<「麦茶くださいでしょ」“子どものしつけ”に賛否(2022年7月28日)>という、テレ朝newsが配信した動画を見て、いろいろと考えさせられた私。
- 子どもが「ください・ありがとう」のことばを口にしないと、親のイライラが最高潮に達する理由
- 子どもが不躾な態度を学んでしまったことに対する心理学の視点
- 子どもの言葉遣いの効果的なしつけ方
について、まとめてみました。
子どものしつけで賛否が分かれた「麦茶くださいでしょ」
テレ朝newsが配信した動画がテーマにしている親子間のやりとりは、コチラ↓。
母:「何か飲む?」
子:「麦茶」
母:「麦茶入れてくださいでしょ」
子:(出された麦茶を、何も言わずに飲む)
母:ありがとうは?
引用元:ANNnewsCH <「麦茶くださいでしょ」“子どものしつけ”に賛否(2022年7月28日)>
この母親の態度に対して、
「『ありがとう』や『ごめんなさい』の強制は、心ない子どもを育てるだけ!大人に忖度する子どもを作るだけ!」といった、異議を唱える声が上がりました。
引用元:ANNnewsCH <「麦茶くださいでしょ」“子どものしつけ”に賛否(2022年7月28日)>
という反面、感謝やお願いをことばで表すことは、子どものしつけの基本であるという意見もあり、賛否両論だったようです。
私自身は、
- 「ください・ありがとう」を子どもに強制しても、意味なし。かえって親のストレスレベルが上がるだけ
- しかし子どもが将来、世の中を上手く渡り歩くためには、礼儀正しい振る舞いが不可欠
- よって、できるだけ早い時期から、親子間で感謝や敬意を表すことばを用いる
ことがベストだと、個人的には考えております。
「ください・ありがとう」抜きはNGなワケ:親の期待への裏切り

テレ朝newsの動画が取り上げた、「ください」と「ありがとう」の欠落を子どもに指摘した母親が腹を立てている理由は、「子どもが親の期待する反応を示さなかったこと」が原因と思われます。
働きバチの如くせっせと家事をしている母親は、暑い最中、家族が冷え冷えの麦茶を飲むことができるよう、あらかじめ十分なストックを作っていたはず。
誰もが見落としがちな小さな家事でも、母親の心配りがなければ、家族は困ります。
けれども、子どもはそんなことおかまいなし。すべてを当たり前のことと受け止め、母親の気配りと労力を完全に無視。
たとえ親子の間であっても、せめて感謝のことばがあるべきなのに…という期待を、子どもに裏切られたと母親が感じてしまい、イライラするのも無理もないことです。
【子どものしつけ】感謝のことばが欠如する原因は心理学のスクリプト

けれども、「自分の子どもがキチンと『ください』や『ありがとう』を言わない」とご立腹の親御さんにとって、さらに腹の立つ指摘を、ここからは記すことになります。
その理由は、心理学で検証されている「スクリプト」の存在です。
心理学の「スクリプト」とは?

ヒトは、この世に誕生した瞬間から、自分のまわりで起きるあらゆる出来事をパターン化して、「Aの場合は、Bとなる」と学んでいきます。
元々、ヒトがスクリプトを必要とした理由は、外の世界からの危険を察知し、的確な対応をするため。
身の回りで起きるすべての出来事に、全神経を常に注ぐことは不可能なので、凡庸な出来事は早めにパターン化することで、いざという時に備えられるというワケです。
スクリプトでわかりやすい例が、「お誕生日パーティ」や「レストランでの食事」。
例えば、4歳児に「お誕生日パーティ」の説明をお願いすると、「友人を招待する・ケーキを一緒に食べる・プレゼントをもらえる」といった、パーティの場合(Aの場合)に起きる典型的な出来事(Bとなる)を描写してくれます。
【子どものしつけ】基盤となるのは心理学の「スクリプト」

スクリプトは、ヒトがさまざまな経験から、習慣的に作り上げていくものです。
読者の方も体験なさったことがあると思うのですが、海外の旅行先で買い物の仕方・電車の乗り方・レストランでのオーダーの仕方がわからなくてとまどう理由は、スクリプトの欠落によるものです。

だから、海外生活は難しい…(← どうしてもここでグチりたくなりました。お許しあそばせ)。
本題に戻ります。
ヒトが、
- スクリプトをすでに幼児期から習得している
- スクリプト習得の基盤となるのは、観察学習や慣習といった体験である
ことは、心理学で度々検証されている内容です。
ですから、冒頭のテレ朝newsが配信した動画で、「子どもに麦茶を出したのに、『ください・ありがとう』のことばがなかった」と、憤慨していた母親は、腹を立てる対象を取り違えているのです。
大変耳の痛いことですが、イライラの原因は「ください・ありがとう」すら言わない子どもではなく、そのようなスクリプトを家庭内で確立してしまった、過去から現在までのご自分の身の振る舞いなのです。
幼児がスクリプトを獲得する過程に興味がある方は、コチラ↓の論文をご参照ください。
「麦茶くださいでしょ」動画:心理学博士の言葉遣いのしつけ方〜実例

テレ朝newsが動画で取り上げた親子のシーンは、子育て中のご家庭でよくある場面ですよね。
子育てには正解はないけれど、王道はあるという持論の私は、ごく自然な形でしつけができるよう、日々の生活で心がけていました。
例えば、テレ朝newsの動画のようなシーンでは、
母:「何か飲む?」
子:「麦茶」
母:「はい、どうぞ」
子:(出された麦茶を、何も言わずに飲む)
母:「今度はあなたがママに、麦茶を入れてくださいな」
子:「はい、どうぞ」
母:「ありがとう」
というように、子どものことばが足りていない部分は、積極的に補いました。そして、自分たちの役割も交換することで、相手の立場を意識できるきっかけを与え、子どもが「ください・ありがとう」を自然に口にする環境を整えました。
特に、幼児期の子どもが「ごっこ遊び」に夢中になる時期は、遊びを通じて感じの良いことばの使い方を、練習できるチャンス。
お客さん・店員さんというロールプレイでの、相手への感謝の気持ちや敬意を表すことばを、子どもは喜んで真似してきます。
日頃のお手伝いにお子さんを積極的に参加させれば、親が子どもに「ありがとう」と伝える場面もたくさん出てきますし、子どもの健全な自立にもつながりますから、一石二鳥です。
もちろん、子どもは親の背を見て育つので、日常生活のあらゆる場面で、その点もご注意くださいね。面倒だけれど、親になるとは、そういうことなのですから。
子どものしつけ:できるだけ早い時期から日常生活で親がお手本になる

ヒトは何事につけ、一度身につけた習慣から脱却するのは骨が折れるもの。
ですから、お子さんの年齢が上であればあるほど、すでに習得してしまった「人付き合いの基本」のスクリプトを打ち砕いて、親子にとって心地よく、お子さんが社会生活を潤滑に営むために必要とする新しいスクリプトを身につけさせることは、大変な忍耐と労力を必要とするプロセスとなります。
本当に子どもの幸せな将来を望むのであれば、子どもが成人する前に、家庭内でのしつけをやり直すべきだと思います。
もっとも、そのような状況にいる親御さんは、そもそも私のブログ記事など、読まないかもしれません。
エアライン勤務時代に多くの有名・著名人に接する機会に恵まれた私はしばしば、「やはり成功している人には、一流のマナーがある」と、感じ入ることがありました。
だからこそ、乳児期の段階から子どもの将来にとって役立つライフスキルが身に付く環境を、親が整えてあげることが大切ですし、日頃の小さな心がけが、結果的に子どもの未来も、親子関係も幸せなものに導いてくれると、私は思っています。