潜在記憶に45年余り眠り続けていたピンクレディの振り付けを呼び覚まし、コロナ太り対策に利用しようと思い立った私のドスンバタン大作戦のエッセイです。
まぶたに焼きつくジリアン姐さんのトリオとサボるタイミング
最近、太ってしまった。
昨年3月のスイス・ロックダウン以降、毎日欠かさず運動をしているのに、だ。
くる日もくる日も、ジリアン姐さんのかけ声に合わせてダンベルを振り上げ、ナタリーがいつチラッと手抜きするのかも、それに気づいたアニータがどこではにかむのかも、まぶたに焼きついて夢に見るほどだったのに、私が太るなんて、理不尽すぎる。
文句を言っても体重は減らないので、気分転換にオンラインショッピングで別のトレーニング法を探していたら、ものすごいモノを見つけてしまった。
それは、懐かしきピンクレディの振り付けビデオ。
変わらぬピンクレディの神々しい姿に、涙とため息
昭和の化石である私は、もうミーちゃん&ケイちゃんの神々しいお姿を目にするだけで、涙が出てくる。
変わらぬスタイルの良さにも圧倒されるが、おふたりのツヤツヤした肌と髪の毛の美しさに、ため息。
そりゃ少しは最新医療に頼ったお手入れをしているかもしれないけれど、おふたりが放つパワーとしなやかさは、けっして人工的には作れない、内面から生まれたオーラであることが画面を通じても明らかだ。
熱望! ピンクレディ開発・宣伝の美容液なら海を超えてサブスク
ミーちゃんとケイちゃんが、
「これをつければ、あなたのシワも飛んでいく! ピンクレディ・リンクル♬」
と新美容液の開発・宣伝を始めることがあったなら、バブル世代の私は絶対に飛びつくに違いない。スイスへの高い送料を払うことになっても、ピンクレディの美容液なら、海を超えてサブスクしてしまうことが確実だ。
45年の時を超えて、ピンクレディの踊りに挑戦
ジリアン姐さんを振るようで申し訳ないのだが、楽しくないと毎日体を動かせない。
今日からしばらくの間、ピンクレディと一緒に踊ることに決めた私は、早速彼女たちの振り付けのおさらいをすることにした。
ピンクレディを踊るなんて、なにしろ45年ぶりくらいなので、どこまで振り付けを覚えているか自信がない。
とりあえず、「ペッパー警部」「ウォンテッド」「渚のシンドバッド」を選び、最後のシメに「UFO」で第1日目のトレーニングを終了する計画を立てた。
驚きの事実を発見! ピンクレディの振り付けは私の「潜在記憶」
まず椅子に座ったままの状態で振り付け動画を拝見することにした私は、すぐさま感動の嵐に包まれた。
ミーちゃん&ケイちゃんの女神様のような姿はもちろんのこと、手の動きだけでケイちゃんの振り(←私の定番パート)をなぞってみたら、なんと体が自然に動くのだ。
私の潜在記憶に45年間もセーブされ、お呼びがかからなかったピンクレディの振り付けが、まさかスイスで再び日の目を見ることになるとは…。
ちなみに私が体験したこの現象は、心理学で「潜在記憶」と呼ばれます。
私たちが一度マスターした技術、例えば自転車に乗る、テニスをするといったテクニックは、「無意識のレベル」で記憶にセーブされるため、どれだけ時間が経過しても必要であれば記憶から呼び出すことができるのです。
↑とても興味深い記事です。 私のエッセイにリンクを貼られて、関係者の方々が気分を害さないことを祈っています。
懐中電灯の代わりに、マイクを大人買いすることを決意
興奮がおさまったところで、いよいよトレーニングを開始。
自宅にある懐中電灯が巨大すぎて、マイクの代わりが務まらないため、次回の買い物メモに早速書き込む。
しかしなぜ懐中電灯。大人になった今、本物のマイクを買っても誰も咎めないというのに。
初日の今日は手ぶらで歌う事になるけれど、致し方ない。
♬タ・タッタッタッタッ・タラタラ〜♬
ペッパー警部のイントロが流れ出したところで、ハイヒールを履いていなかったことに気づいた。
クルーズ旅行用の15cmヒールを引っ張り出そうかと思ったが、ヒールで歌って踊る自信がないので、トレーニング用のスケッチャーズのままで続行することにする。
いよいよ、振り付けトレーニングを開始
あらかじめ4曲選んでいたのに、踊り出してから振り付け動画には2番の歌詞も含まれていることを知る。
だけど、4曲合計しても20分に満たないはず。なんとかなるわ、と負けず嫌いの私はここで後に引けない。
息を切らしながら、2曲めの「ウォンテッド」を踊り終えた。
歌はもう完全に口パクだ。声が出ないもの。
3曲目は「渚のシンドバッド」。
初めの♬ア・ア・ア・アン♬のところでは手の動きだけだから少し休めると思ったら、とんでもなかった。
その直後に片足で軽やかにジャンプする振りがあるのだが、私にだけかかる特別な重力があるらしく、ピンクのおふたりのテンポについていけない。
ピンクレディの説明、家庭内の文化の壁にぶち当たる
9回裏ツーアウト満塁で逆転ホームランを打たれた投手のように、膝に手をついてうなだれていると、突如娘が私の部屋に乱入してきた。
まったく、ノックもせずに人の部屋に入るなんて、どこの誰に似てしまったのか(私でないことは確実)。
「どーしたの?!」と目をひんむいて聞かれても、息切れ中の私は答えられない。
手で「待って」のサインを出す私を横目に、娘の目は私を取り残して華麗にステップを踏み続けているミーちゃん&ケイちゃんに釘付けだ。
娘はかなり、戸惑っていた。
娘の目に映るのは、コスプレもどきのミニドレスで歌って踊る妙齢の美女2人組、そしてゼイゼイとうなだれている母の姿。
日本のレジェンド・ピンクレディの存在を、どうすればスイス育ちの娘にうまく説明できるのか。
あぁ、家庭内にはびこる文化の壁が恨めしい。
ピンクレディの年齢当てクイズ、娘に理論で突破される
何故か突然、「それは秘密です!!」の桂小金治さんが思い浮かんだ。
そうだ、あの番組のように説明すればいいのね!
「この人たち、ピンクレディっていう日本の大スターで、ママが子どもの頃にものすごく人気があったの」と、考えた割にはあっさりしすぎの説明を加えた私は、「ねぇ、ふたりとも何歳くらいだと思う?」と娘に聞いた。
「日本語で歌っているから、日本のスターだと想像がつくわよ。それに…」
伸ばした人差し指を左右に動かしてチッチッと言いながら娘が続ける。
「だいたいさ、質問の仕方がクイズに不向きだって気づかない? 『ママが子どもの頃に有名で活躍していた』ということは、彼女たちはママより少なくとも7〜10歳は年上のはず。それに年相応な容姿なら、あえて『何歳だと思う?』と聞く必要がない。だから、若く見えるってことでしょ?」
と来たもんだ。
ピンクレディの年齢を当てる話まで、論理的に考察するあなたはそうよ、天才児。
私はただ、「え〜、若く見える、スゴーイ! ふたりともキレイだし、踊りも上手ね」風の回答を期待していたので、つまらない。
しょんぼりしていると、私の心の中を読んだかのように、「でもふたりともキレイね」と棒読みで言い、「とにかく、派手に飛んだりすると膝や腰を痛める可能性があるから、気をつけてよ。それに、この次彼女たちの動画で踊るときには先に声かけてね。物音でびっくりするから」とのたまいて、娘は部屋から出て行った。
気分を削がれた(本音=実は体力が持たない)私は、まだ残っていた「UFO」には次回チャレンジすることにして、本日のトレーニングを手仕舞いすることにした。
そして、自分が動くかわりにYouTubeで見つけた少年隊の動画を見て気分転換をすることにした。どうせバック転はできないから、これなら自分で挑戦しなくて済むので楽。