『最後のひと(松井久子著)』に出逢える運命は素敵な人生の最終章

読書感想

『最後のひと(松井久子著)』の主人公は、75歳の女性と86歳の男性。

そして、小説のメインテーマは、「老人の恋愛」という衝撃。

『最後のひと』から私が受ける印象は、自分の年代別に異なっています。

  • 10代の私:「…(無関心)」
  • 20代の私:「今のパートナーが『最後のひと』じゃないの?」
  • 30代の私:「気持ち悪い年寄りの話」
  • 40代の私:「まぁ、何歳になってもお盛んな方はいらっしゃるしね」
  • 50代の私:「人生の最期にもう一度大恋愛ができるなんて、運命からの素敵なプレゼント!」

『最後のひと(松井久子著)』は、これまで社会でタブー視されてきた「老人の恋愛というありえないテーマ」で、読者の感情を揺さぶる本だと思います。

『最後のひと』が描く老人の恋愛関係を好意的に受け止める読者は、おそらく少数派。←だけど私は、そのひとり(笑)。

実際の人生で『最後のひと』と恋に落ちた私の友人の話も含めて、本をご紹介します。

『最後のひと』著者・松井久子さんのプロフィール

『最後のひと』著者・松井久子さんのプロフィール
  • 1946年 岐阜県生まれ、東京育ち
  • 早稲田大学文学部演劇科卒業
  • 1993年 映画「She’s Rain」を初プロデュース
  • 1998年 「ユキエ」で映画監督デビュー(原作は芥川賞受賞作『寂寥郊野(吉目木晴彦著)』)
  • 映画「折り梅(2001年)」・「レオニー(2010年)」・「何を怖れる フェミニズムを生きた女たち(2014年)」・「不思議な国の憲法(2016年)」の監督業を務める一方で、著述業にも活躍の場を広げる
  • 2021年 小説『疼くひと』発売:70歳の女性と15歳年下の男性の性愛を描く
  • 2022年 続編『最後のひと』発売:『疼くひと』の主人公で、75歳になった唐沢燿子と86歳の男性との恋愛がテーマ

参照サイト:フリー百科事典 ウィキペディア <松井久子>(更新日2022/07/04 10:24 UTC)(閲覧日2023/02/27)

著者の松井久子さんは、なんと2022年、76歳で89歳の方とご結婚(!)なさったそうで、小説『最後のひと』はご自分の体験もベースになった作品とのことです。

どんなお相手なのか、野次馬根性で気になった私がググったところ、日本思想史研究者で歴史学者の大阪大学名誉教授・子安宣邦さんが松井さんのパートナーだそうです。

真っ直ぐで、とっても素敵な松井久子さんのお人柄が伺えるインタビューへのリンクは、コチラ↓。アラカン女性の私でも、クラッとしそうなほど、松井さんは魅力的な方だとお見受けします。

そして、『最後のひと』発刊に反対しなかった子安教授も、クールなお方!

外部リンク
Real Sound ブック <松井久子が語る、歳月を重ねることで得られる豊かさ 「人生経験を積んできたからこそ、“最後のひと”とも出会えた」>(更新日2022/12/28)(閲覧日2023/02/28)

婦人公論.jp <松井久子「運命の人は89歳、76歳で結婚を決意。婚姻届を出したのは、手術の同意書にサインできるのは家族だけだから」>(更新日2023/01/30)(閲覧日2023/02/28)

『最後のひと(松井久子著)』のあらすじ:老人恋愛の関係性を描写

『最後のひと(松井久子著)』のあらすじ:老人恋愛の関係性を描写

【最後のひと(松井久子著)】あらすじ

脚本家として忙しい日々を過ごしていた唐沢燿子は、75歳になった今、あらためて学問と向き合うために市民講座へ通うことにする。

講座を担当していた哲学者・仙崎理一郎は、86歳の元大学教授。

70歳の時に交際していた年下の恋人と死に別れた燿子と、長年連れ添った妻を4年前に亡くした理一郎は恋に落ちて、人生最後の恋愛を体験する。

…と、これまで社会がタブー視してきた「老人の恋愛」が、本のメインテーマ。

現実問題として存在する体の老いや終活準備、そして社会からの孤立に直面しながらも、「最後のひと」に出逢い、愛し合う機会に恵まれたふたりは、人生の総決算をつけるかのように、真剣な恋愛をし、関係を育みます。

私は『疼くひと』は読まずに、『最後のひと』を手にしたのですが、セクシャルシーンが盛りだくさんだったというレビューが多き第1巻と比べると、第2巻では「老人の恋愛事情」が心理面を中心に描かれていて、大変興味深い内容でした。

『最後のひと』主題:擬制で生きる暇はない老人が真剣に挑む純愛

『最後のひと』主題:擬制で生きる暇はない老人が真剣に挑む純愛

擬制

事実に反することを事実であるかのように扱うこと。事実に反することがだれにも自覚されていない「神話」や、相手に自覚させないようにする「嘘(うそ)」と異なり、だれもが、それが事実に反することを知っている点に特色がある。

引用元:コトバンク <擬制> 出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)(閲覧日2023/02/27)

小説の中で、理一郎は知り合ったばかりの燿子との会話を反芻し、自分の心に渦巻く孤立感と先行きの不安を感じる原因は、それまでの結婚生活と家族とのつながりが「擬制」だったからではないのか、と自問自答するシーンがあります。

けれども、人生の終幕が間近に迫っている老人には、擬制の関係で無駄にできる時間もエネルギーも残っていません。

だからこそ、燿子と理一郎は運命が用意した出逢いを享受し、これまでの長い人生で重ねた経験をもとに、お互いに真っ直ぐな愛を注ぎ合うのです。

人生の最終段階を、最後のひとと手を取り合って生き抜くために。

『最後のひと』人生最期の恋愛は運命の気まぐれと率直さが成就の条件

『最後のひと』人生最期の恋愛は運命の気まぐれと率直さが成就の条件

私が『最後のひと』を読みたいと思った理由は、主人公と私の友人の生き様に、重なる部分が多かったからです。

『最後のひと』を地で生きる友人の実話:①70歳で離婚。でも負けない

私の友人・Sさんは70歳の時に、46年間連れ添った夫・Lさん(当時71歳)と離婚しました。

離婚のきっかけは、夫・Lさんの浮気。

探偵社の調査報告で、Lさんは30年前の浮気相手と再び関係を持っていると判明した翌日、Lさんに事実確認すると、謝るどころか「あなたが騒げば、これまで築いてきた僕らの家庭が壊れてしまう。妻・母・祖母として家族に与えるダメージを考えてごらん」というセリフを投げつけられたSさん。

そして2人の娘さんに事情を話し、「しばらく自宅を離れたい」と告げると、「ママがいなかったら、私たちの生活が成り立たない。誰が子どもたちの面倒を見るの?!前回の浮気にも目をつぶれたのだから、今更騒がないで」と、Sさんは批判されたそう(Sさんは週に4日、3人のお孫さんをお世話)。

これこそまさに、「擬制の家族」…。

『最後のひと』を地で生きる友人:②「擬制の家族」を失う代償は孤独

「私、『夫にバカにされた可哀想な年寄りの女』として、棺桶に入りたくないの。だから、私が夫を捨てるわ。娘たちが必要としている保育士代理は、お金で見つかるはず」と言い放ち、スーツケースひとつで自宅を出たSさんは、その翌日、弁護士を雇い離婚手続きを依頼したのです。

娘さんたちとの関係も険悪になり、友人・知人もほとんど全員、夫・Lさんを擁護。

なぜか「とんでもないことをしでかして…」と、Sさんに批判轟々だったのは、想像以上に保守的なスイス社会(例:女性参政権、スイス全土での認定は1991年!)の特性を反映しているのかもしれません。

③『最後のひと』に出逢う運命をつかんだ友人の人生最終章は魅力的

突然、これまでの自分の人生から孤立したSさんは、「残り少ない人生で自分自身を救えるのは、私だけ!」と決意を固め、雨にも負けず向かったゴルフ場で、「最後のひと」に出逢いました。

この時Sさんは71歳、お相手のMさんは73歳。

はっきり言って、元夫・Lさんより数倍素敵なお相手で(コリン・ファース似。だけどSさんも大地真央さん系の年齢不詳美女)、お互いを大切にし合うふたりの様子を見るにつけ、「恋愛が人にもたらす魔法の威力」に、私は驚いています。

ふたりとも、相手のベストショットをバシャバシャ撮って、ボケ防止のためにインスタグラムで公開しているのが、キュート!

そして、お互いにシングルのタイミングで「最後のひと」に巡り逢えた彼らの運命と、率直に「最後の恋愛」を受け入れた彼らの勇気が、実に羨ましい私(笑)。

ちなみにSさんとMさんの子どもたちも、今ではふたりの関係を大変喜び、お互いを看取ることができるように、事実婚の登録をしたSさんとMさんは、仲良く暮らしています。

Sさんの元夫・Lさんは、離婚されたショックがまだ癒えず、自己憐憫がハンパではない老害人として、近所で悪評が高いです。

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『最後のひと』は、好き嫌いが顕著に分かれる本だと思いますが、著者・松井久子さんご夫妻のようなパワフル・シニアを目指して、年齢を重ねることに希望が湧くかもしれません。

社会人講座にシニアの申し込みが、殺到したりして…。

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