いち早くICT教育完全対応化を図った娘の母校は、スイスのNo.1どころか、OECD加盟国のトップレベルを目指す教育指針を実行していた、良い意味で野心的な学校。
けれどもその私立高校で、全授業内容が一斉にICT教育で徹底されると決定した際の学校側の対応は、日本育ちの私だけではなく、多くの保護者が「そんなの、あり?」と唖然とした内容でした。
100%ICT教育化される授業に適切な端末を用意しない生徒が、授業でデメリットを経験しても、各家庭での「自己決定による結果なので、自己責任」と、学校側が保護者からの苦情を一蹴したからです。
ICT教育とは?
本題に入る前に、ICT教育の定義について。
海外に住んでいるくせに、意味のわからない横文字が多発する文章は、私自身苦手なので(笑)。だって、中身のない発言ほど、横文字多発率が高いんですもの。
【ICT教育】
引用元:コトバンク 出典 朝日新聞出版 知恵蔵mini (閲覧日2022/10/20)
情報通信技術(information and communication technology)を活用した学校教育のこと。デジタルテレビや教員用コンピューター、インターネット環境下での学生用タブレット端末などを用い、教育の質の向上を目指す。
【ICT教育完全徹底化】極小文字で書かれた高校からのお知らせ
アラカンの私が実体験から学んだことのひとつは、「極小の文字サイズで記されている情報は、ヤバい内容」という事実。←当たってるでしょ?
娘の高校が配布した「保護者の皆さまへのお知らせ」は、極小フォントでしかも分厚いという、悪いことづくし。
お知らせの内容は、学校側のICT教育完全対応化の準備が完了したので、学年の途中だけれども新年からすべての授業が、ICT教育に移行するというものでした。
ICT教育に必要な機器の購入:あくまでも推奨で自己決定を促す高校
娘の母校は、当時でも小学校低学年からブラインドタッチ、小5から一部の宿題はデジタル提出が必須、そして年に1回、警察のインターネット犯罪のエキスパートが、生徒たちにデジタル文化の正しい知識をレクチャーしていたほど。
ですから、高校での完全ICT教育化は想定内だったものの、「保護者の皆さまへのお知らせ」は、実にまどろっこしい内容でした。
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完全ICT教育化される状況で、生徒の理想的な学びの環境を実現するために、学校側としては適した端末の所持を、強く推奨いたします。
わが校のICT教育に適している機器は、「タッチパネル対応型のノートパソコン」となります。わが校のICT教育に最適な機器を、あらかじめ以下に10種類ピックアップしましたので、ぜひご参照ください。
ただし、当校が推奨するモデルは、上の2つのみです。
したがって、ICT教育導入後の問題発生時の学校側の対応も、このどちらかの機種を利用している生徒の場合に限られますので、あらかじめご了承ください。
わが校のICT教育の授業形態に適さない機器を利用する生徒の学習状況に問題が生じても、それは各ご家庭の「自己決定による自己責任」とみなされますので、その点もどうぞご理解ください。
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・・・と、推奨と言いつつ、推奨に従わなければ、「それは自己決定による問題ですから」という、突き放したような文意でした。
【ICT教育完全徹底化】指定の端末購入推奨で大騒動の保護者会
ちなみに娘の母校は、それまで完全にMac一本槍で、上記のお知らせが配布されたのは、4年制高校の入学から、わずか3ヶ月後の時期。
高校の附属中学または附属長期高校の生徒には、高校入学前に「まもなくICT教育が徹底されるので、高校進学時に新しい端末を買わないように」というお知らせがあったのですが、外部からの新入生には、何の通達もなかったそう。
ですから外部新入生は皆、高校入学直後にマックブックを購入済み(涙)。
高校が推奨していた2つの「ICT教育用タッチパネル対応型のノートパソコン」は、どちらもお値段が約25万円のモデル(!)だったのですが、学校側は「購入はあくまでも推奨なので、反対派のご家庭には自己決定の自由があります」の一点張り。
「じゃあ、ウチの子には推奨機器を購入しません」と発言する保護者も、続出していました。
ママ友ネットワークのおかげで、わが家では学校が推奨していた端末を、クリスマスセールの特売で無事購入。「推奨されていたモデルを初めから購入して、良かった!」とホッとしたのは、学校側の一貫した対応に、ゾッとしてからのことでした。
【ICT教育完全徹底化】自己決定で別機種を使う生徒のデメリット
「ICT教育が徹底されると、授業はどうなる?」の実態を、生徒と保護者が理解できたのは、導入後のことでした。
教師と生徒のコミュニケーションは、すべてタッチパネル対応型のノートパソコンで連携して行われるため、授業内容・グループでの作業・宿題も、学校が推奨した端末がなければ、阻害されている状態。
マックブックをそのまま利用した生徒はもちろんのこと、推奨機器以外のノートパソコンを購入してしまった生徒さんは、データが上手く反映されず、同じテンポで授業に参加できないトラブルの連続だったとか。
学校の方針により、どの先生も「推奨機器以外の生徒の手伝いはしない」態度を貫いていたため、マックや非推奨品を使う生徒さんは、授業の全材料を自宅でプリントアウトして持参するという、アナログ方式でしか解決策がなかったようです。
結局、ICT教育がスタートしてから数週間後には、クラス全員が学校推奨の端末を購入していたというのも、うなずけます。
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生活のあらゆる面で、個人の自己決定権が尊重されているスイス社会。
高校のICT教育完全徹底化における、推奨機器購入に関する出来事は、「自己決定には、自由と責任が伴う」という意味の重さを、私が実感したエピソードのひとつでした。
そして、このような社会背景があるので、スイスでは自己決定権を尊重する安楽死が、広く受け入れられているのではないか、と私は思うのです。