【スイス大学体験記】心理学は入学後に受験がある唯一の学部

スイスライフ

スイスの公立大学で、入学後に選抜テストがある唯一の学部が心理学

スイスの公立大学心理学部での受験科目と合格に必要な条件、そして外国人でアラサーという不利な状況で受験に臨んだ私が合格できた奇抜な作戦を、ご紹介します。

現在では入試システムが一部変更となっているので、私を合格に導いた作戦そのものは、参考にならないかもしれません。でも今、世界のどこかで、資格取得に奮闘中またはこれから何かにチャレンジしたい読者の方に、私が苦境で得た成功体験のポジティブパワーが届くことを願い、この記事を綴ります!

【スイス大学体験記】心理学部の入試科目は各公立大学で異なる

【スイス大学体験記】心理学部の入試科目は各国公立大学で異なる

心理学部では各州立大学で、入試科目が異なります。コチラ↓はドイツ語圏にある大学での一覧表。

冬セメスター春セメスター
フリブール大学一般心理/臨床心理/発達心理検証論/統計
チューリッヒ大学統計入門/感情/やる気/社会心理/
検証方法入門/認知/発達心理/生物心理
同じ科目(内容は別)
ベルン大学心理学入門/心理学検証法入門/科学研究/統計1/発達心理1/認知心理/生物心理1/社会心理1発達心理2/学習と記憶/生物心理2/社会心理2/統計2
バーゼル大学科学研究方法と統計/認知心理/基礎生物学/社会心理/発達心理/臨床心理同じ科目(内容は別)
注:スイスNo.1の大学として有名な連邦工科大学チューリッヒ校には、心理学部はありません。

ドイツ語圏の大学では、入試はドイツ語で行われます。

ただし、各科目で指定されている「本」(私の場合は科目別に3〜5冊でした。しかもすべて10cmほどの分厚さでフォントサイズ8の超小文字)のうち、3分の1ほどは英語の本。

つまり、英語で学んだ知識をドイツ語で解答する必要があることはスイス人学生にとっても、心理学入試の難易度を上げる追加要因になっています。

スイスでは、自分が選んだ大学に入学申請できるので、入試科目をあらかじめチェックした方が、いいでしょうね。詳細は、コチラ↓の記事へ。

私は学士・修士をフリブール大学で(世界大学ランキング400位前後)、博士をバーゼル(同100位前後)で取得したのですが、最初からバーゼルだったら、不合格確実だった気がします。自分で気づかぬうちに、学歴ロンダリングに成功していたとは(笑)。

ラテン語満載の生物学は、ハードルが高い…。ちなみにフリブールでは臨床心理が主専攻の場合のみ、修士課程で神経生理学が必須でした。

【スイスの大学心理学部の入試条件】2度の受験で全科目合格必須

【スイスの大学心理学部の入試条件】2度の受験で全科目合格必須

胸を膨らませて大学に進学した新入生たちを待ち受けている心理学部の入試が厳しいことは、スイス社会で有名なお話。

大学新入生の専攻が心理学部だとわかると、皆一様に「おぉ、それは…(絶句)」的な反応を示します。

心理学部のPropädeutikum(プロペドイティクム)入試合格条件の内訳は、

  • 各大学が指定した全入試科目の合格必須(6段階採点のうち4以上が合格ライン)
  • 再試験は1度だけOK
  • 再試験不合格の場合、スイスの全大学で心理学専攻は不可(副専攻ならば可能)

私の母校・フリブール大学を例に挙げますと、入試科目は一般心理学/臨床心理学/発達心理学/検証論/統計学。

例えば統計学だけが3以下の成績で、他の科目は最高評価の6だったとしても、入試結果は不合格です。

「バーゼルで2回不合格だったから、もっと楽そうなフリブールで受験に再挑戦」という、不合格を帳消しにする方法も、ありません。

実際フリブールで数人、そのような学生が紛れ込んでいたのですが、大学入学時に各学生に割り当てられる学生番号は、スイス全土で共通。ですからごまかそうとしても、すぐに発覚し、大学側は除籍処分にしていました。

【スイスの公立大学心理学部での入試】入学後の受験は劣悪環境

【スイスの公立大学心理学部での入試】入学後の受験は劣悪環境

受験戦争は、日本育ちの私にとって、馴染み深い現象です。

けれども、大学新入生としてキャンパスに足を踏み入れてから、学生が入試に挑むというスイスの心理学部での環境は、本当に最悪。

Propädeutikum(プロペドイティクム)の入試科目は、大学の講義で学ぶ内容なので、机を並べている学生は、自分の敵とみなすトゲトゲ感が、大学の講堂に充満していました。

スイスの大学は、冬と春の2セメスターに分かれていて、冬が入学の時期。

数年前にシステムが変更となり、

  • 旧:春セメスターの終わりに全科目を一度に受験
  • 新:冬と春のセメスターで、入試科目を分割して受験

という方式を、各州立大学が適用しています。

新システムのメリットは、

  • 入学後半年以内のテストにより、自分の立ち位置が早めにわかる
  • テストを分散して受ける方が、楽

1度目のテストが不合格なら、再試に挑戦するか、他の学部に変更するかを早めに決断できるので、心理的ストレスを感じる期間が短縮されますからね。

殺伐とした空気と過大なプレッシャーが約10ヶ月続く旧システムでの受験体験者である私は、受験生たちの苦しむ期間が少しでも短くなったことは、非常に良かったと感じています。

なにしろ受験が終わるまで、他の学生との友人関係なんて、結べる状況ではないので。←現在、娘の友人もこの環境で苦しんでいる最中です。孤独感が、ハンパないそうです。

【スイスの公立大学心理学部での入試】私が受験に成功した奇抜な作戦

【スイスの公立大学心理学部での入試】私が受験に成功した奇抜な作戦

上記の通り、旧システムでは1回目の受験日が、春セメスターの終わりに設置されていて、受験生は指定された全科目を一度に受験するのが通例でした。

スイス人でさえ簡単に合格できない入試を孤立無援の状態で突破するために、私が立てた作戦は、

  • まず不合格者の状況を分析
  • 自分自身の能力を現実的に見つめる
  • 毎日のお経:「挑戦して失敗しても、挑戦しなくて後悔するよりマシ」と自分を説得

といった内容でした。

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格狙いの奇抜な作戦

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格狙いの奇抜な作戦
  • 受験のチャンスは2回までなので、1度目の受験日にあえて2科目だけ準備して受験。2度目に3科目をガリ勉して受ける
  • 1度目の受験日に準備する科目:一般心理学・発達心理学
  • 2度目の受験日に準備する科目:臨床心理学・検証論・統計学

一般心理学は唯一のマークシート方式だったので、ドイツ語のハンディキャップがある私でも、なんとかなる確率が最も高い科目と、希望的観測。

発達心理学は、自分も成長して大人になったわけだし(笑)、セオリーをいちばん理解しやすい科目だと思ったのです。

スイスの大学入学資格を取得するために、数学を徹底的に学び直したばかりだった私は、多くの心理学部受験生が苦手とする検証論と統計学は、さほど苦にならないラッキーなタイプだったので、1度の受験でまあなんとかなるだろうと推測。

臨床心理学だけは、ドイツ語での専門用語が難しすぎて、丸暗記すらできないレベルでしたので、発達心理学での筆記試験で腕試しの結果を見てから、対策を考えようと決めました。

続けて私の合格作戦に至った秘訣を、ご紹介します。

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格の秘訣①不合格者の分析

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格の秘訣①不合格者の分析

秘書課のお知らせボードには、再試として行われた前回のPropädeutikum(プロペドイティクム)テスト結果が貼り出されていたので、そのデータを元に、不合格者の傾向を探ることにした私。

すると、不合格者には以下の2つのパターンがあることが判明しました。

  • 少数派:統計学だけ再試験を受けるも、不合格
  • 多数派:5科目全部を再試験で受けた結果、不合格。理由は、2〜3科目が3以下の成績だった

このことから、

  • 統計学で不合格になったのは、数学が苦手な人たち
  • 5科目全部同時に合格レベルに達することは、困難

なのではと、推測したのです。

逆に言えば、合格者たちは5科目ともにすんなりと、合格ラインに達した学生たち。

けれどもドイツ語が下手な私はどう考えても、典型的な合格組に当てはまらないことは、太陽が東から昇るのと同じくらい、確かなことでした。

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格の秘訣②自分の能力を知る

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格の秘訣②自分の能力を知る

そこで私は、「1度目のテストで4以上の合格ラインであれば、2度目に再試験を受ける必要はない」という事実に注目。

考察の結果、私は思い切って、1度目の受験日で2科目だけ準備し受験、そして夏休み後の再試験日で3科目を受けることにしたのです。

テストは病欠などやむを得ない事情がない限り、自分都合で「パス」はできません。

ですから、1度目の受験日に自ら3科目不合格の道を選ぶなど、自暴自棄の行為。

でも、自分のドイツ語能力が十分でないことを、毎日の講義で痛感していた私は、まず腕試しに2科目受験することで、「スイスの大学で心理学を学ぶ」という夢が手の届く位置にあるのか、知るべきだと思ったのです。

もし運よく2科目、たとえ1科目でも合格点なら、その後自分を奮い立たせる原動力になるとも、考えました。

ちなみに当時の私のドイツ語レベルは、ゲーテ・インスティトュートのC1、英語はケンブリッジ英語検定のB2レベル。

特にドイツ語筆記能力は、まったく足りませんでしたね。Wordでレポートを書くと、訂正箇所で文書全体が真っ赤に染まり、自分で笑っちゃうほどでした。

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格の秘訣③前向きなメンタル

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格の秘訣③前向きなメンタル

スイス人学生たちも、「テストに合格して、心理学部の学士課程に正式入学できるかどうか」で、切羽詰まった状態でしたので、外国人でアラサーである私へのイジメは、強烈でした。

まわりから無視されるだけではなく、大学構内に足を踏み入れると、「バカな牛」というドイツ語での女性に対する差別表現を毎日(!)熱心に浴びせてくる2名の学生もいて、凹むという言葉では足りないほど、地球の裏側まで落ち込む気分でした。

最初の頃は、毎日トイレで泣きました。

でも、私は誓ったのです。

「意地悪してくる他人のせいで、大学を辞めることは、絶対しない。私が心理学部を去る理由は、自分の力が足りなくて、受験に失敗した時だけ」にすると。

だって、誰のものでもなく、私自身の人生ですから。負けた理由を、他人に押し付けることは、したくありませんでした。

そう決意してからは、

挑戦して失敗しても、挑戦しなくて後悔するよりマシ

というセリフを毎日お経のように、心の中で繰り返していました。

ちなみに、この2名のイジワル学生は、受験に失敗。私が喜んで高笑いをしたかが知りたいですって?そんなの当たり前でしょ。オーホッホ。

まぁ、自分が厳しい状況にいたから、彼女たちは私をターゲットにしていたのでしょうけどね…。それにしても、しつこすぎたので。

【スイスの公立大学心理学部での入試】私の奇抜作戦を分析した教授

【スイスの公立大学心理学部での入試】私の奇抜作戦を分析した教授

1度目のテストで、マークシートの一般心理学は5.5点(6点満点)、筆記形式の発達心理学では4.5点で、奇跡的に合格ラインに達した私。

準備なしで受けた3科目は、臨床心理学が1.5点(ちなみにその後私の専門分野。笑)、検証論が3点、統計学が3.5点と、私が予想した以上の「好成績」での不合格結果でしたので、夏休みに全力で勉強すれば、合格できる自信が湧いてきました。

1度目のテスト結果発表後、夏休みに入る直前に行われた統計学の最後の授業は、再試に向けてのQ&Aということで、まだ3科目不合格とはいえ、私は初めて晴れやかな気持ちで、大学に足を向けたことを、今でも覚えています。

講義の終盤のことです。

「実は、今回の入試結果で、非常に気になる成績を残した学生がいました」と、教授がスクリーンに大写しにしたのは、なんと私のテスト結果!

以下は、教授の分析発言です。

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常々私は、「入試科目を分割して受験すれば、合格率は上がるはず。それなのに、なぜどの学生も、一気に5科目を受験するのだろう?」と疑問に思っていました。

ところが今回、合格の秘訣を把握して受験した学生がひとり、いたようなのです。

臨床心理学での1.5点という成績は、私の記憶では、入学試験導入以来の最低点ではないかと思います。

だけど、これはできなかったのではなく、準備せずに受験したからではないかと、私は予想します。

検証論は3点、統計学は3.5点ですけど、準備なしに受験してこのレベルなら、この学生はおそらく、数学系の科目は不得手ではないはず。

多分夏休みに、専門用語が最も多く、テスト準備に時間がかかる臨床心理と、苦手ではない数学系のテスト2つを組み合わせることで、入試突破を図ったというのが、私の推測なのですが…。違いますか?

***********

私の受験合格大作戦を、いとも簡単に見破った、鋭い教授の考察力。

「やっぱり大学教授って、頭が良い〜!」と、驚きました(笑)。

「今日教室にいるのなら、予想が当たっているかどうか興味があるので、できれば名乗り出てほしい」と、おっしゃった教授。

そしてこの時、私は大学で学び始めてから初めて、挙手をしたのでした。

もちろん、スイス式で。

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格後は充実した学生生活満喫

【スイスの公立大学心理学部での入試】合格後は充実した学生生活満喫

「枠からはみ出る思考力を持つ学生は、大学でより多くのことを吸収できるでしょう」とまだ合格前なのにお褒めの言葉を頂けたことは、2度目のテストに挑む私にとって、最高のモーティベーションとなりました。

そしてこのコメント以来、スイス人学生の私に対する見方も、変わったと実感しました。

夏休みの猛勉強が効果を発し、統計学6点・検証論6点・臨床心理学4.5点で、受験は成功! ←臨床の得点は低いけど、合格したので、上出来(笑)。

学士課程(トータル3年)の2年目からは、入試に合格した学生だけの環境となったので、キャンパス内での雰囲気もガラリと好転し、友人にも恵まれ、充実した楽しい学生生活を過ごすことができました。

あの頃の私のように、歯を食いしばって全力で奮闘しているあなたの夢が、実現しますように! スイスから、応援しています。

学士1年目、選抜試験前だった私のお涙頂戴物語は、コチラ↓。

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