「ご近所さんとのお付き合いで、トラブルがなければラッキー」という発言、スイスではよく耳にします。
ご近所さんとの「良い関係」ではなく、「トラブルがない」という言い方をする人がなぜ多いのか、私は常日頃気になっていたのです。ひょっとしたら、スイスでは隣人ともめることが多いのかしら…。
そこで今回の記事では、
- 日本と比べて、スイスではご近所トラブルが多いのか
- 日本とスイスでよくあるご近所トラブルの原因は何か
- もしご近所トラブルが生じたら…【日本とスイスでの対応法を比較して解説】
- スイスでの隣人トラブル予防と対応策【ユキからのオススメ】
以上4点について、日本とスイスのデータを比較して解説します。
真実を知るのが、ちょっと怖い…。
【調査結果】ご近所トラブル経験者:日本51.5% スイス64%
ご近所トラブルについて調べたデータが、日本とスイスで見つかったので、その回答を比べてみました。
ふたつのアンケート調査の結果によれば、
- ご近所トラブルに遭ったことがある人の割合:日本 51.5%、スイス 64%
- 隣人とのトラブルで引っ越した経験がある人の割合:日本 21%、スイス 16%
スイスでは、アンケートに回答した人の15%が、ご近所トラブルを法廷訴訟で争った経験があるとのこと。
隣人トラブル原因の内訳と回答者の割合を、国別で表にまとめました。
日本とスイス、どちらの国でもご近所トラブルNo.1の原因は騒音問題なのですね。
日本 | スイス |
53% 騒音 | 28% 騒音 |
7% ペットや飼育トラブル | 16% 感じが悪い |
6% 子どもの泣き声やいたずらのトラブル | 14% タバコの煙 |
12% 駐車・車のトラブル | 13% 洗濯室での問題 |
3% 共用部分に関するトラブル | 12% 好奇心が強すぎる |
3% 境界線に関するトラブル | 11% 駐車・車のトラブル |
3% ゴミ捨てや不法投棄のトラブル | 10% 子ども |
13% その他 | 8% 家のにおい |
8% ペットや飼育トラブル | |
8% 共用部分に関するトラブル |
スイスのご近所トラブル【四半世紀潜伏中のユキがコメント】
ご近所トラブルに見られるスイス独特の点を、スイス社会の深層にいる私の視点からいくつかコメントします。
騒音:スイス社会の厳密なルール・静粛時間は守るべし
例えば、わが家のピアノはBechsteinの防音装置付きのモデル。
ピアノ専門店の方が、「スイスでは、遅かれ早かれ『ピアノによる騒音』が問題になるので、初めから防音装置を付けられるモデルを選んだ方がいいですよ」とすすめてくれたのですが、本当にこのときの助言に従ってよかった。
スイッチを切り替えるだけで、普通の音響/ボリュームを下げた状態/消音でヘッドフォン利用と、音の調整がカンタンにできるので、大助かりしています。
感じが悪い:引っ越しの挨拶マナーの欠如は感じ悪さに直結
引っ越しのとき、挨拶の作法にかなった対応をしたかどうかにより、ご近所さんたちの新入りメンバーに対する意見とその後の対応が、スイスでは完全に区分されてしまうようです。
上に記した「騒音」に関するテーマですが、特に子どもの騒音は、子どものいる家族がまわりの住人たちにどのように接しているのか、その態度によって隣人の態度がガラリと変わります。
一度ついたイメージを払拭するのは、とても難しいことなので、新居での生活を快適にするためにも、最初の心がけが肝心です。
隣人のタバコの煙も腹が立つ原因
スイス民法典のObligationenrecht (Art.257f) という法律では、「他の居住者に対して思慮深い行動をとること」が定められています。
思慮深い行動という見地からすると、バルコニーなど家の外の部分でタバコを吸う場合、
- ときどきなら許容範囲
- チェーンスモーカーはNG
と解釈されるとのこと。
でも、「思慮深い行動」と「ときどき」の解釈には個人差がありますから、難しい問題ですね。
スイス特有・洗濯室でのトラブル
スイスはほとんどの賃貸住宅で、建物の地下室に備え付けてある洗濯機と乾燥機を、住民が共同で使うシステムになっています。
世帯ごとに洗濯日が割り当ててあり、基本的に自分が洗濯室を利用できるのは、その日だけ。
それなのに、
- 他の住人が乾いた洗濯物を片付けていないので、自分の物を干す場所がない
- 自分の物がまだ乾ききっていないのに、翌日の人が勝手にまとめてどけてしまったので、生乾きの洗濯物が臭う
- 他の住人の洗濯室の使い方が汚い
など、ぶつかるポイントは多数あります。
昔私が住んでいたアパートでは、全世帯が週1の頻度で自分の洗濯日がありました。
私にあてがわれた洗濯日は、たまたま1日中大学で講義があった曜日だったので、帰宅後、静粛時間の22時前に1週間分の洗濯をしようとしても、間に合わない。
毎回、他の住人に洗濯日の交換や予定外の利用を頼み込むだけでも、かなりのストレスになっていました。
洗濯物はどんどん溜まっていくし、自分の日にちを逃してしまうと干す場所がないから、すべて部屋干し。物干しスタンドに囲まれて、部屋は足の踏み場もない状態です。
コインランドリー? そんな便利なものは、スイスの街中には(少なくともベルンでは)、まったくない。というか、スイスに来てから四半世紀、コチラでコインランドリーを見たことが、私は一度もありません。
ベンチャービジネスでコインランドリーを経営したら、あたるかもしれませんね。
好奇心むき出しの隣人
スイスでの人付き合いの鉄則は、常に礼儀正しく、互いのプライベートなことに鼻をつっこまない関係。
気の合う同士でも、いくつかの季節がめぐりめぐって、ようやく友情が育つという感じなのです。
隣人関係では、もともと誰も友人を探すつもりでその居住地を選んだわけではないので、みなさん目に見えないパーテーションで相手と自分を仕切っているような印象を受けます(そのわりにはコロナ感染率が高かったけど)。
ですから、好奇心の強すぎる隣人に対しては、まわりにハッキリとわかるほど、スイスの人たちは冷たい態度をとります。
まぁ好奇心むき出しの人は、そんなことでめげたりしませんけどね。
他のご近所さんが外出するだけで、すかさず窓辺からチェック。
郵便屋さんが来るたびに、わざわざどのショッピングサイトからの発送なのか、他人の荷物の発送アドレスを確認(だから、変な物は注文できない)。
共同エリアの植木を手入れしている造園業者につきまとい、彼らの仕事ぶりを監視…とまあ、1日24時間では足りないほど、他人の生活に好奇心むき出しの住人が、私の近隣にもいます。
小包が届くたびに「ユキさ〜ん、早く荷物を家の中に入れないと、盗まれたら大変」と知らせてくる、好奇心のかたまりのご近所さん。
配達の人もきちんとベルを鳴らしてくれますし、のどかな私の居住エリアでは、一度も盗難事件は起きたことがないけど、荷物を雨や雪から防ぐことはできるので(玄関前に放り投げていく配達人もたまにはいるので)、この隣人に心の中で「郵便専用の侍従」とあだ名を付けました、私。
スイスであるある:庭のデコレーション・小人の置物が気に入らない
2001年に公開されたフランス映画「アメリ」をご覧になったこと、ありますか?
「アメリ」では、出不精になった父親が再び旅行の楽しさを思い出すように、自宅の庭にあった小人の置物をアメリがフライトアテンダントの友人に託して、世界の観光地を訪れる小人の記念写真を父親に送ってもらう、という楽しいシーンがありました。
「アメリ」に出てきたあの小人の置物がご近所さんのお庭にあると、あからさまに嫌悪感を表現するスイス人は多いです。
なぜなのかしら。どこのガーデンセンターでも売っているのですけどね。
あ、私は自宅に置いていません(笑)。
ご近所トラブルへの対処方法に出る日本とスイスの文化のちがい
隣人トラブルへの対処方法が、日本とスイスではちがうのでご注意!
ご近所さんとトラブルが発生したときの上手な対応の仕方が、日本とスイスでは順序がちがいます。
- 日本:
1)まず管理人/管理会社に相談
2)専門家(警察・弁護士)・行政を利用
3)最後の手段として、問題を起こしている相手と直接話し合う
- スイス:
1)トラブル行為をやめてほしいと礼儀正しい態度で相手に直接頼む
2)当人同士の話し合いで問題が解決できなければ、管理人/管理会社に連絡
3)それでもこじれたら、法廷訴訟で争う
【スイスで必須】まず当人同士でトラブル行為について話し合う
日本では、相手との直談判は、ご近所トラブル解決のための最後の手段。
ところがスイスでは、その逆。まず、トラブルで悩まされている側が、トラブル元の相手に直接「問題行為をやめてほしい」と頼むことが、最初の手段なのです!
スイスでの人間関係のトラブル解消・必須ステップ
問題の当事者同士が、まず直接話し合いをして、互いに解決策を探すこと
トラブルで悩まされている人が、トラブルの原因である相手に歩み寄る努力抜きで、直接管理会社に連絡を入れたりしたら、もう大変!
本来は、わりと簡単に解決することができたかもしれないトラブルまで、こじれにこじれます。
そして、話し合いのステップを飛ばして、第三者に問題解決を依頼した(ホントは困っていた立場の)人は、まわりの人からも批判される対象になりますので、注意が必要です。
たとえ相手が気難しい性格で有名な隣人でも、とりあえず自分の方から一歩近づく姿勢を見せることが、ホントに大切。
すぐ管理会社に連絡を入れても、「まずご当人同士で話し合ってください」と促されます。
当事者間の話し合いが終わるまで、管理会社は動いてくれません。
相手との話し合い後、トラブル未解決なら管理会社や大家さんに連絡
自分たちで話し合いを重ねたけれど、互いの意見が平行線の状態で、納得のいく解決策が見つからない場合には、建物の管理会社などに連絡を入れるのが、スイスにおける通常のご近所問題解決のステップです。
私の体験では、管理会社は仲裁を引き受ける前に「トラブル元の相手と、直接話す努力をしたかどうか」必ず確認してきます。
この段階になれば、トラブルで被害を受けた人が他の住人になにか質問されても、「話し合いで解決しようとしたけれど、ムリだったので管理会社に依頼した」と正直に言えば、批判の的になることはありません。
オススメ:スイスでの隣人トラブル予防と対応策
「他の居住者に対して思慮深い行動をとること」が、スイス民法典で定められているとはいえ、思慮深さの解釈はさまざま。
隣人トラブルは、スイス文化に沿った予防と解決策を心がけることで、上手に対応しましょう。
まとめ:ご近所トラブル【スイス編】
- トラブル予防策:
引っ越し時の挨拶マナーを守る。
日常生活では問題が起きる前に、隣人に状況を説明し、理解を求める。 - トラブル解決策:
まず、直接相手と交渉。
解決策がみつからない場合、第三者に介入を頼む
コロナが落ち着いて、もしスイス旅行をする機会があれば、車窓を流れる街の景色を見ながら、「あぁ、あの素敵な古い建物の住人たちもトラブルまみれ…」なんてことは思わずに、スイスアルプスの絶景を楽しんでください♪ 雪山はホントにすばらしい!