【欧州での人種差別:チン・チャン・チョン】スイス在住日本人の体験記

スイスライフ

W杯カタール大会で、ドイツ人解説者による日本人/アジア人への蔑称「チン・チャン・チョン」をドイツのテレビ番組がそのまま放映したことで、注目された人種差別問題。

「チン・チャン・チョン」による差別言動は、ドイツの隣国・スイスに在住する日本人の私も体験している問題です。残念ながら。

チン・チャン・チョンとは?

チン・チャン・チョンとは?

「チン・チャン・チョン」とは、俗にヨーロッパ人がアジア人を指す意味で用いる侮辱的・差別的な言い方(蔑称)である。中国語を介さないヨーロッパ人にとっては中国語がチン・チャン・チョンと言っているように聞こえる、というステレオタイプに基づく表現。ただし、中国語および中国人を貶していると言うよりは、むしろ中国を中心とするアジアン全般を貶す表現として用いられている。日本人を指してチン・チャン・チョンと呼ばれる場合もある。

引用元:weblio辞書 出典:実用日本語表現辞典<チン・チャン・チョン>

W杯ドイツ解説者とテレビ局の言動が示す欧州日本人差別問題の現実

コチラ↑は、日本人に対する蔑称「チン・チャン・チョン」発言が、ドイツのニュースチャンネル「Welt(ヴェルト)」で放映された一場面を引用する、FIFAの公式twitter。

ドイツで起きた「チン・チャン・チョン」発言動画放映とその後の展開は、ヨーロッパに在住している日本人の多くが体験するであろう日本人/アジア人差別の現実を反映していると、スイス在住の私は感じています。

私見として、特に問題があると思うのは、以下の点。

  • 差別された経験のある人が差別をした:
    「チン・チャン・チョン」発言をしたジミー・ハートウィグ元選手は、アフリカ系アメリカ人とドイツ人のハーフ。自分の経験をもとに、人種差別反対活動に長年尽力
  • 「チン・チャン・チョン」発言炎上後、ハートウィグ元選手もテレビ局も対応があやむや:
    • ハートウィグ元選手は、自身のInstagramでドイツ語の謝罪文を掲載。 ←なぜせめて英語で書かないのか、疑問
    • 「Welt」は、差別発言を含む動画を消去したが、それでケースクローズの模様。←その後ドイツやスイスでは報道すらされていない

ヴェルトのキャスター:W杯表彰式でのメッシのローブ着用に言及

ヴェルトのキャスター:W杯表彰式でのメッシのローブ着用に言及

日本人への差別発言が炎上した後に消去された「Welt」のYouTube動画では、「チン・チャン・チョン」発言をしたハートウィグ元選手だけではなく、その横にいたスポーツキャスターのニヤニヤ・ヘラヘラした(と私は感じた)表情と態度も、日本人差別の象徴に私には思えたので、非常に不快でした。

ところが、アルゼンチンのW杯優勝を伝えるヴェルトの動画で、画面から見るに同一人物と思われるスポーツキャスターが、メッシ選手に与えられた黒いローブ「ビシュト」について、以下のようにコメントしています。

  • ローブを与えた行為は、国際的に非常に批判されている
  • 伝統衣装の着用は、政治的なステートメント
  • ローブがアルゼンチンのユニホームを覆ってしまったので、メッシ選手の大活躍と、アルゼンチン優勝という素晴らしい結果がくすんでしまった

私自身、あの場面を見た時に「最後のチャンスで夢を叶えたメッシ選手の貴重な瞬間の記念が、他国の衣装をまとった姿で後世に残るのは、ちょっと違わない?」と、個人的には感じたので、この点ではスポーツキャスターと同意見。

でも、「日本がドイツに勝った後の差別発言はニヤニヤとスルーしたくせに、これってアリ?!」と、重ねて違和感を覚えました。倫理観が人種によってクルクルと変化していると感じて。個人的な意見ですけど。

関連記事サッカーダイジェスト<「ふざけんな!」メッシの“中東ローブ姿”にはカメラマンからも怒号…カタールのエゴには呆れた【W杯】>(更新日2022/12/20)(閲覧日2022/12/20)

欧州での人種差別:当事者である日本人が抗議しないと無視される問題

欧州での人種差別:当事者である日本人が抗議しないと無視される問題

海外在住組の日本人として、私がとても残念に思ったのは、公的機関や公的立場にいる人からのドイツへの正式抗議がなかったこと。

差別された側が「ストップ!」と声を上げない限り、ヨーロッパの人は「ほら、日本人は何も言わないから、差別を続けてOKだ」と、自分たちに都合よく理解する傾向があることを、四半世紀以上におよぶスイス生活で、私は何度も経験しています。

だからこそ、W杯という世界が注目する舞台で起きた日本人/アジア人への差別言動は、公的に抗議する最適なチャンスだったのに…。

W杯で大活躍した、ヨーロッパのチームに所属している日本のサッカー選手の方たちにとっても、差別問題は身近なテーマなはずなので、なおさら残念です。

コチラ↓の記事は、日本人差別の現状を的確に指摘している内容なので、リンクを貼っておきます。

オススメの関連記事アゴラ言論プラットホーム <ドイツ人のW杯での日本人差別を日本人は何も知らない> 執筆者谷本真由美さん(更新日2022/12/15)(閲覧日2022/12/19)

ドイツの放送局という公共の場で平然と行われ、その後も真摯な対応がなされているとは言えない「アジア人差別」に抗議するため、署名運動が行われています。

海外在住者だけではなく、仕事や旅行で海外と関わる際にも、日本人/アジア人への差別が減るきっかけにつながると思います。リンクはコチラ↓。

外部リンクchange.org(日本語での内容説明あり) <アジア人差別に立ち向かう>

【欧州での人種差別:チン・チャン・チョン】スイスの公共バス車内で

【欧州での人種差別:チン・チャン・チョン】スイスの公共バス車内で

以下に綴るのは、スイス在住の私が体験した「チン・チャン・チョン」のエピソードのひとつ。エピソードが複数ありすぎることも、悲しいのですが。

私が学んだフルブール大学の建物は、有名なチョコレート製造工場に隣接した位置にあります。

その日は冷え込んでいたので、講義を終えた私は、いつものように徒歩ではなく、駅までバスを利用しました。

バスの中にいたのは、チョコレート工場見学に来ていた小学生の団体。

彼らのひとりが私を見つけると、つり目のポーズをして「チン・チャン・チョン」と私に向けて連呼。すると瞬く間に、つり目のジェスチャーをした子どもたちの大合唱が始まりました。

引率の先生が私の横にすっ飛んで来て、すぐに謝罪すると同時に、「やめなさい!」と声を上げましたが、子どもたちの行動は制御不能。

忘れられないのは、アフリカ系の生徒だけはつり目も「チン・チャン・チョン」のコーラスにも参加せず、私をとても哀しそうな瞳で見つめていたことです。

私は耐えきれなくなって、視線を外しました。そのまま彼女と目を合わせていたら、涙がこぼれそうだったので。

つり目で「チン・チャン・チョン」の大合唱:引率の先生が動揺・謝罪

つり目で「チン・チャン・チョン」の大合唱:引率の先生が動揺・謝罪

引率していた先生は人種差別反対派であることが、私への態度から明らかに伝わってきました。

長年ヨーロッパにいると、差別問題に対して建前で中立の立場を誇示する人と、心から差別に反対している人の差を、差別される側にいるアジア人の私は「感じとる」ことができます。←うなずくあなたも、欧州長期滞在組ね?

「お願いですから、この子たちの態度がスイス人全員の外国人への意見だと思わないで下さい」と、非常にショックを受けた様子の引率の先生は、繰り返し発言。

そして、スイス人が使いたがらない謝罪の言葉「Es tut mir leid(ごめんなさい)」を、駅に到着するまで何度も口にし、「まさか私の生徒たちが、こんな行為をするなんて…」と、引率の先生はとても動揺していました。

つり目でチン・チャン・チョン:差別された私が先生にお願いしたこと

つり目でチン・チャン・チョン:差別された私が先生にお願いしたこと

「今日、バスの中で起きた出来事を、あなたのクラスだけではなく、学校全体の問題として話し合う機会を設けてください。あなたは、外国人への差別をしない人かもしれませんが、スイスだけではなくどの国にも、人種差別をする人はいます。あなたが目撃者となった差別行為は、残念なことにアジア人である私が、スイスの日常生活でしばしば体験している出来事なのですから」と、私はお伝えしました。

引率の先生は、私をまじまじと眺めて、「差別をされる?あなたが?」とたずねてきました。

ノートパソコンのバッグを抱え、オシャレな身なりが好きなタイプの私は、先生の見解では「差別されないカテゴリー」の人間に該当した模様。

もっとも、服装で人を判断することも「差別」の一種なのですが。

「だって私、日本人でアジア人ですもの。差別体験は、日常茶飯事。それがスイスでの現実です」という私の返事は、実際にバスの車内で起きた「つり目でチン・チャン・チョンの大合唱」と同じくらいの衝撃を、引率の先生には与えたようでした。

小学生の団体は、私とは別の行き先に向かったため、その後到着した駅でお別れしましたが、あの先生は実際に後日学校で差別問題をテーマにしてくださったのではないかと、私は信じています。

そして私が受けた差別行為を、教師の立場にいるスイス人が直に目撃したことで、人種差別問題を意識する子どもの数がひとりでも増えたのならいいなと、私は願っています。

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あの対応で良かったのかしら…と、悩みが尽きないのが人種差別問題。特に、咄嗟に的確な対応をすることは難しいので、私もいつも悩み続けているテーマです。

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