スイスでの大学進学率と学生たちが大学に進学する目的について、実際に現地の大学で体験した内容をご紹介します。日本育ちの私にとっては、物珍しいことばかりです。
【スイスの大学】進学率は日本の1/3:スイス20%日本60%
GLOBAL NOTEが公表した「世界の大学進学率 国別ランキング・推移」の最新データによれば、日本の大学進学率は64.1%で49位。そしてスイスは63.31%で50位。
しかし、現地のスイスでスイス連邦統計局が公表したデータでは、大学進学率は22%(2019年)なのです。
スイスのテレビや新聞のメディアによる報道でも、「大学入学資格取得者は約20%で、過去10年間増加の傾向にある」と、伝えられています。
【スイスの大学進学率】
スイス国内の報道=約20% 対 国際比較データでの報道=約60%
では、実に40%ものデータの差がどこから生じたものなのか? その理由をスイス在住の私が、次にご説明していきます。
【スイスの教育制度】適性により理論か実技重視の進路選択可能
上記の図は、小学校から高等教育までのスイスの教育制度を簡略化したものです。
スイスで義務教育を修了(通常満15歳)した後、さらに高等教育を受けたい場合には、以下2通りの進路があります。
- 高校(ギムナジウム)を経て大学へ進学(20%)
- 技術/職業訓練基礎学校を経て高等職業教育学校へ進学(40%)
スイスでは、適性に沿った進路を見つけることが何より大切、と考えられているため、
- 学問重視の進路は、大学進学
- 職業人としての進路は、高等職業学校への進学
と、本人の個性を重視した進路を選択できるようになっているのです。
スイスでは、職業の専門性が学問と同じように「優れた能力」として認められています。
ですから、世界統計比較には学問と職業における高等教育両方の進路が、スイスの大学進学率と報告されているのです。しかし、「大学に進学する」という意味は、スイス現地ではスイス連邦にある国公立大学12校への進学率20%だと理解されているわけです。
また、「大学卒業」に対する観念も、日本とスイスでは異なっています。
【大学卒業】の意味に対する社会の観念
日本では「学士号取得」、スイスでは「修士号取得」
だというのが、スイス在住歴27年目の私が感じる違いです。社会の習慣に基づく違いですが、例えば「私はバーゼル大学を卒業しています」と誰かが自己紹介する場合、話の聞き手は自動的に「修士号を取得している人だ」と理解するのが一般的です。
学士号取得後に大学を去った人は、「私は学士までです」と謙遜して付け加えていますし、博士号の取得者は「私は博士号も持っています」と、余計なひと言を追加するのが定番です(←見栄っぱりの私だけではない現象です)。
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スイスの子どもたちは、15歳までには自分が将来目指す職業は何か?と、具体的に把握し、「なりたい職業」に必要な進路を選ぶことになります。
ただし、職業重視の進路を選んだ場合でも、追加試験に合格することで、大学コースへの変更は可能です(上の図にある点線)。
例えば、看護師・医療技術放射線技師・救急救命士・教師(幼稚園から中学のレベル)・ソーシャルワーカー・翻訳/通訳・建築・農林・デザイン・サービスなどの分野で活躍したいケースでは、高等職業教育学校への進路を選択することになります。
娘の母校では、義務教育修了前に「職業ガイダンス」が学校で数回、行われました。その際、高等職業教育学校に進んで選べる職業の数が250以上(!)あり、しかも各職業に専門職として技術を極めるための教育機関があったので、大変驚いた記憶があります。
【スイスの大学】大学進学目的は理論・研究分野での学問追求
以上の背景から、スイスで大学に進学する人たちは、入学当初から「学問の追求」をするために大学生になった、と申し上げても過言ではありません。
ですから、ギムナジウムの段階ですでに、大学で使える即戦力の育成が重視されています。例えば、学術論文のフォーマットでのレポート作成が盛んに行われることは、その一例です。
娘の母校はスイスのドイツ語圏にある学校で、授業はドイツ語で行われていましたが、彼女の専攻重点科目の生物と化学では、英語によるレポート執筆が推奨されていました。大学で論文を発表するための基礎作りだそうですが、添削する先生たちの熱血指導が細やかで、親の私はいつも感嘆していました。
スイスの高校以上の教育機関で、不正引用チェックのソフトウェアが使用されているお話は、コチラの記事にあります。↓
ちなみにスイスでは、大学入学資格保有者であれば、自分が進学したい大学と学部を、12の国公立大学から自由に選ぶことができるのです。詳細は、コチラ↓の記事でご覧ください。
ただし大学のブランド名ではなく、「自分が学びたいこと」が大学選びの選択の基準になっているせいか、愛校心をスイスで感じることは、あまりないです。
そして学費は、日本と比べると激安です。その分、税金はお高いですけど(笑)。