彬子女王殿下の『赤と青のガウン オックスフォード留学記』は、バズったのが当然の面白い本!
普段は知る由もない皇族の方の日常と、海外の大学院で博士号を取得するまでのエピソードからは、気さくで真摯な彬子女王殿下のお人柄が伺えます。
「ある国特有の文化」が、ともすれば消えがちな現代社会において、皇室の一員でいらっしゃる彬子女王殿下が、日本文化の研究・伝承にご尽力されている事実に、日本人として心より感謝いたします。
『赤と青のガウン』著者の三笠宮彬子さまのプロフィール
- 1981年、故三笠宮寛仁親王殿下の第一女子としてご誕生。今上天皇陛下のはとこ
- 2001年、学習院大学在学中に1年間、英国のオックスフォード大学にご留学
- 2004年、学習院大学文学部史学科卒業後、再び英国のオックスフォード大学マートン・コレッジにご留学
- 2010年、オックスフォード大学大学院博士課程修了、日本美術に関する研究で、女性皇族初の博士号取得(D.Phil.)
- 2024年現在、京都産業大学日本文化研究所特別教授、京都市立芸術大学客員教授、次世代への日本文化伝承を目的とする一般社団法人心游舎総裁など、多方面でご活躍中
ところで、博士号の表記が英国(D.Phil.)とドイツ語圏(Dr.phil.)では異なるのだと、初めて気づきました。
「Ph.D.」の表記は、両語圏で同一のようです。
ちなみに名刺や業務用メール、または公式文書に添付する肩書きには、「Ph.D.」を使用するケースが欧州や米国では一般的かなと思います。←これはあくまで私の感覚論ですので、証拠はありません(笑)。
『赤と青のガウン オックスフォード留学記』あらすじ
彬子女王殿下が、英国のオックスフォード大学という環境で博士号を取得されるまで、どのようにお過ごしになったのかが、時には「皇族」のお立場から、そして時には「博士課程の典型的な学生」の目線から、ユーモアたっぷりの文章で描かれています。
『赤と青のガウン オックスフォード留学記』最大の魅力は?
2015年に単行本として発売された『赤と青のガウン オックスフォード留学記』が、9年の時を経て2024年に文庫化されるきっかけを作った「大バズリ仕掛け人読者」ドイツ在住のかよさんのX投稿にあるように、本書の最大の魅力は、プリンセスである彬子女王殿下が英国生活で、皇室のメンバーであるが故に体験された出来事と、一留学生として経験された内容のギャップ。
あるときは故エリザベス女王陛下のお招きを受けるプリンセス、またあるときは格安航空専用のローカル空港で外交旅券を所持する怪しげな乗客、そしてオックスフォード大学のキャンパスでは博士論文執筆に伴う苦行と格闘する院生と、彬子女王殿下だからこそ生じた多彩なエピソードが、本書には満載されています。
『赤と青のガウン オックスフォード留学記』私の感想
「母国語ではなく外国語を用いて、海外の大学院で博士論文を執筆」という彬子さまのご経験は、私自身の体験と重なるので、おこがましいことだと存じていますが、読書中はまるでかつての学友たちとおしゃべりをしているかのような気分🎵
- 自分の語学力の足りなさに落ち込む
- 手製のちらし寿司を、現地の友人に「寿司ではない」と否定されてしまう
- 英国式の食器の洗い方(=洗剤をすすがない)に絶句
- 日本の入浴剤「温泉の素」がストレス解消剤
といった海外生活特有の共通点もさることながら、絶対的な権力を持つ指導教授の下、博士号を取得するまでの茨の道で彬子女王殿下が体験なさったことと、私自身の体験が完全に一致!
指導教授の「ご機嫌天気予報」を学生同士で伝え合ったり、博士論文生胃炎に悩まされたり、指導者が次々とぶつけてくる無理難題につまずいたり……などなど、本当に「博士課程あるある体験」のオンパレード。
英国とスイス/世界ランキング第1位のオックスフォードと100位前後のバーゼル/専攻科目の違いはあれど、博士号取得までの苦行が重なりすぎていることに、一種の恐ろしささえ感じました。
『赤と青のガウン オックスフォード留学記』私のお気に入りエピソード
本書で私がいちばんお気に入りのエピソードは、彬子女王殿下が、法隆寺金堂壁画の写しを大英博物館で探し当てたお話です(12「一念通天」)。
1881年に大英博物館入りしたアンダーソン・コレクションのひとつである法隆寺金堂壁画の写しは、1949年に火災で焼損してしまったオリジナル絵画を桜井香雲が模写した貴重な作品であるにもかかわらず、誰の目にも留まらぬまま埋もれていたそう。
その法隆寺金堂壁画の写しを彬子女王殿下が発見なさり、2019年には模写が大英博物館展覧会で展示されたという経緯からは、日本文化の宝物とプリンセスをつなぐ不思議な運命の糸、そして研究者・彬子女王殿下の熱いお気持ちがあふれていて、「本当に良かった!」と私まで嬉しくなりました。
三笠宮彬子さま:近くて尊い皇族のお勤めに日本人として感謝
彬子女王殿下が総裁でおられる心游舎は、日本文化の次世代への伝承を、目標に掲げる団体とのこと。
心游舎による「おいしいお茶の入れ方」のYouTube動画↑を早速視聴した私は思わず、息を呑みました。
なぜなら、私が母から習った「おいしいお茶の入れ方」が、動画内の説明そのままだったのです!
こうして普段の生活で受け継がれている行為にこそ、真の日本文化が息づいているのだと今更ながら認識すると同時に、皇族で日本文化研究者の彬子女王殿下が、子どもたちに日本文化を伝えるためのさまざまな企画を実行していらっしゃるとは、なんと素晴らしく、心強いことなのかと、日本人としてありがたく感じます。