同性婚を認める法律が、2022年7月1日から施行されたスイスでは、レズビアンカップルに人工授精が大人気とのこと。
スイス潜伏歴四半世紀以上の私が、現地での報道内容をもとに、その背景をご紹介します。
【精子バンクを利用する際の現状〜スイス編】

この記事の本題に入る前にまず、スイスで精子バンクを利用する際の情報をお伝えしますね。
- スイス国内には、正式に認可されている精子バンクを備えた専門クリニックが8つ存在
- 医師が精子提供希望者の適性を厳しく検証
- 誕生した子どもは成人後、精子提供者の個人情報を取得できる
- 精子提供者を決定するのは、人工授精を希望するカップルではなく、医師
スイスで正式に認可されている精子バンクでは、精子の数と質の検査/医学面での調査(例:遺伝による疾患の有無・生活形態・性格)/精子提供候補者と医師間の面談が行われた上で、精子提供者として適した候補者であるかどうかを、クリニックの医師が慎重に選んでいるとのこと。
また、人工授精で誕生した子どもが成人した後、精子提供者の個人情報を得ることが、認められているそうです。
ただし、子どもの両親が精子提供者の個人情報を得ること、逆に精子提供者が子どもに関する情報を手に入れることは、禁じられています。
他の国と比べて、スイスで異色の点は、精子提供者を選ぶのが人工授精を希望するカップルではなく、医師であること。
男女のカップルの場合、スイス連邦の倫理委員会の判断により、父親と似ている肌・髪・目の色・身長・体重・血液型を持つ精子提供者を、医師が選び、決定するのだとか。
精子提供者の職業・趣味・才能といった点は、考慮事項に含んではいけないと、倫理委員会が決定しているそうです。
【人工授精を望むレズビアンカップルの現状】〜スイス編

2022年7月1日から同性婚が合法化されたことにより、「妊娠して子どもを授かりたい」と望んでいるレズビアンカップルの方たちをめぐる状況が、スイスでは以下のように変わりました。
- スイス国内の精子バンクを利用できる
- レズビアンカップルの両方が「実母」として認知される
- 精子提供者の体型を希望できる優遇対応
- 保険適用面での不公平さは今後解決すべき課題
【人工授精を望むレズビアンカップルの現状】精子バンクを利用できる

同性婚の合法化とともに、レズビアンカップルもスイス国内の精子バンクを利用することができるようになったため、人工授精を扱う専門クリニックは今、大人気。
スイス国内で人工授精により誕生する子どもの数が、これまでの年間100人から、200人に増える見込みだということです。
【人工授精を望むレズビアンカップルの現状】両方を「実母」として認知

スイスでレズビアンカップルにお子さんが誕生する場合、実際に子どもを出産した女性だけではなく、お相手の女性も母親、つまりおふたかたが「実母」として、正式に認知されます。
ただし、両方が母親として認められるのは、スイス国内で正式認可を受けている専門クリニックの精子バンクを利用する場合のみ。
別のルートで得た精子を使い、人工授精を試みるケースでは、生物上の母親だけが「母」となり、レズビアンカップルのお相手は、子どもの誕生から1年後に、「義理の子どもを養子縁組する」形態でしか、親子になれないとのことです。
たとえばスイスのお隣の国・ドイツでは、子どもを出産した母親だけが「母」として認められる現状を変更し、「母親が2人」制度を導入しようという動きが今、起きているところ。
スイス在住のレズビアンカップルは、ダブルママを可能にしたスイスの法律を、当然ながら非常に高く評価しているようです。
【人工授精を望むレズビアンカップルの現状】精子提供者の体型を希望できる優遇対応

冒頭で述べた、スイス国内における精子バンクを利用する際の現状でお伝えしたように、人工授精を望む男女のカップルには、精子提供者を選ぶ自由は、一切ないとのこと。
ところがレズビアンカップルの場合は、生物上母になる女性ではなく、お相手の方の身長・肌や目、髪の色と精子提供者ができる限り似ていることは重んじられていますが、BMIによる「体型」だけは、お相手と一致しないタイプを選ぶことが認められているそうです(例:お相手はぽっちゃり体型だけれども、痩せ型の精子提供者を選ぶのはOK)。
なぜレズビアンカップルにだけ、この点変更が認められたのか、その理由は報道機関の情報では不明です。
【人工授精を望むレズビアンカップルの現状】保険適用での不公平さが今後の課題

スイスで必要な人工授精1回のお値段(診察・人工授精・テストの総額)は、約17万円(1200スイスフラン)。
男女のカップルが、男性本人の精子を用いて人工授精を試みる場合、3回目のチャレンジまでは、保険が適用されるのですが、レズビアンカップルには保険が適用されないそうです。
レズビアンカップルにとって不公平なこの点は、今後解決が必要な課題として残っています。
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レズビアンカップルが人工授精を利用し、ダブルママとして認知されるようになった、スイスでの同性婚合法化に伴う現状が、この記事を目に留めてくださった読者の方にとって、少しでもお役に立つ情報であれば、幸いです。
日本の現状に興味のある方は、コチラ↓のリンクへ。日本でお子さんと共に家庭を築いている、さと子さんとまみこさん、そしてご家族の愛の形が、温かい。
関連リンク:NHK <ママが2人になるのだけれど>(更新日2022/06/10)(閲覧日2022/08/09)
スイスで同性のパートナーシップ登録を認める法律が施行された2007年、まだLGBTのテーマが社会でタブー視されていた当時、幼稚園生だった娘同伴でレズビアンカップルの開催したパーティを訪れた私が、幼稚園でお咎めを受けた出来事は、コチラ↓。
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<参照記事>
Sonntagszeitung <Lesbische Paare mit Kinderwunsch: Samenbanken müssen aufstocken> (日曜新聞紙版2022/08/07)(閲覧日2022/08/07)