【スイスの法律】2022年1月開始:性別変更の自己申告認可

スイスライフ

スイスでは2022年1月から、自己申告による性別変更が可能になります。新たに適用される民法の重要点、そして私が身近で見聞した心と体の不一致による波紋についての記事です。

性別変更の自己申告を認可するスイスの新しい法律【2022年1月から】

戸籍に記載されている性別と名前を自己申告で変更可能
→医者の診断書必要なし
→申告先は居住地の登記所で。手続き費用は75スイスフラン(約9千円)

申告できるのは男性/女性のうちどちらかの性別
→男性/女性に当てはまらない性別に関する法律は、現在調整中

自己申告で性別を変更しても、影響を受けないこと:
法的にすでに申告ずみの家族関係(結婚・事実婚・親族関係・出身)

例外)

  • 16歳未満の人(親の同意書があれば変更可能)
  • 成人保護局により援助が必要と認定されている人、または法的な支援制度が適用されている対象者は、法的に代理人と認められている関係者の同意が必要
参照サイト:スイス政府のホームページ

自己申告による性別変更が及ぼす影響とは?【スイスの民法・新法律】

スイスの日曜新聞SonntagsZeitungは、本日2021年12月26日の記事で、自己申告による性別変更が及ぼす影響を取り上げています。

現在スイスの法律で、性別による差があることは、例えば、

  • 退職年齢:男性65歳、女性63歳
  • 徴兵制度:男性は徴兵義務あり、女性はなし
  • 刑務所:収容先は、男性用・女性用と区別されている

上記の問題は、自己申告による性別変更が認められる2022年1月から生じる問題であるにもかかわらず、それらの問題に対する答えを政府がまだ用意していないことが問題だ、とSonntagsZeitungは指摘しています。

例えば、もし自己申告で女性だが身体的には男性が服役する場合、心と体どちらの性を尊重して刑務所に収監されるべきなのか。自己申告と体の性が一致していない服役囚が、他の服役囚に与える影響は問題にならないのか。

政府の回答は、「そんなにたくさん該当するケースが出てくるとは予想していないので、実際に問題が発生してから対応する」見解だそうです。

確かに、多数の人に該当する問題ではないかもしれません。

しかし心と体の不一致による波紋を、娘が間近で体験した私は、ちょっと考え込んでしまいました。

心と体の不一致が引き起こす波紋【本人も周囲も抱える悩み】

心と体の不一致が引き起こす波紋【本人も周囲も抱える悩み】

心と体の不一致による波紋を、娘が体験したのはバレエスタジオで。

ある生徒さんが、心は女性・体は男性という状態の方。この方にしてみれば、ご自分を女性と認識していらっしゃるから、更衣室は当然、女性用を利用するのが自然な形。

ところが他の生徒さんにしてみると、まだ体が男性の人が女性用の更衣室にいることは、とても違和感がある。

ほとんど毎週のように、どちらの性別を尊重して更衣室を使うべきかの押し問答があったようです。

「まわりは私をわかってくれない」というご本人。

そして、「気持ちはわかるけれど、生理的に受け入れられない」という他の生徒さんや親御さんの意見。

結局、バレエ教室の経営者である先生が、「あなたの気持ちはわかる。でも、私は経営者として他の生徒への責任もあるから、体が女性になっていないうちは、女性用の更衣室は使用禁止」と、意見をハッキリ表明したことで、押し問答に終止符が打たれました。

終止符が打たれたとはいえ、ご本人からはかなりご傷心の様子がうかがえたそう。当事者の苦しむ様子を目の当たりにしたまわりの人間には気まずさや罪悪感が残り、しかし相手の希望を誰も受け入れられないことで、かなりしこりが残ってしまったとか。

正しい答えがないことの難しさを娘との会話で痛感していた私は、具体的に問題が生じてから対応策を考えるというスイス政府の方針に一抹の不安をおぼえます。

でも、現代社会が直面する問題は多様性が増しているので、多様な状況で生じるであろうさまざまな答えを、初めから想定すること自体が困難なのかもしれません。

多様なテーマを議論し、必要性に応じて対応できる社会になったことは、すばらしい変化ですものね。今後の展開が、気になります。

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