差別でぼっちの私を過保護扱いする講師の真意【スイスの大学学士課程】

スイスライフ

大学入学後に選抜試験が行われるスイスの公立大学心理学部で、合格者が確定するまでの期間、いつもグループ作業でぼっちだった私を、過保護扱いしたひとりの講師。

その行為の裏には、個人的な差別体験があったと知り、私がホロリとしたお話です。

【スイスの大学学士課程】講師がグループ作業でぼっちの私を救助作戦

【スイスの大学学士課程】講師がグループ作業でぼっちの私を救助作戦

入学希望の学生が殺到するため、スイスにある公立大学の心理学部では、「大学入学後の選抜試験(Propädeutikum=プロペドイティクム)」が実施されています。

選抜試験の合格者が確定するまでの期間、試験以外にも数多くのグループ作業で単位を取る必要があったのですが、その際私は毎回、完全なぼっち状態。

ところがある日、ひとりの講師(Aさん)が、ぼっちだった私を何が何でも助けようと、ムキになってしまったのです。

講師の善意は私にとって「ぼっち強調」の迷惑行為〜スイスの大学で

講師の善意は私にとって「ぼっち強調」の迷惑行為〜スイスの大学で

A講師が担当していたプレセミナーでは、

  • 与えられた課題の研究現状を賛成派・反対派両方の検証結果で比較
  • 今後の展開を自分の意見としてまとめ、結果を口頭プレゼンテーションと筆記レポートとして提出

という形で、採点が行われていました。

課題を担当するグループは、通常2〜3人でしたが、私は1人でこなすのが、常でした。

夏休み前の学期末まで、あとひと月を切った頃のこと。

手元に戻ってきた「担当テーマとグループメンバー」のリストを一瞥したA講師は、私に視線を向けると「あなた、またひとりなの?だけど、今回の課題は、ひとりでこなすのには、量が多すぎます」と発言。

私が返事をする間もなく、「まだ2人組のグループの皆さん! コチラの学生さんを、グループに入れてあげてください!」と、A講師は学生たちに話しかけたのです。

シーンと静まり返った大学の教室内で、経過した時間はおそらく数分。

だけどこの数分は私にとって、まるで「市中引き回し」をされているかのような、つらくて長い時間に感じられました。

私のぼっち解消に挑んで失敗したスイス大学講師からの差別体験告白

私のぼっち解消に挑んで失敗したスイス大学講師からの差別体験告白

A講師の「お願い」は、失敗に終わり、結局私はいつものようにひとりで課題を仕上げてプレゼンを終え、レポートを提出。

誰も名乗りでない教室内で、「どうして誰も、この学生さんをグループに入れてあげないの?!」と、名指しで注目を浴びてしまった私にしてみると、A講師の善意による行為はちょっとしたトラウマで、「余計なお世話を焼かれて迷惑」とさえ、感じていました。

自分の家族が体験する差別を私のぼっち状態と重ねたスイス人大学講師

自分の家族が体験する差別を私のぼっち状態と重ねたスイス人大学講師

私が大学に在籍していた当時は、まだアナログ時代。

学期末になると、単位が取れた各学生の履修帳に、教授や講師が個別にサインをして「履修済み」と記入する習慣がありました。

なんとか無事に単位が取れた私もサインを頂戴し、ホッとしていると、A講師に呼び止められました。

その後、ふたりだけになった教室で、A講師はご家族の写真を、私に見せてくれたのです。

A講師はスイス人ですが、ご主人はアフリカ系アメリカ人。そして可愛いお子さんは、ハーフの男の子(当時小学生)。

A講師のご家族は、それまでアメリカ暮らしで、スイスに居住地を移してからまだ日が浅く、「スイスで『明らかに外国人』である自分の子どもと、パートナーが体験する差別に、ショックの連続なの」と、おっしゃっていました。

「だから、仲間はずれをされているあなたの姿と、息子の姿が重なってしまって…。でも、逆にあなたを傷つけてしまったでしょう?」と聞かれ、言葉が見つかりませんでした。

差別を受けているスイス人講師の子どもに「日本語記名」をお願いされる

空手を練習中の男の子

差別体験は、経験者でないと理解できない部分が多い問題です。

ご家族が自分の国で差別される当事者となり、まだ困惑している状態だったA講師にとっても、私にとっても、この語り合いの時間は、非常に中身の濃いひとときとなりました。

この当時、まだ選抜試験に合格できるかどうか未定だった私に、「あなたには、絶対に受かってほしい。心から応援しているから!」と、エールを送ってくださったA講師。←A講師は、選抜試験の担当者ではありません。念の為。

合格祈願に、私の履修帳にだけ「緑」のペンで、署名をしたことを告げられ、驚いていると、「実は、息子に頼まれたことがあって…。もしよければ、彼の名前を日本語で、持ち物に記入してくれる?」と、お願いされました。

ドイツ語圏では、「緑」は希望を象徴する色です。

小学校でのいじめ体験に抵抗できるように、空手のレッスンを始めた息子さんは、その影響で大の日本ファンになったとか。

日本人の学生が大学にいるとA講師から聞いた息子さんは、「日本語ができるなんてものすごく格好良いから、僕の大切なものに日本語で名前を記入してもらえるかどうか、頼んで!」と、おねだりしたそう。

空手用のスポーツバッグと小物・いちばんお気に入りのジャケットを、「多すぎる?全部に、書いてもらえる?」と、A講師に恥ずかしそうに手渡された私。

一生懸命、綺麗な文字で、お子さんのお名前を持ち物に記しながら、胸が熱くなりました。

ニッペンの美子ちゃんで習得した美文字が、まさかスイスで役に立つとは!

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無事選抜試験を突破できた私は、学士2年に進級した際、A講師のプレセミナー教室を訪れ、合格を報告することができました。すごい勢いで、ハグされた(笑)。

その翌週、合格祝いとしてA講師に午後のお茶に招待されるという、うれしいハプニングまで頂戴しました。

私からの返礼として、息子さんが希望するのであれば、もっと多くの持ち物に、彼の名前を記名することを提案。

その翌々週、息子さんがとても大事にしているというカランダッシュの色鉛筆セット全色(40色くらい)に、日本語で彼の名前を記入しました。

「普段は、誰も触っちゃダメな貴重品なの」だそうで、私にとっても、今でも心温まる思い出になっています。

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