【受験戦争がないスイス】その分ハードな大学入学資格試験と高校進学

スイスライフ

大学入学資格の保有者であれば、自分で大学と学部を自由に選んで、国公立大学に進学できるスイスの制度(医学部と心理学部を除く)。

その分ハードな大学入学資格試験の実態と高校進学時のヒステリックな状態について、スイス在住者の私が解説します。

注)スイスでは、大学入学資格試験および高校入試は、各州の管理下にあるため、記事内でお伝えする情報には、地域により多少の違いがあります。どうぞご了承ください。

【スイスの大学入学資格試験】合格率ほぼ100%で受験フィーバーなし

【スイスの大学入学資格試験Matura】合格率ほぼ100%で受験フィーバーなし

スイスでは通常、ギムナジウムと呼ばれる4年制の高校卒業時に「大学入学資格(Matura)」のテストが行われます。

大学入学資格の保有者数は、年々増加傾向にあるですが、それでもスイス全人口の約20%(2019年のデータ)。スイスはOECD諸国の中で、大学入学資格の保有率が最も低い国だと報告されています。

ギムナジウム卒業時に大学入学資格を取得する場合、合格率はほぼ100%なのですが、不合格者がほぼいない理由は、テストが簡単だからではありません。

スイスの大学に進学したい生徒たちは、「ギムナジウムに入学できるかどうか」という、義務教育を終える15歳の時点で既にふるいにかけられているので、そもそもギムナジウム進学者が、大学入学資格取得者とほぼ同率。

ですから、大学入学資格試験に失敗するケースは、稀なのです。

例えば娘の母校では、合格ラインに満たない生徒は早々に、「留年すべき」と打診されていた背景も、不合格者が少ない理由だと思われます。

またスイスでは、高レベルの職業訓練校制度が徹底していますし、追加試験を受ければどの進路を選んだ場合でも、後に大学入学資格を取り直すことも可能。

こういった背景からスイスには、「むやみやたらに大学に入学するための受験フィーバー」が、存在しないのです。

【スイスの国公立大学】大学入学資格保有者は大学・学部を自由に選べる

大学のキャンパス

大学入学資格の合格者は、スイス国内にある12の国公立大学と学部の中から、自分が希望する大学・学部を選び、入学申請をすれば、新大学生としての生活をスタートすることができるシステムになっています。

公立大学は、それぞれの大学所在地の州に属しますが、自分の居住地とは別の州にある大学に「越境入学」もできます(私自身も越境入学者でした)。

【スイスの国公立大学】医学部は入学前、心理学部は入学後に入試

【スイスの国公立大学】医学部は入学前、心理学部は入学後に入試

大学入学資格保有者であれば、自由に進学先を選べるスイスですが、医学部と心理学部だけは例外です。

  • 医学部入学前にスイス全土で共通の選抜試験あり(Numerus clausus/ヌメルス・クラウズス)。ただしドイツ語・フランス語・イタリア語で受験可能
  • 心理学部入学後に各大学で選抜試験あり(Propädeutikum/プロペドイティクム)

医学部と心理学部で入試が行われる理由は、志願者が多すぎる人気学部のためです。心理学部の入試実態は、コチラ↓。

【スイスの大学入学資格試験】受験戦争の代わりにハードな高校生活

【スイスの大学入学資格試験】受験戦争の代わりにハードな高校生活

「スイスでは受験戦争なしで、大学に入学できるなんて、ラッキー!」と、日本の読者の方は思われるかもしれません。

でもその分、スイスの大学入学資格試験合格に必須の条件は、「国際的に比較しても、非常に高度な難易レベル」だと、チューリッヒ大学の高等教育専門家・エベール教授も、発言しています。

【スイスの大学入学資格試験】高校生がこなす盛りだくさんの必須科目

【スイスの大学入学資格試験】高校生がこなす盛りだくさんの必須科目
  • 基礎科目:第1言語/第2言語/第3言語/数学/生物/科学/物理/歴史/地理/美術・音楽/経済・法学基礎/情報処理学/スポーツ/哲学・宗教学
  • 主要科目:生物・化学/物理・数学応用/経済・法学/哲学・心理学・教育学の4分野から1つ選択
  • 副科目:生物/化学/物理/数学応用/歴史/地理/経済・法学/哲学/教育・心理学の分野から1つ選択
  • 卒業論文:科学論文と同様の構成で10〜20ページ。論文の内容とプレゼンテーションがテストの評価対象

各高校によって、教育重点や提供科目が異なるため、生徒たちは高校進学時に、自分の興味に適した学校を進路に選んでいます。

基礎科目の言語ですが、例えばドイツ語圏にある高校の場合、

  • 第1言語:ドイツ語
  • 第2言語:フランス語
  • 第3言語:英語/イタリア語/ラテン語から1つを選択

というのが、一般的なスタイルです。

ちなみに娘はドイツ語・フランス語・英語を選択していたのですが、担当教諭は皆母国語で、授業中は口語・筆記ともに外国語でのコミュニケーションがあたりまえ。

一度娘が病欠の連絡まで先生とフランス語で交わしていた場に居合わせた私は、驚きました。

高校卒業時の言語レベルが高いのは、スイスの強みです。日本育ちの私は、「全員通訳なの?!」と、大学で何度驚愕したことか(笑)。

また高校の卒業論文のレベルも、非常に高度。私自身研究畑にいたのですが、娘が高校在学時に提出していた研究レポートの水準と、添削をしてくださる先生方の熱血指導に、毎回舌を巻いていました。

【スイスで大卒ほぼ確定になる高校入試の条件】無試験と受験組の大差

【スイスで大卒ほぼ確定になる高校入試の条件】無試験と受験組の大差

大学での受験戦争はないスイスですが、入学できればほぼ大卒確定となる高校への進学は、以下の方法で決定されます。

  • 無試験:一定の成績レベルをクリア(長期高校コース)
  • 無試験:成績プラス担任教師の推薦状
  • 高校受験:入学試験と面接。試験科目はドイツ語筆記/フランス語筆記/フランス語口語/数学1筆記(計算中心)/数学2筆記(式と証明・データ分析など)

受験をした場合、上記の5科目から4つの採点が抽出されます(私が聞いた限りでは、ドイツ語/フランス語/数学/数学の4評価)。

合格ラインは、得点のトータルが16点以上で、なおかつ不合格の成績が2つ以上ないことです(6段階評価で4以上が合格)。
例)6・6・6・1なら合格。5・5・3・3なら不合格。

高校受験の合格率は、約50%とのこと。無試験で高校に入学が決まるケースとは違い、狭き門となります。

【スイスでの高校進学】学歴格差が生む教師の決定と親の影響力

【スイスでの高校進学】学歴格差が生む教師の決定と親の影響力

ただし、スイス全土にある26州のうち、ベルンを含む16州では、上記の高校受験制度がまったくありません。

ですから、「誰が高校に進学できるか」を決定するクラス担任の意見は、超パワフル。

そのため、担任教師と親、双方からの偏見と圧力が、スイスのメディアではたびたび報道されています。

【スイスでの高校進学は学歴格差の連鎖】①親が大卒なら子も無試験で

【スイスでの高校進学は学歴格差の連鎖】①親が大卒なら子も無試験で

担任教師が子どもの未来を左右する点で問題となるのは、子どもの「親の学歴」が持つ影響力。

スイスにおける学歴格差の連鎖です。

私の知人のケースでも、親が大卒の子どもは、多少成績が思わしくなくても、将来伸びる可能性ありとみなされ、高校進学への推薦状をもらいやすいということは、何度も身近で体験してきました。

実際、現役大学生の親は高確率で大卒であることが、スイス連邦統計局のデータでも、報告されています。

【スイスでの高校進学は学歴格差の連鎖】②親が高収入だと有利

【スイスでの高校進学は学歴格差の連鎖】②親が高収入だと有利

そして、高校受験が提供されている州では、親の収入が子どもの入試結果に影響すると、話題になることもしばしば。

例えば8ヶ月間の高校受験用集中コースにかかる塾の費用は、50万円弱(約3200スイスフラン。1CHF=147.79円。2022/10/27のレート)。

高額な塾の費用を支払える高収入の親は、高学歴であることが多いので、そのような家庭の子どもたちが、高校進学時に有利な切り札を持っていることは、紛れもない事実でしょう。

スイスでの高校進学は大卒への切符:だからモンスターペアレント大暴れ

スイスでの高校進学は大卒への切符:だからモンスターペアレント大暴れ

スイスでは、「高校進学=大学卒業ほぼ確定者」と認識されているので、わが子の高校進学を目論んでヒステリー状態に陥る親たちの姿も、メディアでたびたび取り上げられます。

モンスターペアレントが、弁護士を雇って教師に圧力をかけ、子どもの成績の底上げや推薦状を強要するなど、「ここまで、する?!」とビックリするような内容です。

実際私も、中学校の先生として働きながら大学で学んでいた同期に、保護者からの「ウチの子の成績上げて、高校進学の推薦状を書きなさい」コールが、ひっきりなしにかかっていた現場を目にして、唖然とした経験がありました。

東西を問わず、モンスターペアレントの威力は、凄まじいものです。

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以上、スイス在住者の私が現地で得た情報と体験をもとに、大学の受験戦争がないスイスの背景にある事情を、お伝えしました。

高校入試では、日本の受験戦争と似たような場面もありますが、全般的にスイスの人たちは「自分の適性に合った職業に就くこと」を、重要視しています。

手に職をつけるための教育システムが非常に充実している点は素晴らしいと、日本の受験戦争とその後の成長過程での影響を知る日本育ちの私は、感じています。

日本で短大卒だった私は、外国人用の大学入学資格追加試験を経て、スイスの大学に進学しました。詳細に興味のある方は、コチラ↓の記事をご覧ください。

<参照サイト>

スイス連邦公式サイト(ドイツ語版) <Sekundarstufe II: Maturitätsquote>(閲覧日2022/10/27)

スイス連邦公式サイト(ドイツ語版)<Hochschulen: soziale Herkunft>(閲覧日2022/10/27)

ベルン州公式サイト 教育・文化部(ドイツ語版)<Aufnahmeprüfung GYM1>(閲覧日2022/10/27)

DAS SCHWEIZER ElternMagazin FritzFranzi <Sek oder Gymi: Was ist besser für mein Kind?> (更新日2019/11/07)(閲覧日2022/10/27)

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