チューリッヒダンスアカデミー、生徒への虐待疑惑で行政調査開始

スイスのニュース

チューリッヒ芸術大学に属するチューリッヒダンスアカデミー(Tanz Akademie Zürich、略称taZ)で、学生への心理的虐待が行われていたことを、スイス人ジャーナリストがドイツ週刊新聞「Die Zeit(ディー・ツァイト)」で報道。

その結果、虐待の事実関係を明らかにするための行政調査が行われると決定しました。

「Die Zeit」が報道しているチューリッヒダンスアカデミーにおける虐待行為は、以下の通り。

過去5ヶ月間にわたりスイス人ジャーナリスト、バーバラ・アッヘルマン(Barbara Achermann)さんが調査した内容に基づく報道です。

【チューリッヒダンスアカデミー(taZ)への批判】

  • 2007年〜2021年に在籍していた13名の学生が虐待行為を告発
  • taZでの虐待行為:心理的虐待・過度の食事制限
  • 特定の教師ではなく、「学校のシステム」として虐待が行われていた
  • チューリッヒ芸術大学学部長が事実認識するも、虐待行為は少なくとも2021年まで続行
参照元の記事:

ZEIT ONLINE <Missbrauchsvorwürfe an der Tanzakademie Zürich> 
(更新日2022/06/01)(閲覧日2022/06/02)

チューリッヒダンスアカデミー(taZ)とは?

チューリッヒダンスアカデミー(taZ)とは?トウシューズが3足。

スイス公立チューリッヒ芸術大学の芸術・映画学部に属するダンスアカデミーで、創立は2005年。

チューリッヒダンスアカデミー(taZ)のホームページによれば、

  • 11歳〜19歳の子どもと青少年を対象に、将来的にプロの道を歩むクラシックバレエのダンサーを養成することが目的
  • 国際的に名高いバレエ学校で、世界中から100名余りの生徒がtaZに入学・在籍。寄宿舎も完備
  • taZの卒業生が、世界で指折りの著名なバレエ団に就職している事実が、taZにおける優れた指導内容を証明
  • 有名なバレエコンクール、ユース・アメリカ・グランプリ/ローザンヌ国際バレエコンクール/ベルリンのTanzolymp参加者のためのパートナー校(この記載事項はドイツ語版でのみ)

とのこと。

外部リンク:
チューリッヒダンスアカデミーのホームページ(ドイツ語版)
チューリッヒダンスアカデミーのホームページ(英語版)

注:日本語でのGoogle検索では、チューリッヒダンスアカデミー(Tanz Akademie Zürich)を「スイス国立」と表記している記事が目立ちました。しかしチューリッヒダンスアカデミーが属するチューリッヒ芸術大学は「公立大学」です。

ちなみにスイス連邦にある「国立」大学は、連邦工科大学チューリッヒ校とローザンヌ校の2校のみ。その他の「公立大学」は、各大学所在地の「州立大学」となります。

記事の内容には関係ないのですが、スイス・バーゼル大学卒の私としては気になりましたので、補足情報として追加します。

【チューリッヒダンスアカデミーでの虐待行為】新聞社が暴露した内容

【チューリッヒダンスアカデミーでの虐待行為】新聞社が暴露した内容

チューリッヒダンスアカデミー (taZ) での虐待行為を調査したドイツの週刊新聞「Die Zeit(ディー・ツァイト)」は、ドイツ国内のみならず、ドイツ語圏でその質の高い報道内容が、高評価されています。推定読者数は、200万人(2021年度)。

調査を担当したスイス人ジャーナリスト、バーバラ・アッヘルマンさんが「Die Zeit」に報道した内容は、以下の通り。

taZに在籍していた13名の学生が虐待行為を告発

taZに在籍していた13名の学生が虐待行為を告発。日記が証拠

ジャーナリストが証言を得たのは、2007年〜2021年まで実際にチューリッヒダンスアカデミーに在籍していた男女13名。

彼らのうち数名は、体験した虐待行為を日記で残していることが、証言の信憑性を裏付けているそうです。

taZでの虐待行為:心理的虐待・過度の食事制限

チューリッヒダンスアカデミーに対する元学生たちの証言は、凄まじい内容です。

taZでの虐待行為:心理的虐待

【チューリッヒダンスアカデミーでの心理的虐待】

  • バレエ教師が「落ちこぼれ」と認定した学生は、「恥さらしのバー」と呼ばれるレッスン場のバーで踊ることを強制された
  • 日常的な暴言:
    「お前の踊りは、海に流されている糞のような踊り方」
    「まるでハンバーガーが踊っているよう」 (←「肉の塊」と体型を比喩するやじ。サイト運営者注釈)
    「お前はバカだ」
    「お前は絶対成功しない」

引用元:SRF(スイス公共放送)Tanzakademie Zürich <Du siehst aus wie ein tanzender Hamburger> (更新日2022/06/02)(閲覧日2022/06/02)に記載されていた内容を、サイト運営者が日本語に翻訳

13名の証言者のうち数名は、不安症・うつなどの精神疾患や自殺願望に現在まで悩まされ、投薬治療を必要としているそうです。

記事には、「暴力行為」もあったとありますが、具体的にどのような状況で暴力がふるわれたのかについては、言及されていません。

taZでの虐待行為:過度の食事制限

taZでの虐待行為:過度の食事制限

チューリッヒダンスアカデミーは、在籍する学生たちのBMI(Body Mass Index)が16〜18であるように、明確な規定を掲げているそうです。

【世界保健機関(WHO)のBMI指標】

  • 16未満=痩せすぎ
  • 16以上17未満=痩せ
  • 17以上18.50未満=痩せぎみ
  • 18.50以上25未満=普通体重

引用元:フリー百科事典 ウィキペディア日本語版:ボディマス指数 (閲覧日2022/06/05 11:00 UTC)

証言者のひとりは、「私たちは、『子どものようなスタイル』であることが要求されていた」と発言。

極端な食事制限により、証言者自身は生理が止まり、多くの女子学生が摂食障害に悩まされていたとのことです。

また、女子学生が成長期のホルモン変化に伴い、体に脂肪がつき始めると、「食事内容のプロトコール」の記入が義務付けられ、理想の体型になるまで痩せることも、チューリッヒダンスアカデミーでは強制されていたそうです。

特定の教師ではなく、「学校のシステム」として虐待が行われていた

特定の教師ではなく、「学校のシステム」として虐待が行われていた。ヒエラルキーの画像

注目すべきは、上記の心理的虐待行為が特定の教師によるものではなく、「毎日、異なる教師陣によってチューリッヒダンスアカデミーで行われていた」という元学生たちの証言内容です。

チューリッヒ芸術大学学部長が事実認識するも虐待行為は続行

チューリッヒ芸術大学学部長が事実認識するも虐待行為は続行。抵抗する人

チューリッヒダンスアカデミーに在籍していた学生たちの両親は、学校の責任者に繰り返し、子どもたちが受けた虐待行為を報告・抗議していたと、証言者たちは発言しています。

しかし、現状は変わらぬまま、今回の新聞報道に至ったようです。

チューリッヒダンスアカデミーが属するチューリッヒ芸術大学芸術・映画学部のマリイケ・ホーゲンボーム学部長は、「Die Zeit」からの問い合わせに対し、

チューリッヒダンスアカデミーで教師陣が学生に向かって、言葉の選び方・言い方または授業方法を好ましくない形で行なっていたことは認識している。

そのため、指導内容の質を確かにするための対策をすでに導入済みであり…、「バカにする・差別するまたは人種差別と受け止められる態度を許さない」規則を掲げた。

引用元:ZEIT ONLINE <Missbrauchsvorwürfe an der Tanzakademie Zürich> (更新日2022/06/01)(閲覧日2022/06/02)に記載されていた内容を、サイト運営者が日本語に翻訳

と発言しています。

しかし「Die Zeit」の調査では、少なくとも2021年まで、チューリッヒダンスアカデミーにおける虐待行為は続いていたということです。

チューリッヒダンスアカデミーの虐待疑惑、正式に行政調査開始

チューリッヒ芸術大学のトーマス・マイヤー学長は、チューリッヒダンスアカデミーでの虐待行為を行政調査として行う意向を、2022年5月31日(「Die Zeit」記事報道の前日)に決定したと公表しています。

チューリッヒダンスアカデミーに対する行政調査には、学外の専門家が調査を担当し、虐待事実の解明に当たるとのこと。

行政調査は、2022年末まで行われる見通しなので、調査終了時まで、詳細は公表されない模様です。

チューリッヒダンスアカデミーの校長を務めるオリバー・マッツさんとシュテフィ・シェルツァーさんに対しての法的な措置は、現在まで何も行われていないそうです。

オリバー・マッツさんとシュテフィ・シェルツァーさんは、2022年6月末、学校の責任者としてのポジションと教職から、自主的に退いています。

【チューリッヒダンスアカデミーの虐待疑惑】スイス在住バレエママの私見

拒食症の少女と体重計

クラシックバレエのお稽古歴13年の娘を持つ、スイス在住の私が今回の「Die Zeit」によるチューリッヒダンスアカデミーへの告発を知った際の正直な気持ちは、「あぁ、やっぱり…」。

実は娘のバレエ仲間がふたり、2021年にチューリッヒダンスアカデミーを受験して、不合格となりました。

実際に不合格の原因がどのように受験生に伝えられるのかは、私には知る術はありません。しかし、娘がふたりから直接聞いた不合格の原因は、体型だったということ。

娘の友人たちの体の「細さ」を、実際に踊る姿から知っている私は、不合格原因が体型であることに、強い違和感を覚えたものです。

「彼女たちが『十分に細くない』って、どういうこと…」と憤慨していた私に娘は、「ウチのバレエスタジオに短期間通っていたSちゃん、覚えてる?彼女は16歳のときにチューリッヒダンスアカデミーに入学できたのだけど」とたずねてきたのです。

「チューリッヒダンスアカデミーに合格できるのは、彼女みたいな『お子様体型』のままでいられる子じゃないと無理だって言われているから、私のお友だちの『細さ』だけでは足りないのよ」という昨年の娘の発言と一致する元学生の証言を、今回の「Die Zeit」による報道で読み、非常に複雑な思いが込み上げてきました。

幸い娘のお友だちはその後、別の学校に合格し、プロのダンサーを目指して邁進しています。

娘のお友だちの場合、ご家族の温かいサポートと、その後の成功体験によって再び心の安定を得ることができました。

けれども、まだしっかりとした自己が確立されていない青少年たちが、大人、しかもその業界で成功を収めた教師から「体型」に関する批判的コメントを受けることで追い詰められていく過程は、容易に想像できます。

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クラシック・バレエだけではなく、「体そのもの」が中心となるスポーツ競技では、過剰な食事制限に苦しむ選手たちの経験談が報道されることは、残念ながら珍しくはありません。

今回のチューリッヒダンスアカデミーに関する報道が、スポーツ界全体において「子どもの人生を豊かにする」スポーツ本来の目的を取り戻すための一石を投じるものであることを、願っています。

・・・なんとバーゼル劇場付属バレエ学校の元生徒33名が、チューリッヒダンスアカデミーへの批判とほぼ一致している虐待経験を告白した内容が、スイスの新聞社によって」報道されました。詳細は、コチラ↓。

成長過程の子どもたちに平然と食事制限をさせる悪徳バレエ教室に関する記事は、コチラ↓。

バレリーナに不向きの体型だったため、プロになる夢をあきらめざるを得なかった娘の友人。生まれつきの体型への批判に挫けず、自ら新しいチャンスを獲得し、ミュージカル女優という新しい夢に向かって邁進している彼女のシンデレラ・ストーリーは、まだ始まったばかり。興味のある方は、コチラ↓の記事へ。

子どもを安心して通わせることのできるバレエ教室の見極め方を、私が見聞した体験に基づいて作成しました。少しでも参考になれば、幸いです。

<参照サイト>

ZEIT ONLINE <Missbrauchsvorwürfe an der Tanzakademie Zürich> 
(更新日2022/06/01)(閲覧日2022/06/02)

SRF(スイス公共放送)Tanzakademie Zürich <Du siehst aus wie ein tanzender Hamburger> (更新日2022/06/02)(閲覧日2022/06/02)

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