない、というのが私の意見。特に小学校に入学する前の段階では、親子で思考力がつく遊びをする方が、お子さんの脳育には効果的です。

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