【成年年齢のデメリット】高校留年でも学費負担の親は蚊帳の外のスイス

スイスライフ

成年年齢が18歳、高校卒業年齢は通常19歳のスイス。

成人した子どもが高校を留年する場合、学費を支払っている親には最後まで学校から連絡がないって、本当?!と、私が驚いたお話です。

親の立場にしてみると、成年年齢による自己決定権で生じるデメリットだと私には思えたのですが…。

皆さんは、どのように思われますか?

スイスの成年年齢は18歳/高校を卒業する年齢は19歳

スイスの成年年齢は18歳/高校を卒業する年齢は19歳

スイスの教育制度では、

  • 15歳で義務教育である中学校(3年)を卒業
  • 19歳で高校(4年)卒業し、大学入学資格取得

というのが、一般的。 *例外:ジュネーブ州では、18歳までが義務教育

スイスの成年年齢は18歳ですので、高校の生徒たちは、卒業を迎える前にすでに成人している、ということになります。

スイスの教育制度に関する情報は、コチラ↓の記事でご覧いただけます。

未成年で自己決定権なしのわが子だけ内申点への親の署名が必要になる

未成年で自己決定権なしのわが子だけ内申点への親の署名が必要になる

娘がギムナジウムの卒業まであと2年となったある日のことです。

飛び級+長期高校という進路をたどった娘は、この時点で16歳。同級生たちは、彼女より2〜4歳年上でした(語学留学を経て高校に進学した生徒もいたので、生徒の年齢にはバラツキがありました)。

お昼間に娘から電話がかかってきたので、「今日はいったい何を忘れたのやら…」と思いながら会話を始めると、「ママ、ちょっと担任の先生がお願い事ですって!」と、娘。

電話口に出てきた担任の先生は、挨拶もそこそこに、

「恐れ入りますが、学校まですぐにお越しいただけますか?今回の通知表は、大学入学資格の内申点として申告するもので、午後の会議で提出しなければならないのです。お嬢さんはまだ未成年ですから、親御さんの署名が必要となるのに、私がうっかりしていたもので」

とのことでしたので、私はとりあえず学校に向かったのです。

担任の先生のうっかり忘れで、母親である私がわざわざ高校に出向いたという状況でも、謝罪の言葉はゼロ! 
←こんな些細なことで、イチイチ腹を立てていたら、神経が持たないのでお気をつけて。あくまでもヨーロッパ人の特徴として受け流す方が、楽です。
ちなみに私は嫌味な態度で、数回お礼の言葉はゲットしました(笑)。

大学入学資格不合格予想組:成人生徒は独断で対応、親には連絡なし

大学入学資格不合格予想組:成人生徒は独断で対応、親には連絡なし

娘の母校では、大学入学資格の不合格者を出さないように、内申点から想定する「合格に必要な最低点」を、全生徒に伝達するシステムを、高校卒業の前年に導入していました。

「高校側は、『最後の年をどう過ごすのか、自己決定できる情報を、適時に生徒へ連絡した証明』に、各生徒の内申点への署名がいるんだって」と娘。

「自己決定って、具体的に何?」と問う私に返ってきたのは、「特に、合格のボーダーライン以下の生徒が、ラストスパートで成績向上目指して頑張るか、留年するか」という答え。

娘の同級生は、2名がボーダーライン以下だというので、「じゃあ、その子たちの親御さんも学校に呼び出されたの?」とたずねた私を、娘は怪訝そうに見つめて答えました。

「なぜ? 2人とも、もう成人しているから『このままでは合格できそうにないって、キチンと自分でご両親に話してください』で終わりよ」って…。

えぇっ?!

成人高校生の留年:学費負担の親への連絡は子どもの自己決定任せのスイス

成人高校生の留年:学費負担の親への連絡は子どもの自己決断任せのスイス

2022年4月1日から、成年年齢が18歳に引き下げられた日本と同様にスイスでも、成人している子どもがまだ経済的に自立していない場合(スイスの法律では、「適した教育を終えていない場合」と表現)、養育費を支払う義務は、親にあります。

「留年となれば、学費(しかも私立!)を負担している親御さんに、高校からも連絡すべきじゃないの?」と、日本育ちの私には納得がいかない高校側の対応に思えたのですが、スイス育ちの娘には、私の困惑さえ理解できない様子。

「先生は、『面談希望であれば、ご連絡くださいと親御さんに伝えて』っておっしゃっているもの…。成人したら、自分の人生の決断と責任を取るのは自分だから、親に事実を話すのも、本人の責任」と、娘の回答は非常にドライ(日本人の私的には)。

夫の反応も娘とまったく同じで、「成人した人間の権利として、自己決定権が尊重されるべきだから、親ではなく本人に事実関係を伝える高校の対応は正しいよ」とのこと。

スイスの自己決定権:留年決断した成人高校生の親、黙認しかできない

四半世紀以上スイスに潜伏しているとはいえ、日本育ちの私には、娘と夫には当然である「自己決定権」の絶対感が、何とも不思議な存在です。

自己決定権とは?

一定の個人的な事柄について、公権力から干渉されることなく、自由に決定する権利。日本では日本国憲法13条で保証されている幸福追求権の一部と考えられる。例えば、結婚・出産・治療・服装・髪型・趣味など、家庭生活・医療・ライフスタイル等に関する選択、決定について、公共の福祉に反しない限りにおいて尊重される。

引用元:コトバンク 出典 小学館 デジタル大辞泉 <自己決定権>(閲覧日2022/10/14)

娘の同級生のひとりは、「このままでは大学入学資格の不合格確定だから、留年してもう一度やり直す」と自分で決断。

ただしこの生徒さんは、成人しているとはいえ、自分の責任を果たさないタイプで、親御さんが子どもの留年を知ったのは、高校から学費の請求書が届いてからという、親にとっては最悪の展開だったとか。

父親(ちなみにスイス人)が、「留年すると、なぜ学校から親に連絡がないんだ!」と、怒り心頭で高校に文句を言いに来たそうなのですが、担任教諭の「成人として自己決定権の責任を負えないお子さんの態度については、学校側の関与すべき内容ではありませんから」という回答で、返す言葉を失っていたとのことです。

成人直後・反抗期の高校生の自己決定権で親子の絆を試すのは早すぎ?

成人直後・反抗期の高校生の自己決定権で親子の絆を試すのは早すぎ?

発達心理学では、「自立・自律した生き方」が、目指すべき子どもの成長形態としてみなされています。

たとえ子どもが成人した後でも、親子の絆はほどよい距離を保ったまま、存在し続けるのが理想です。

ですから、「成人した子どもが何らかの問題に直面した場合、自ら進んで親に相談・意見を求めたり、自分の決断を報告したりするようなら、その親子関係は円満で、子育てが成功した証」と言われるのです。

・・・でも、まだ多感な反抗期(〜20歳頃に終了)の真っ只中にいる、成人したばかりの高校生が留年する状況でも、「自己決定権」が絶対的な意味を持つのは、私には何ともスッキリしない解決策と感じるのですが、皆さんはどのように思われますか?

親子の絆がこじれているから、子どもが親に何も告げない可能性ももちろんありますが、反抗期の子どもの脳は「工事中」に似ている状態なので、そのせいで親を遠ざけてしまう可能性も、なきにしもあらずだと、私は思ってしまうのです。

スイスで浸透している自己決定権を、すんなりと受け止められないのは、やはり私が日本育ちだからなのでしょうか。

ヒトの発達課題に興味のある方は、ぜひコチラ↓の記事をご覧ください。