【SWISS】今夏繁忙期に100便欠航決定/乗員不足の背景とは

スイスライフ

スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)が、来たる2022年7・8月の繁忙期に100便欠航するという発表が、スイス国内で波紋を呼んでいます。

2022年5月からコロナ予防対策がすべて撤廃されたことで、コロナ以前のように「自由を満喫できる夏休みの外国旅行」が、スイス国民には大人気。

そのお祭りムードに水をさす、自虐行為的なSWISSの欠航決定理由は、「コロナ禍の大量解雇による乗員不足」です。

しかし、コロナワクチン未接種のために現在乗務禁止・解雇となった乗員をあてがえば、SWISSの「ミニ・グラウンディング(=飛行停止)」は防げたという皮肉の事態を、スイスの日曜新聞が2022年6月12日に、報道しています。

そこで今回の記事では、スイス在住歴四半世紀・日本育ちで元エアライン勤務・心理学博士の私が、SWISSで発生しているトラブルの背景を解説したいと思います。

【SWISS:夏の繁忙期に100便欠航せざるを得ない理由】

【SWISS:夏の繁忙期に100便欠航せざるを得ない理由】。搭乗前の家族連れ

夏の繁忙期は、航空業界にとってかき入れどき。

しかも、スイス人にとって夏休みは、「国外旅行で羽を伸ばすシーズン」と言っても過言ではありません。

  • スイス国内の物価が高い
  • 安定さと強さを誇るスイスフランのおかげで、国外旅行はお得

といった背景から、コロナ予防対策のすべてが撤廃されたスイスでは、夏休みの国外旅行がちょっとしたブーム状態。

メディア報道でも、「夏の国外ビーチリゾートが大人気!」などと、しばしば取り上げられているのです。

そのような状況で、「SWISSが2022年7・8月の繁忙期に、100便欠航」というニュースは、スイス国内で大きな波紋を呼んでいます。

SWISSの100便欠航決定により、足止めを食らう乗客の数は、1万人

2001年に発生した、スイス国民にとって衝撃の出来事「スイスエアー・グラウンディング」をもじって、「ミニ・グラウンディング」と揶揄されるSWISSの悲惨な現状を引き起こした原因は、以下に取り上げる2点だと報道されています。

【SWISS今夏100便欠航】理由①コロナ禍の大量解雇

【SWISS今夏100便欠航】理由①コロナ禍の大量解雇

SWISSでは、コロナ禍に解雇された社員が、1700人(総社員の5分の1)。クルーにおいては全乗務員の15%が解雇という大幅な人員削減が行われました。

夏の繁忙期に100便欠航の措置だけでは、乗員不足が補えないため、SWISSの親会社であるドイツのルフトハンザ(2007年にSWISSを買収)が、70人の客室乗務員をSWISSに出向させることも、SWISSの広報が発表しています。

参照記事:Sonntagszeitung <Swiss lässt Ungeimpfte nicht arbeiten – trotz Personalmangel> (更新日2022/06/12) (閲覧日2022/06/12)

【SWISS今夏100便欠航】理由②コロナワクチン予防接種義務付け

【SWISS今夏100便欠航】理由②コロナワクチン予防接種義務付け

すでに2021年9月末の時点で、「2022年1月末までにコロナワクチンの接種を完了しないクルーは、解雇の対象になる」と、SWISSは明らかにしていました。

ワクチン未接種の乗員は、約半年間の自宅待機と決定。医学的な理由以外でワクチン接種を拒否する乗員は、雇用契約違反で解雇というSWISSの強硬策は、労働協約に反する内容ではないとされながらも、スイス国内では議論を呼んだのも事実です。

参照サイト:SWI swissinfo.ch <スイス国際航空、ワクチン拒否の乗務員は解雇も> (更新日2021/09/28) (閲覧日2022/06/12)

【スイス連邦のコロナワクチン完全接種率】人口の69.5%

コロナワクチン完全接種率とは?

  • コロナワクチンを一定期間内に2回接種
  • または、1回コロナに感染し(証明書が必要)、1回コロナワクチンを接種

以上の条件をクリアしている人の割合は、スイスでは総人口の69%。

ちなみに日本では、総人口の81%とのことです(スイスと日本のデータ更新日2022/06/11)。

参照サイト:Our World Data <Coronavirus (COVID-19) Vaccinations> 
(更新日2022/06/11)(閲覧日2022/06/12)

【SWISS今夏100便欠航】現地新聞が「自分で蒔いた種」と言及

【SWISS今夏100便欠航】現地新聞が「自分で蒔いた種」と言及

スイスの日曜新聞「Sonntagszeitung」は2022年6月12日の記事で、「SWISSの『ミニ・グラウンディング』は自分で蒔いた種」という主旨の内容を報道しています。

その理由は、コロナワクチン未接種のために「飛びたいのに飛べない」SWISS乗員が、総計150人いる事実。

うち何名が既に解雇されたのかについて、SWISSはノーコメントの姿勢ですが、コロナワクチン未接種による自宅待機組の乗員は、いつ解雇されるのかわからない状況のようです。

参照記事:Sonntagszeitung <Swiss lässt Ungeimpfte nicht arbeiten – trotz Personalmangel> (更新日2022/06/12) (閲覧日2022/06/12)

【SWISS今夏100便欠航決定の矛盾】現地新聞の指摘概要

【SWISS今夏100便欠航決定の矛盾】現地新聞の指摘概要
  • 乗員のコロナワクチン接種義務を条件に掲げている国は、世界でわずか:タイ・カナダ・ブラジル・シンガポール・インド・南アフリカ・アラブ首長国連邦のみ
    → 未接種の乗員が乗務できる路線を考慮すれば、大量欠航は免れたはず
  • SWISSはコロナワクチン接種を乗員に義務付けているにもかかわらず、3回目のブースター接種は要求していない理由が不明
    → 乗員にワクチン接種を義務付けた航空会社は世界でも少数派なのに、ブースター接種を徹底しないのは一貫性がない。機内のマスク着用措置が撤廃された現在では、なおさら乗員のワクチン接種が必要なのではないか?
  • スイス連邦でコロナ予防対策がすべて撤廃された今もなお、ワクチン未接種の「飛びたい」SWISS乗員は乗務できず、解雇路線をまっしぐら
    → SWISS上層部がメンツを失いたくないだけではないのか?

強制予防接種より解雇選択「飛びたいのに飛べない」SWISS乗員の意見

強制予防接種より解雇選択「飛びたいのに飛べない」SWISS乗員の意見

日曜新聞のインタビューには、現在休職中の女性パイロットと、解雇される前に早期自主退職の道を選んだチーフパーサーが登場しています。

おふたりは記事の中で、

  • 予防接種全般に反対する訳ではないが、コロナワクチンに対しては抵抗感があった
  • SWISS上層部に宛てたワクチン接種義務に関する疑問は、未回答のまま現在に至る
  • コロナワクチン接種後、有効期間切れのまま乗務に当たっている多くの乗員を、SWISSは黙認している
  • コロナ感染により、ワクチンを接種しなかったケースでは、感染証明書があっても乗務禁止

と語り、「飛びたいのに飛べない」自分たちが乗務を認められていれば、SWISSの大量欠航は防げたと示唆しています。

日曜新聞によれば、SWISSのコロナワクチン接種義務付けにより自宅待機・解雇となった未接種の乗員たちは、今週にも団結し、SWISSに対する法的処置を進める意向だとか。

訴訟沙汰になり、解雇の違法性を主張する未接種乗員たちが勝訴する場合には、

  • 退職に伴う給与支払い:パイロットは18ヶ月間/客室乗務員は6ヶ月間
  • 裁判費用

という多額のコストがSWISSに発生する可能性も、日曜新聞は指摘しています。

【SWISS大量欠航騒動】新聞報道から感じる違和感〜私見

【SWISS大量欠航騒動】新聞報道から感じる違和感〜私見

以下に記すのは、日本で航空会社に勤めていた、スイス在住歴四半世紀以上になる私の個人的な意見です。

このブログ記事でご紹介した日曜新聞を代表とするさまざまなスイスメディアが、SWISSの決定による今夏の「ミニ・グラウンディング」に関して、報道をしています。

それらの報道内容に目を通して私が感じる違和感は、

  • 航空会社にとって最重要なテーマ「安全性」に焦点が当たっていない
  • スイスでは「お客さま」ではなく、ただの「客」。しかし客の存在が議論に皆無
笑顔のCA

上記2点目、顧客への意識に関しては、

  • 航空会社だけではなくサービス業全般においての「おもてなし精神」が、個人主義と集団主義の文化では異なる
  • 勤務先は自己のアイデンティティに深く根ざしていないのが個人主義の特徴
  • 日本文化(私体験では特に航空会社)においての「自分の役を極める」精神は独特

という背景から、「サービスへの意気」という点で、日本と比べてスイスが劣っている、もしくは日本が過剰気味であるのは、当然だと思います。

機内の安全説明書

しかし1点目の安全性が、あまりにも軽視されているという印象を報道から受け、私は戸惑いを感じているのです。

SWISSの前身であるスイスエアーは、1998年にカナダの大西洋海上で、乗員乗客229名全員が死亡した墜落事故を起こしています。

にもかかわらず、SWISSの大量欠航に関するニュースで取り上げられているのは、「コロナワクチン未接種の乗員へのSWISSの対処がおかしい」という争点ばかり。

  • 人員不足のため、タイトなスケジュールで乗務にあたる乗員の心身健康管理への問題
  • 機内という密室空間で、コロナワクチン未接種の乗員が業務につくことの意味

といったテーマは、蚊帳の外。

乗務過多のストレスについては、上記の日曜新聞でインタビューに登場した女性パイロットが指摘しているのですが、報道内容全般から、「乗客」の姿が影も形も見えてこないことに対して、私は恐ろしさを感じます。

IATA(国際航空運送協会)のデータによれば、飛行機機内でのコロナ感染率は、未報告分を想定しても270万人に1件と推定されるとのことで、実際にはむしろ機内の方が感染リスクが低いようです。

関連リンク:IATA <機内での新型コロナウイルス感染リスクの低さを研究で示唆> 
(更新日2020/10/10)(閲覧日2022/06/12)

飛行機ファーストクラスの座席

けれども乗客の立場にしてみれば、「3密回避不能」の機内をできるだけ快適な空間にするための具体的な対応策を、航空会社に示してほしいと思うのです。

会社の上層部と乗員の間で繰り広げられるお家騒動の報道からは、LCCの「安全に客を運ぶ」精神さえも感じられないSWISSの現在の姿が浮き彫りになるようで、なんとも痛ましい思いがします。

【SWISS】強制予防接種より解雇選択:自己決定は直接民主制の影響

【SWISS】強制予防接種より解雇選択:自己決定は直接民主制の影響
引用元:スイス連邦 <直接民主制> (更新日2021/07/14)(閲覧日2022/06/13)

このパートでは、日本の感覚からすれば「違和感でいっぱい」とも言えるSWISS騒動の背景にあるのは、「スイス連邦の直接民主制」ではないかという私の推察について触れていきます。

ご存知の方も多いと思いますが、スイス連邦は日本の九州ほどの面積しかない小さな国。その中にドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語の4つの公用語があり、カントンと呼ばれる地方行政区画の26州から、連邦が成り立っています。

文化と言語が異なる人々が、集結してひとつの国になるためには、

  • 自分の意見を確立する
  • 相手に自分の意見をはっきり伝える
  • 相違点があれば議論を重ねて歩み寄る

という対応が必須。

その象徴が、日本のトップダウンとは正反対のボトムアップが行われているスイスの直接民主制です。

上記のボトムアップに伴うプロセスが、上手く作動していないとスイス人が感じる場合、彼らは非常に憤慨し、自分の権利を守るために必死で戦う姿勢を見せます。

それぞれの国民が「自分の意見の重さ」を意識して生活する国がスイスであるという体験は、毎日の生活の中でも私が感じていることです。

例えば、外国人の私の大学授業料は、スイス人より高いと気づいた友人たちが、すぐさまイニシアチブを利用しようと動いたお話は、コチラ↓。

【SWISS欠航騒動】トップダウンとボトムアップの文化の差

【SWISS欠航騒動】トップダウンとボトムアップの文化の差。Who's the BOSS? の文字

さて、SWISS騒動がこじれてしまった経緯ですが、

  • コロナワクチン接種を乗員に義務付けた際、SWISSの上層部がトップダウンで決定した
  • 疑問を持った乗員の質問に、SWISS上層部は無回答、もしくはあやふやな態度を示した
  • 自宅待機となった乗員の解雇状態も未公開

ということが報道から明らかになっています。

これらの内容を鑑みると、スイス人にとって大切なボトムアップによる個人の意見発信と、その後の議論・歩み寄りというプロセスが、SWISS騒動ではすべて無視されている状態だと判明します。

そしてここまでこじれてしまった裏側には、もしかしたら感情面での影響もあるかもしれません。

スイス国民にとって「空飛ぶロジャー・フェデラー」のように誇りの象徴だった、かつてのスイスエアー。ところが経営が破綻し、その後SWISSが発足。しかも今度はSWISSがドイツのルフトハンザに買収されたという事実を、忌々しく思っているスイス人は、けっして少なくはないのです。

コロナが落ち着いたとしても、スイス国民にとって大切な信条が尊重されていない社風のSWISSの未来は、明るいものとは言えないでしょう。

・・・すでに炎上している模様は、コチラ↓の記事にまとめました。

次回日本に帰国する際には、スターアライアンスの提携便でSWISSに当たらないように計画を立てねば、などと考えてしまうのも虚しいことです。

ヨーロッパ旅行中、万一欠航・遅延に巻き込まれてしまったら、EU規則261という法律で、補償金が出る可能性があります。詳細はコチラ↓の記事をご覧ください。

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