スイス連邦大統領兼外務大臣カシス氏の2022年4月18日からの初来日を前に、「ヘルプマークのデザインはスイスへの軽蔑行為」と考える日本在住のスイス人の記事が現地で報道されています。
ヘルプマークの意義・スイス国旗の背景と私の思いを綴る記事です。
【スイス国旗に瓜二つ?】ヘルプマークとは?
義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマークです。
引用元:東京都福祉保健局 <ヘルプマーク>
【スイス国旗に瓜二つ?】ヘルプマークはなぜ赤地に白十字とハートマークなの?
−−なぜデザインが、赤地に白十字とハートマークなのですか?
デザインにあたっては、日本グラフィックデザイナー協会にご協力頂きました。赤色と「+」マークは「助けを必要としている」という意味、ハートマークは「助ける気持ち」を意味しています。
引用元:HUFFPOST <「ヘルプマーク」に込められた意味は 東京発、全国に拡大へ>
(更新日2016/03/28)(閲覧日2022/04/15)
コチラ↑HUFFPOSTの記事では、ヘルプマーク作成の経緯について、ヘルプマーク配布元である東京都障害者施策推進部計画課の篠さん(記事掲載当時)がインタビューに答えていらっしゃいます。
インタビューを読んで、私はヘルプマークが大変意義のあることだと感じました。記事を通して、ヘルプマークの普及に励む方たちの優しい思いが伝わってきます。
私自身、切迫流産の恐れがあって4ヶ月間自宅で絶対安静だった経験があります。あいにく通院日が大雨でタクシーがつかまらず、やむなく公共のバスに乗車したものの、空席はなし。周囲に援助が必要なシグナルを出す方法もなく、途方に暮れた記憶があるのです。
当時の私と似たような経験をされている方にとって、ヘルプマークの存在は、少しでもストレスが減るきっかけになるのではないでしょうか。
ぱっと見ではわからない苦しみって、想像以上にたくさんありますからね。
【スイスネス法】スイス国旗:赤地に白十字は濫用禁止の法律
・・・とはいえ、ヘルプマークとスイス国旗は、どう見ても似ています。
試しに娘と夫にヘルプマークを見せたところ、「スイスが好きなシンボル?」との答え。
あまり知られていないことかもしれませんが、スイス国旗(赤地に白十字)と赤十字社(白地に赤十字)のシンボルマークは、実は法律で濫用が禁止されているものなのです。
スイス人のアンリ・デュナンさんにより創立された赤十字社のシンボルマークは、ジュネーヴ条約で保護されている標章なので、使用規定が厳格に取り決められています。
関連サイト:防衛省・自衛隊 <戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(第1条約)>
【スイスネス】赤に白十字のスイス国旗を製品に使用できる条件は厳格
スイス国旗の使用法については「スイスネス法」という、2017年1月1日から使用条件が厳格化された法律があるのです。
Swissness(スイスネス)とは、商標及び原産地表示の保護に関する連邦法の改正をカバーする網羅的な用語です。
引用元:スイス時計産業のオフィシャルウェブサイト <Swissness(スイスネス)によって求められる新たな要件>
スイスでは、「どの商品にスイス国旗のデザインを使用していいか」という条件を、天然産物(水・植物など)・食品・工業製品・サービスなどの分野ごとに細かく設定し、スイス連邦法で以下のように定めています。
- スイス国内で製造されている製品であること
- 製品の原材料のうち、80%がスイス製であること
- 特例:チョコレート・時計など
「スイスの典型的な品物」としてあまりにも有名なチョコレートと時計。
けれども、これらのスイス伝統商品でさえ、スイスネス条件を満たすことはたやすくないので、以下のような特例条件が設けられています。
- チョコレート:カカオは輸入品だが、チョコの製造はスイス国内
- 時計:製造コストの少なくとも60%が、スイス国内で支払われている
日本でも大人気、スイス生まれのOnスニーカーは、スイスネスの基準を満たしていません。詳細は、コチラ↓。
そしてなんとスイス代表のアイスホッケーチームのユニホームについている「ワッペン」の使用まで、違法問題にしてしまうほど厳格なスイスの国民性! ←ちょっとやそっとの義母より手強い(笑)。
【スイスネス】スイス国旗の不正使用には国が目を光らせる
スイス人はとても生真面目な国民性なので、スイスネス法に違反しているケースに、目をつぶったりしません。スイス国旗の濫用を防ぐために、スイス連邦知的財産研究所(Das Eidgenössische Institut für Geistiges Eigentum)が、目を光らせているのです。
スイス連邦の公式ホームページによれば、2020年にスイスネス法に違反して、摘発されたケースは280件(2021年4月1日公表)。
スイスネスの条件を満たさないのに、スイス国旗のデザインが使われている商品は、税関で没収されます。例えば椎名林檎さんのグッズはこの段階で、取り上げ・廃棄処分が確定です。
スイス製品は上質であるというイメージを守るために尽力しているのは、国だけではありません。昨今では、スイス国旗の不正使用を発見した国民からの情報により、調査が開始されるケースも増加しているとのこと。
その結果、スイス国内におけるスイス国旗デザイン不正使用への規制は、順調に進んでいるそうです。今後の課題は、「国外でのスイス国旗不正使用阻止」だと、国の公式サイトに明記されています。
【スイスネス】自国製品へのこだわり例:各りんごにスイス国旗シール
四半世紀以上スイスに在住している私が、日頃のスーパーでの買い物で「これってスイスらしさ満載」と思うのは、スイス産を名乗ることができる食品すべてに、スイス国旗のマークが付いていることです。
ウチの冷蔵庫を物色しましたら、上の画像のように、生クリーム/チーズ製品/ゆで卵をスイスの国旗マークが飾っています。
極め付けは、スイス産のりんご1個ずつに、スイス国旗のシールが貼ってあること。毎回りんごを買うたびに、シール貼りでものすごく手間がかかるのではないかしら…と気になっています。
・・・だけど、この記事の初投稿日(2022/04/16)に、よりによって「りんご」を例に挙げた私って、もしかしたら、予知能力があるのかしら(笑)。
【スイス国旗に瓜二つ?】ヘルプマークはスイスへの軽蔑という意見の報道
スイス国旗の使用はとても敏感なテーマのせいでしょうか。
スイス国旗を連想させる「ヘルプマーク」のデザインは、スイスへの軽蔑行為と憤慨する日本在住のスイス人が、2022年4月18日から23日まで初来日するスイス連邦大統領兼外務大臣のカシス氏に、岸田首相との直談判を提案する記事が、現地で報道されています。
現地スイスの新聞NZZ (Neue Zuercher Zeitung) の2022年4月14日の報道によれば、日本在住のスイス人、ロジャー・モッティーニさんは、ヘルプマークとスイス国旗が似通っていることに、大変ご立腹のご様子。
モッティーニさんは専門が国家学の教授で、早稲田大学・上智大学の講師及び日本女子大学名誉教授、放送大学客員教授とアマゾンの著者プロフィールに掲載されています。
スイス国旗を連想させるヘルプマークの変更を求めて、モッティーニさんがこれまでに取った措置は、
- 東京都への連絡 →無回答
- 2021年当時のスイス連邦大統領・パルムラン氏への連絡 →在日スイス大使の回答(内容は下記)
- スイス外務省への連絡 →現在まで無回答
とのこと。
ヘルプマークの違反性調査を依頼した在日スイス大使の回答によれば、ヘルプマークは商用目的で作られたものではないため、スイスネス法の違反条件に当てはまらない、ということです。
【スイス国旗に瓜二つ?】ヘルプマークの意義が大切なのでは
日本人の私がもし、スイスの電車内で「優先席」を示すシンボルとして日本国旗の日の丸を連想させるマークとハートを見つけたら、どう感じるのか。
ヘルプマークが、「思いやりのある社会」を目指すために作られたものであることは明らかなので、個人的には嫌な感じはまったくしません。
逆に「悲しい」と感じるのは、ヘルプマークの存在を必要としている社会全体のあり方。
でも、それは日本に限ったことではありません。
私が利用しているバス路線は、いつも大混雑。老人ホームへの停留所があるので、当然ながらご年配の方もたくさん、乗車しています。シニア崇拝(私ももうアラカンですが)が骨の髄まで身についている昭和化石の私は、私より年上の方に座席を譲ることがままあります。
すると皆さん、「あなたはどちらの方?あら、日本人?」と会話が発展し、お若いころに日本旅行で体験した思い出や、お友だちが日本滞在で得た好印象などを聞くにつけ、大変嬉しい気持ちになります。
そしてちょっぴり、日本の良い宣伝ができたかしらと、思ったりもするのです。
私は、自分の行為で他人が喜ぶ姿を見ると、幸せな気持ちになります。そして私の示した小さな思いやりが、自分自身をも豊かにしてくれた、と実感できる喜びがあるのです。
スイスにはヘルプマークと同類のものはありませんが、ヘルプマークの意義することは、私の心に生じます。
参照サイト:
スイス連邦公式サイト(ドイツ語版):”Swissness”: Präzisere Kriterien(更新日2017/07/01)(閲覧日2022/10/09)
スイス連邦公式サイト(ドイツ語版) <Vereint gegen Swissness-Missbrauch: Das IGE und die Schweizer Exportwirtschaft spannen zusammen>(更新日2021/04/01)(閲覧日2022/10/09)
SWI swissinfo.ch <製品に用いるスイス・メイドのラベル、使用条件が厳格化>
(更新日2017/01/02)(閲覧日2022/04/15)