スイスで大人気の心理学部は、大学入学後に実施される「入試」があるため、弱肉強食の世界。
唯一のアジア人、しかもアラサーだった私を待ち受けていた完全「ぼっち」の学士1年目での体験と、サバイバル術をご紹介します。
【スイスの大学心理学部の実態】大学1日目の教授挨拶が衝撃的すぎる
進学希望の学生が殺到するため、大学入学後にPropädeutikum(プロペドイティクム)と呼ばれる選抜試験が実施されているスイスの心理学部。
私が通っていた外国人用の大学入学資格予備校の校長先生からも、「心理学は、スイス人学生にとっても、大変なことで有名。専攻を変えたほうがいいんじゃない?」と、進路決定時に何度も助言されたほどでした。
それでも私は、自分で選んだ心理学の道に進んだのですが、大学初日に耳にした主任教授の挨拶は、衝撃的でした。
暗記・英語・数学が苦手な学生は心理学に不向き。専攻変更のすすめ
主任教授は、大学側に全希望者を受け入れるキャパシティがないため、心理学の選抜試験は純粋な「ふるいわけ」であると、強調。
合格ラインに達するためには、
- 暗記力:大量の心理学基礎知識を詰め込みで覚える必要性
- 英語力:心理学では論文や専門書を理解して操る英語力が必須
- 数学の応用力:統計データの操作・分析は学問としての心理学の中核
といった能力面で秀でていること、そして努力を惜しまない姿勢が不可欠であり、大量のレポート提出・課題のプレゼンテーションも、学生を待ち受けているため、「かなり厳しい学生生活になる」と、教授は学生に伝えました。
そして最後のトドメに、「ここにいる学生のうち半数は、入試で不合格になると予想されるので、『自分にはムリ』と感じる人は、すぐにこの場を立ち去り、別の専攻を選ぶように。その方が、時間とエネルギーのロスを、学生と大学、両者でセーブできますから」とのこと。
主任教授の発言に、一瞬シーンとなった講堂の静けさを破るように、30人くらいの学生が、次々と退室。
すると主任教授は、満足そうにうなずき、「それでも選抜試験にチャレンジしたいという、ガッツあふれる皆さんの健闘を祈ります。では!」と、笑顔で私たちにエールを贈ったのでした。
後から振り返ると、教授の指摘はごもっとも。心理学の選抜試験を突破できた学生は、暗記力・英語力・数学応用力、そして忍耐力のある学生ばかりでした。
【スイスの大学心理学部の実態】多岐にわたるライバル蹴落とし手段
総勢200人ほどの学生が、選抜試験合格を目指してスタートした大学生活は、受験戦争そのものの環境でした。
どの学生も、自分が勝ち残るために必死。
「自分にとって損にならない他人と、自己防衛のために最低限のコンタクトを保つ」といったイヤな雰囲気が、新入生の間には充満していました。
スイス大学心理学部の受験戦争:講義内容オリジナルファイル続々消失
当時はまだ講義内容がデジタル化されていなかったため、各科目の主要点(教授が作成したパワーポイントなど)は、学生各自がコピーするアナログシステムでした。
ところが、主要点をまとめたオリジナルファイルが、専用戸棚からなぜか次々と消失し、コピーをし損ねる学生が続出。
新たに補填されたファイルも瞬く間になくなり、「卑怯な手を使うのは、おやめなさい」と、腹を立てた教授が講義の最中、特定されなかった犯人に注意を促すなんてことも、ありました。
自分が無事コピーできた資料と、できなかった資料を学生同士が照らし合わせて、「物々交換」(!)をするのが、あたりまえの日々でしたね。
スイス大学心理学部の受験戦争:「私の課題プリントは私のモノ」の姿勢
また、数人の教授はなぜか毎回、学生数の3分の2に行き渡る量の課題プリントしか用意していなかったため(理由は不明)、必須課題が手に入らない学生も続出。
入手できなかった場合、コピーさせてくれる学生を見つけるのも一苦労でしたので、私はいつも前方の席に座るように、心がけたものです。
不合格率確定組?外国人アラサーの私に起きた大学でのプリント外し体験
それでもある時、隣の席の学生が私を飛ばして次の列に課題プリントを手渡したため、声をかけたら、「どうせ不合格確定のお前には、必要ないんだよ」と言われ、フリーズ状態に陥った私。
けれども、瞬時に考えました。
この学生の行動に対し、
- 何も反応しない場合:私へのプリント外し行為が繰り返される可能性
- 咎める場合:全学生の前で「不合格確定で当然」と、笑い者にされる可能性
のどちらのリスクが、高いだろうかと。
でも、選抜試験前の学生たちは皆、「ぼっち」状態。その中でも完全にアウェー状態の私が笑い者になっても、現状と大差はないのではと、私は思ったのです。←伊達に歳を重ねたわけではない証拠かも。ま、面の皮が厚いのでしょう(笑)。
そこで私は挙手をし、「すみませ〜ん、この学生が『私には必要ないから』と、プリント手渡しを拒否したのですが、これは問題行動ではないでしょうか」と、教授に質問。
すると教授は、「おやおや…。私は大学に勤務しているはずなのに、ここは幼稚園ですか」と失笑し、隣の席の学生が確保していた本人用のプリントを、私に渡すように指示。
さらに教授は、真っ赤になったこの学生に、「全員に『イジワルな奴』と認定されて、モテなくなったかもしれないね。イジワルするよりあと1時間、睡眠時間を削って勉強した方が、良かったんじゃない?」と追い討ちをかけてからかってくれたので、この後私がプリント外しをされることは、幸いにもありませんでした。
ちなみにこの学生は、選抜試験で不合格になりました。ウフフ♪ ←私の方が、イジワル?!
【スイスの大学】心理学選抜試験前、グループ作業は完全ぼっちのつらさ
学生の中には、日本旅行の経験者も多く、彼らとは資料の物々交換をしたり、あたりさわりのないおしゃべりをしたりする関係だったのですが、グループ作業になると、話は別。
プレセミナーとして、2〜3人組でテーマを科学論文のフォーマットに沿って作り、提出・プレゼンテーションする課題が次々に出されたのですが、ドイツ語が母国語ではない私は、完全にぼっち状態。
どの学生も、私との共同作業で自分の評価が下がることを懸念していたようで、私から頼んでも、「悪いけど…」と拒絶率100%でした。
「でも、私が日本で同じ環境にいたら、日本語が下手な外国人学生と同じグループで作業をするのは、やっぱりリスク要因と思うかも…」と考えると、彼らを恨む気には、なれませんでした。
学生は皆、自分の身を守って選抜試験を突破するために、必死だったので。
結局、学士1年目のグループ作業課題は、常にワンオペだった私。
「ひとりで少なくとも2倍の量は課題をこなす私って、スゴイ!」と、自分自身をほめ殺してごほうびのチョコを買うなど、積極的に心のケアはしていました。
だけど、プレゼンテーションのたびに、私だけ毎回ひとりで壇上に立ち、学生から視線を浴びるのは、つらかったです。
馬鹿にしたような視線なら、「フン!」と弾き返せるけれど、憐れみの視線は、心にグサッと突き刺さりましたから。
【スイスの大学心理学部の実態】選抜試験前は全員ぼっち/私の打開策
私が外国人でアラサーだったからだけではなく、学生皆がネガティブな環境に悩まされていたのですが、この状態で選抜試験終了まで(当時は約10ヶ月間)過ごすのは、明らかに「めっちゃシンドイ」のは確実。←このつらさは、スイスの大学で学士課程から心理学を専攻した人間のあるある体験(泣)。
「大学登校拒否になる前に、なんとかせねば」と考えた私は、「どうすれば、学士1年目以外の人と、大学内でポジティブな人間関係を築けるだろう?」と、頭をひねりました。
そこで私が思いついたのが、研究助手になること。
とはいえ、選抜試験に合格するまでの学士1年目では、週に2〜4時間の雑用係だったので、大したことはしていません。
ただ、このアイデアのおかげで、すでに博士課程にいた先輩学生たちから、英語論文を読む際のコツや、研究データの見方に関するヒントを数多くもらえたことは、予想外のメリットとなりました。
そして何より、いちばん嬉しかったのは、変に勘繰ることなく、言葉を交わせる人間関係を、大学内で見つけられたこと。
あのまま孤立した状態で、選抜試験に臨んでいたら、スイスの大学で心理学を学ぶ道は、私には閉ざされたままであっただろうと、思っています。
海外の留学先や在住国で孤軍奮闘している方や、完全に浮いてしまう環境で目標にチャレンジしている読者の方も、ポジティブ・エネルギーの源を見つけて、心の充電ができますように!
スイスから、応援しています♪