四半世紀も潜伏している私でさえ、いまだに支払いのあとレシートを握りしめ驚愕することがあるほど高い、スイスの物価。
まだ、慣れない。というか、慣れたくないのです。高すぎるから。
ところが、国公立大学の学費は、物価高のスイスでは信じられないほど激安!しかも入学金なし!
実際にスイスの公立大学を卒業した私が、最新のデータを用いて日本の状況と比較しながら、学費に関する情報をご紹介します。
この記事で取り上げるテーマは、こちらです♪
- 日本とスイスの物価比較:スイスの物価はどのくらい高い?
- 激安! スイスの国公立大学の年間の学費と存在しない入学金
- エピソード:私の学費が高いせいで同級生たちがデモ?!
- 太っ腹! なんとドイツでは公立大学の学費がタダ!!
日本とスイスの物価比較:スイスの物価はどのくらい高い?
スイスの物価は、高いことで有名です。
世界各国の生活費の高さを比較したNUMBEOのデータ(2021年中期)では、スイスは2位、日本は12位にランクインしています。
参考サイト:NUMBEO.com: Cost of Living Index by Country 2021 Mid-Year
(閲覧日:2021年8月13日)
ビッグ・マック指数:スイスと日本の比較
スイスと日本の物価のちがいを具体的に把握するために便利なのが、イギリスの経済誌・The Economistが1986年から毎年発表しているビッグ・マック指数。
参考サイト:世界経済のネタ帳 世界のビッグマック価格ランキング
(閲覧日:2021年8月13日)
スイスと日本のマクドナルドで販売されているビッグマック1個の値段を日本円に換算して比較すると、
スイス=774円 ビッグマック指数= プラス24.68
日本=390円 ビッグマック指数= マイナス37.21
海外旅行で、ビッグマック指数が高い国では、お財布の紐がかたくなる、逆に指数が低い国では買い物三昧になりがち、ということですね。
あなたはいつも買い物三昧じゃなくて?
ええ。海外旅行中、散財するのはもうワタクシの性格の一部。
日本の神社で引いたおみくじにも「旅行での散財に注意」と書いてありました。しかも2回も。神様はお見通しのようです。
こんな私でも、スイスの物価の高さ、特に外食費の高さにはいまだに慣れません。支払いのたびに、清水の舞台から飛び降りている気分。
スイス旅行で、テイクアウトやレストランでの値段の高さにびっくりされた方も多いのではないでしょうか。
激安! スイスの国公立大学学費と存在しない大学入学金【体験談】
なんでも値段が高くてあたりまえのスイスでも、例外はあります。
それがなんと、国公立大学の学費。
スイス国公立大学の学費を、いくつかピックアップしてまとめた表がこちらです。
スイスでは、セメスターごとに(1年に2期)学費を支払うシステムなのですが、日本と比較しやすいように、表では年間学費を記入しました。
大学名 | スイス人学生 | 外国人学生 |
バーゼル | 学士・修士課程:〜20万円 博士:〜8万円 | 同額 |
ベルン | 〜18万円 注:12セメスターが始まるときには〜36万円、 以後追加されるセメスターごとに倍額で増加 | 〜23万円 |
フリブール | 学士・修士課程:〜20万円 博士:〜7万円 | 〜24万円 |
チューリッヒ | 学士・修士課程:〜17万円 博士:〜3万6千円 | 学士課程:〜29万円 修士・博士:〜6万円 |
ETH チューリッヒ | 〜17万円 | 同額 |
参考サイト:swissuniversities.ch: Gebühren
(閲覧日:2021年8月13日)
表で例に挙げた大学のうち、ETH チューリッヒ(連邦大学=国立)以外の4校は州立大学。各州立大学の学費の詳細が異なるのは、それぞれの大学が所在する州の条例がちがうためです。
日本の国公立大学の学費はどのくらいなのかというと、国立大学では年間授業料53万5800円が標準額。ただし各大学の判断で2割増までの増額が認められているとのこと。ちなみに入学金は28万2000円。
公立大学はほぼ同額ですが、大学がある地域の居住者かどうかで学費に差が出るそうです。
私は居住地とは別の州にある公立大学に通いましたが、スイスの公立大学では居住地による学費のちがいはありませんでした。
先ほどのべたビッグ・マック指数で換算したビッグ・マック1個の値段が、
<スイス=774円 日本=390円> であることをふまえると、物価高にもかかわらず、スイスの学費は低くて助かったと胸を撫でおろす私どもの親心が、ご理解いただけると存じます。
加えて、スイスの公立大学では、入学金そのものがありません。これって、ドヒャッ〜って驚きですよね!
実は私、入学金のことで大学の学生課に問い合わせた経験があります。
なぜかというと、「新入生へのお知らせ」というペラペラのブックレットとともに同封されていたのが、当時確か日本円で7万円くらいの、年度上半期の学費請求書。入学金の請求書は入っていなかったので、電話で問い合わせをしました。
あの〜、私は新入生で、学費のことでちょっとおたずねしたいのですが…。
あ、心配しなくて大丈夫ですよ。正式な書類をそろえてくれれば、減額・免除、それから奨学金の方法もありますからね。
いえ、そうじゃなくて、入学金の請求書が同封されていなかったので。
入学金? あぁ、図書館の貸し出しカードと、大学専用のフィットネスジムを使うなら別途にそれぞれ20フラン(2000円強)かかるけど、そのことかしら?
結局、係の方も私も、キツネにつままれた思いで電話を終えたのでした。
スイス国公立大学学費:留年者には学費値上げ作戦でお引き取り願う
スイスの国公立大学の学費が安いのは、「未来の人材」を育てるために、国と州が積極的に税金の支援をしているから。
そのため、入学したのはいいけれど、ダラダラと学生生活を続け、税金のムダ使いをする学生の居場所がなくなるような対策を大学側が案じる必要性が、最近よく議論されています。
その理由は、ギムナジウムを終えて大学入学資格を取得する学生数が、年々増加していること。
1980年には、約10 %だった大学入学資格の取得者数が、2018年には約22%にまで増加したので、税金への負担を減らすために学生数をおさえることが、大学の懸案なのです。a
入学志願者が殺到する医学部と心理学部では、すでに入学試験・規制が行われていますが、それ以外の学部では、入学資格があれば学生生活をスタートできます。
もちろん、どの学部でも定期テストがありますが、入学後に留年してしまう学生へのコントロールが効きにくい現状なのです。
「ちょっと老けてる学生だな」なんて思ったら、経済・法学・ドイツ文学といろいろな学部を渡り鳥のように移り歩き、定期テストに不合格になるたびに、専攻学部を変えていた留年の強者も、私が在学していたときにはいました(たまたま私の友人の高校時代のボーイフレンドで、友人は『あのときフラれてよかった』としみじみ言っていました)。
現在はベルン大学だけが「留年者には学費値上げ」の処置を取っていますが、近い将来、他の大学でも同様の処置を取ることになると予想されます。
スイス生活エピソード:私の大学学費が高いせいで同級生たちがデモ?!
国籍による学費の差をめぐり、私が体験したエピソードです。
あるとき、学生課のコンピューターシステムにトラブルが起き、学費の請求書が学生に手渡しされたことがありました。
お昼休みに、私の請求書を何気なく手にした友人が、「ちょっと大変! ユキの請求書、金額がまちがってる」と言い出しました。
そのときまで、互いの学費請求書を見比べたことなどなかったので、友人だけではなく私自身も、国籍によって学費がちがうことを知らなかったのです。
学費の差は国籍のちがいで生じると学生課で確かめてから、友人たちは激昂。
「これって、外国人学生には平等な権利がないってことだよね?」 「許せないわ」と大騒ぎ。
あっという間にエスカレートして、「週末、国会議事堂の前でデモをしたらどうかな?他の大学にも声をかけて、合同デモすると効果テキメンじゃない? そしたらイニシアチブが提案できるし」
と、いかにもスイスらしい展開を見せたのです。
【スイス政治の仕組み】イニシアチブ(国民発案)とは?
つまり友人たちは、「外国人学生とスイス人学生の学費を同額にして平等にしよう」というイニシアチブの提案をテーマにし始めたのです。
彼女たちの行動力はすごくて、その日のうちに学生会に接触。大学に在籍する全学生へメールを送り、デモと発案書への署名を呼びかけたいと打診しました。
学生会からもすぐに回答がありました。
スイス人と外国人学生の学費の差は、すでに何回も学生会でも議論されたとのこと。
でも、スイスの物価の高さを考えると、学費は安いこと。
そして、学費値上げの必要性が政策でしばしば取り沙汰されているのに、デモ+イニシアチブをおこすと火に油を注ぐ可能性が高く、かえって学費の値上げを挑発するのではないかという意見から、あえて手付かずの状態にしているので、できれば行動を起こさないでほしいという返答がありました。
友人たちはしぶしぶ納得していましたが、スイスの民主制度を肌で感じ、私にとってはとても興味深い経験となりました。
友人関係にも恵まれ、大変充実した大学生活を過ごすことができましたが、日本の大学で感じるような「同窓生の絆」は、スイスには皆無です。
太っ腹! なんとドイツでは公立大学の学費がタダ!!
他のお国はどうなのだろう、とお隣のドイツの学費を調べて驚愕!
スイスは激安、だけどドイツでは公立大学の学費は2014年から、タダ!
「タダより高いモノはない」のがないってこと?
私も、今日まで知りませんでした。
ドイツの公立大学の学費がタダになる条件は、b
補足ですが、スイスはEWRでは除外されています。
学費を支払わなければいけないケースは、以下の条件に当てはまる場合。
なお、大学規定はすべて大学の存在する州により決定されるので、条件の詳細に関しては、各大学で異なるとのこと。ですから、外国人学生や留年生の学費も、ドイツ全土では統一されていないそうです。
気になるので、最初にテーマにしたビッグマック指数をドイツも含めて改めて比較すると、
スイス=774円 ビッグマック指数= プラス24.68
ドイツ=552円 ビッグマック指数= マイナス11.10
日本=390円 ビッグマック指数= マイナス37.21
ほぼ全員に対して大学の学費が免除って、なんだかドイツすごすぎる!
ドイツ、太っ腹!(拍手!!)
ヨッ、大統領!と思わず昭和のボキャブラリーで声をかけたくなってしまうほど、感動!
そして、ドイツの公立大学で学費が基本的に無料であることが、スイスでまったく話題になっていないことにもビックリ。
私の家族や友人でこのことを知っている人は、誰もいませんでした。
みんな自分が大学を卒業して長い時間が経っているから、もう興味を持っていないのか、スイス人がドイツへ留学するケースはあまりないから耳にしないのか、その点はわかりません。
だけど、ナゾです。
実はスイスの大学では、ドイツ国籍の教授陣が地元のスイス人より多いことがフツーの状態なのですが、そのテーマについてはまたの機会に記しますね。
ところで、「大学卒業者」に対する観念も、スイスと日本では異なります。興味のある方は、コチラ↓の記事をご覧ください。
<参考資料>
a) Bundesamt für Statistik. Sekundarstufe II: Maturitätsquote. (閲覧日:2021年8月13日)
b) UNICUM.de. Studiengebühren : Alle Infos im Überblick! (閲覧日:2021年8月13日)
c) oesterreich.gv.at. Europäischer Wirtschaftsraum (EWR). (閲覧日:2021年8月13日)