日本の皇室だけではなく、ヨーロッパの王室もお国の文化と伝統を今世に伝える担い手の存在。
けれども時代の変化とともに、人々の多様性を尊重することの大切さが社会で取り上げられるようになった今、ヨーロッパでは
「王室の継承者は同性のパートナーと結婚できるのか?」
という議論が注目を集めています。
一般市民におけるLGBTの権利は、王室の継承者にも適用されるべき。けれどもそのためには、王室の継承法を書き換える必要があるので、王室は「伝統vs.現代」の板バサミ状態をどのように解決すればいいのか、という問題に直面しています。
そこで、今回の記事ではコチラのテーマを取り上げることにしました。
ヨーロッパ王室の王位継承者は
- 同性と結婚できるのか
- 結婚相手が同性の場合、継承権の行方はどうなるのか
- 該当国では同性結婚/養子縁組の権利は認められているのか
スイスには王室はありません。けれども、スイス漂流四半世紀の私、毎回美容院を訪れるたびに雑誌で仕入れているヨーロッパの王室情報を使う場に恵まれて、シアワセ♪
【まとめ】ヨーロッパ王室とお国でのLGBTの権利

「国・地域別のLGBTの権利」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2021年11月13日 14:30 UTC
現在、同性婚を希望・表明している王位継承者はいないので、王室/政治家/世論の発言を元に、
「もし、王位継承者が同性婚を望むなら、結婚は可能か?」という予想をしました。
王位継承者の同性婚 | 一般国民の同性婚 | 同性カップルの養子縁組 | |
オランダ | ○ | ○ 2001年〜 | ○ |
スウェーデン | ○ | ○ 2009年〜 | ○ |
ベルギー | ○ | ○ 2003年〜 | ○ |
ノルウェー | ○ | ○ 2009年〜 | ○ |
イギリス | ✖️ | ○ 2014年〜 | ○ |
スペイン | ▲ | ○ 2005年〜 | ○ |
デンマーク | ✖️ | ○ 2012年〜 | ○ |
○=王位継承者の同性婚が認められる可能性大
✖️=王位継承者の同性婚はおそらく難しい
▲=王位継承者の同性婚について意見がわかれている
ヨーロッパ王室の王位継承制度:長子優先/男子優先
- 長子優先の王国:オランダ・スウェーデン・ノルウェー・ベルギー
- 男子優先の王国:イギリス・スペイン・デンマーク
王位継承者の同性婚を認めるであろうお国は、すべて長子優先の継承制度というのも、非常に興味深いですね。
オランダ王室

王位継承者:アマリア王女(2003年12月7日生まれ)
「未来の女王/王に同性結婚の自由はあるのか」というテーマが、ヨーロッパで議論されるきっかけを生んだのは、オランダでの出来事。
ことの発端は2020年9月に遡ります。
オランダの王位継承者・アマリア王女についての本(Amalia – De plicht roept)の著者で政治家のPeter Rehwinkel氏が、オランダの新聞社とのインタビューで「もし、アマリア王女が同性との結婚を望んでも、実現はできない」と、発言しました。
この発言を受け、オランダのノッテ首相が「アマリア王女は、本人が選んだどんなお相手とでも結婚できるし、王位継承権も変更されない」と書面で公に回答したことが、波紋を呼びました。
ただし、女王になったアマリア王女の継承権については規範の調整が必要となりますが、現時点ではすべて「もし…だったら」の仮想段階なので、具体的な変更案は決まっていないようです。
しかし現実問題となれば、オランダは同性婚を世界で最初に合法化した国なので、柔軟な対応が期待されます。
王室側は、今までノーコメントの状態です。
オランダ・アマリア王女、首相へ手書きの手紙を送り公費を辞退
2021年の12月、誕生日を迎えて18歳になれば成人として公費を受け取ることになるアマリア王女は、ノッテ首相に手書きの手紙を送りました。
手紙の中でアマリア王女は、
- 学生の間は公務を完全に遂行できない
- コロナの影響で経済的に苦しんでいる国民が多数いる
ことを理由に、年間約2.2億円(人件費1.7億円、アマリア王女のお手当約4400万円)の公費を辞退したい意向を表明。
高校を卒業したばかりのアマリア王女は、1年間ギャップイヤーを取る予定だそうですが、オランダ国民でなくても未来の女王の今後が本当に楽しみです。
イギリス王室

王位継承者:ジョージ王子(2013年7月22日生まれ)
イギリスの女王/王は、英国国教会のトップも兼ねているのですが、教会は同性同士の結婚を認めていないとのこと。
ですから、もしジョージ王子が同性のお相手と恋に落ちたら、結婚か王位の選択を迫られることになると、現段階では予想されます。
万一現実にそのようなことが起きれば、ジョージ王子の次に位置するシャーロット王女が、王位継承者として女王になると思われます。
王室側は、この件に関して一切ノーコメントです。
スペイン王室

王位継承者:レオノール王女(2005年10月31日生まれ)
スペインのラジオ番組によれば、「レオノール王女は女性と結婚できるが、王室規範の変更が必要」とのこと。
これに対し、規範専門家が「規範は男性主義で書かれているし、王位継承権も王子が王女より優先されているくらいだから、同性婚は難しいのではないか」と発言しています。
王室はコメントを発表していません。
男子制度のスペインでレオノール王女が未来の女王になる理由
レオノール王女の父上フェリペ6世は、ファン・カルロス1世の第3子ですが、男子制度に従い王位継承者となりました。
もしフェリペ6世に男子が誕生すれば、レオノール王女ではなく弟が王位継承者として優先されますが、レティシア王妃は1972年のお生まれなので、可能性は低いと思われます。
現在のスペイン王室は、言うなれば「男子優先の長子制度」を適用し、女子しかいない場合には王の直系である長子が継承者に選ばれる状況のようです。
スウェーデン王室

王位継承者:エステル王女(2012年2月23日生まれ)
スウェーデンでは1979年に王位継承法が改正されたので、性別に関係なく、長子が王位継承者に選ばれます。
同性婚については、王室が肯定的なコメントを出しています。
「王位継承者の結婚に関しては、いずれにせよ議会の承認が必要となりますが、今の時代、同性同士で結婚できますから」とのこと。
もし同性婚を希望する女王/王が誕生したら、その後の継承者問題もオープンな議論で解決しそうです。
愛するヴィクトリア王太子のために学び続けた誠実なダニエル王子
エステル王女のご両親、ヴィクトリア王太子がダニエル王子とお付き合いを始めてから結婚にこぎつけるまでに要した期間は、なんと7年ほど。
摂食障害に悩んでいたヴィクトリア王太子のフィットネストレーナーだったダニエル王子が恋人らしいと発覚した当初、世論は「早く別れて!」「似合わない!」など非難轟々でした。
口うるさい外野だけではなく、ヴィクトリア王太子のお父上、カール・グスタフ国王も交際に大反対と報道されていました。
ところが、ダニエル王子は未来の女王の結婚相手としてふさわしい存在になれるよう、王室メンバーとして必要なマナー・教養・外国語を懸命に身につける努力を地道に重ねます。
そんなダニエル王子の姿勢からうかがえる誠実な人柄は、次第に国民にも愛されるようになりました。
私がいつも美容院で手にしている雑誌でも、時間の経過とともに
「あれ?ダニエルさんまだ頑張ってるの?」
「ヴィクトリア王太子の体調が安定して元気そうなのは、ダニエルさんの影響かも?」
「ダニエルさんはヴィクトリア王太子を幸せにできる! 彼の努力を認めてあげよう」
と好転したことをおぼえています(筋金入りのロイヤル・フォロワーの私)。
2010年の結婚式は、まさに国をあげての祝福ムードに包まれていました。
私がストックホルムをクルーズで訪れたときにも、さまざまな観光スポットで王室関連の情報が満載。国民に愛される王室の存在を至るところで感じました。
ノルウェー王室

王位継承者:イングリッド・アレクサンドラ王女(2004年1月21日生まれ)
ノルウェー王室スポークスウーマンのコメントによれば、「同性婚と継承者の結婚相手に関しては、法律に記載がない。もし女王/王に子どもが生まれないのであれば、次の継承者が女王/王になる」とのこと。
コメントからは、同性婚とその後の継承者問題が、ノルウェーではまったく問題とみなされていない印象を受けます。
ノルウェーのメッテ=マリット妃、記者会見で過去の行いを涙の謝罪
ノルウェーの王室では20年前、イングリッド・アレクサンドラ王女のご両親、ホーコン皇太子とメッテ=マリット妃のご結婚が決まるまでは、今の日本並みの大騒動がありました。
メッテ=マリット妃が未婚で、麻薬所持で逮捕されたことがある男性との間に第1子を産んでいることが批判の的になり、大騒ぎ。
最終的には、メッテ=マリット妃が会見で自らの過去を涙ながらに謝罪。記者会見を見た私まで、涙したおぼえがあります。
メッテ=マリット妃の心がこもった謝罪の言葉と態度は国民の胸を打ち、無事結婚にこぎつけたおふたり。結婚後は、チープシックでH&Mの服を着こなし、公務に励む姿が話題となり、王室の支持率もダメージを受けずに済んだとか。
私の住むスイスでは「メッテ=マリット妃のセーター、売り切れです!」とH&Mに掲げてあった記憶があります(私はゲットしていません)。
デンマーク王室

王位継承者:クリスチャン王子(2005年10月15日生まれ)
デンマークでは、同性婚に関して王室や政治家からのコメントは、なし。
王室専門家が、「政治・社会・王室を巻き込む議論が大々的に行われるだろう。王室は、一般人よりも伝統を重んじる世界だから」と発言している様子から、同性婚の実現はまだ難しそうな雰囲気ですね。
2019年には、デンマーク王室4人の王女/王子がスイスの学校に入学したと話題になりましたが、2021年現在、クリスチャン王子はコペンハーゲン郊外にある寄宿学校に進学したそうです。
ベルギー王室

王位継承者:エリザベート王女(2001年10月25日生まれ)
1991年に王位継承法を「長子優先」に改正したベルギーでは、エリザベート王女が予定通りに王位を継承するのであれば、ベルギー初の女王になるそうです。
ベルギーのクロー首相は、「女王/王の結婚相手の性別に関するきまりはない」と明言しているので、ベルギーでは王位継承者の同性婚は認められそうです。
王室は、ノーコメントのようです。
2021年の秋からオックスフォード大学で学ぶエリザベート王女は、フランス語・オランダ語・英語・ドイツ語を操るマルチリンガル。
オランダのアメリア王女と同様に、エリザベート王女も大学生の間は本格的な公務を始めることができないので、公費の受け取り拒否を表明しています。また、2020年にはベルギー王立の陸軍士官学校で厳しい訓練も受け、すでにご自分の慈善事業を積極的に行なっている点も、国民が好感を持つ理由のようです。
娘のいとこがベルギーに留学中なのですが、王室のないスイス育ちの彼女は、ベルギー人が王室を愛する様子にとても驚いています。

ベルギー王室御用達のチョコレートをお土産に買ってきて欲しいと頼んだら、白い目で見られた私。『スイスのチョコが世界一よ!』とティーンエイジャーに叱られてしまいました。
今回の記事をまとめて感じたことは、ヨーロッパ王室の王位継承者たちが、国民の目に見える形で責任のある行動を取っている清々しさ。
伝統と自分の権利にはさまれて成長することは、けっしてたやすくないはず。
それでも、国民に内容が伝わるメッセージと、言葉に伴う真摯な態度を示すロイヤルファミリーは、伝統の担い手として国民に尊敬され、「文化の源」として愛されるのではないか、と思いました。
王位継承者でも一般人でも、権利・責任・自分らしさのバランスがうまく取れる状態が、幸せになれる鍵ではないか、と私は思います。
<参考サイト>
20min.ch : Darf der royale Thronfolger-Nachwuchs gleichgeschlechtlich heiraten?(更新日2020/11/11)(閲覧日2021/11/13)
朝日新聞デジタル:7年越しの愛、涙の会見…様変わりする、世界のロイヤルウェディング(更新日2020/10/23)(閲覧日2021/11/13)
フリー百科事典 ウィキペディア日本語版:カタリナ=アマリア・ファン・オラニエ=ナッサウ(更新日2022/06/03 UTC 10:56)(閲覧日2022/08/09)
フリー百科事典 ウィキペディア日本語版:ジョージ・オブ・ケンブリッジ(更新日2022/06/15 UTC 14:32)(閲覧日2022/08/09)
フリー百科事典 ウィキペディア日本語版:レオノール・デ・ボルボン(更新日2022/07/20 UTC 17:23)(閲覧日2022/08/09)
フリー百科事典 ウィキペディア日本語版:エステル (エステルイェートランド公)(更新日2022/03/22 UTC 14:12)(閲覧日2022/08/09)
フリー百科事典 ウィキペディア日本語版:イングリッド・アレクサンドラ(更新日2022/05/13 UTC 17:07)(閲覧日2022/08/09)
フリー百科事典 ウィキペディア日本語版:クリスチャン (デンマーク王子)(更新日2022/04/13 UTC 17:25)(閲覧日2022/08/09)
フリー百科事典 ウィキペディア日本語版:エリザベート・ド・ベルジック(更新日2022/05/04 UTC 08:33)(閲覧日2022/08/09)