エジプト・シナイ山で拝んだ初日の出の思い出

エッセイ

1月1日にお天気が良いと、神様から大切なプレゼントをもらえたような気がします。

海が大好きな私は長年、初日の出は寒風に負けず鎌倉の海辺で眺めることを、新年の習慣にしていました。

そのせいか、新年の初日の出を大自然に囲まれたおごそかな場所で一度体験してみたいと願い、12月31日深夜から1月1日の早朝にかけて、エジプトのシナイ山に登ったことがあります。

【シナイ山】モーセが十戒を授かった地

シナイ山は、エジプトのシナイ半島にある標高2285メートルの山。モーセが神から十戒を授かったとされる地なので、シナイ山は別名モーセ山とも呼ばれています。

エジプト、シナイ半島にある聖カタリナ修道院

シナイ登山体験は、(おそらく)世界最古のキリスト教修道院とされている世界遺産・聖カタリナ修道院からスタートしました。

エジプトへの出発前に、当時隣人だった神学者から、モーセが目にしたという、燃えているのに燃え尽きない木のお話や、聖カタリナ修道院で発見されたシナイ版聖書写本について説明を受けていた私。

でも、現地で目にした風景 ―赤茶色のゴツゴツした石が転がる「道」を(最良のジープでも、腰痛持ちの人にはオススメできないと忠告されました)、ジープで長らく揺られて到着した先で、山肌から浮き上がるように、凛と存在している建物。そして、内部に入るとハッと息をのむモザイク画― は、時を経て現代まで存在しているものを創り上げた人間のパワーを体感できた、非常に感慨深い時間でした。

シナイ山頂上で初日の出を拝む登山は、真夜中に出発

シナイ山登山道での星空

私がスイスに漂着してから始めたことのひとつは、山歩き。

山道を数時間歩くことには慣れていましたが、シナイ山の頂上で日の出を見るためには、真夜中に登山を開始しないといけないので、プライベートのガイドさんをお願いしました。

大晦日の深夜にシナイ山へ登りたい観光客は数多くいるので、私が登ったときには人数規制がされていた、と記憶しています。

頂上を目指す他の観光客と、それぞれのガイドが足元を照らす懐中電灯のわずかな明かりが飛び交う様子は、蛍の光を連想させました。

頂上へと向かう道のりで感じたのは、夜の闇はこんなにも漆黒なのか、ということ。

シナイ山での登山道は、街灯も人家もまったくない世界。山の麓の集落の明かりなどとも無縁の状態で、すべては闇に包まれていました。

私たちとほぼ同じテンポで歩いていたイギリス人の観光客と、お互い人生初体験の「漆黒色の闇」について語り合い、同時に天に煌めく無数の星の輝きが、いかに力強い光線であったのかと発見できた感動を分かち合いつつ、頂上へ向かったことも、心に刻み込んだ思い出です。

聖地シナイ山の頂上で文明のシンボル・洋式トイレを発見

聖地シナイ山の頂上で文明のシンボル・洋式トイレを発見

頂上へ向かうルートはいくつかあるのですが、私が選んだのは難易度が中級の道でしたので、3時間弱で頂上に着きました。

私たちがお願いしたガイドさんから、「頂上にはトイレがある」と聞いてはいたものの、果たして私たちを待ち受けているのはどんな種類のトイレなのか、想像がつきませんでした。

イギリス人の女性と、「トイレ問題が片付かなければ、せっかくの初日の出が楽しめない大問題をどうするか」と焦りまくっていた私。

ところがです。頂上にはトイレ(上の画像は実物)があったのです! 内部には、おなじみの洋式トイレがキチンと設置してありました。ただ、水洗ではなく、穴の上に固定してあったように見えましたが、この時点ではまだ日の出前で薄暗かったので、具体的なことはわかりません。とにかく、ホッとしました(笑)。

頂上に着いた途端に、「実はもうトイレが我慢できない」とゴネだしたイギリス人女性のパートナーに私たちは順番を譲ったのですが、トイレに入った彼が、「ちょっと見て! トイレの掃除ブラシがシナイ山てっぺんのトイレにある!」とブラシ片手に外へ出てきたので、大爆笑!

灯りひとつない、数千年前からの時とのつながりを感じる登山道を徒歩で登った私たちにとって、山の頂上に文明のシンボル・現代的なトイレがあるとは、予想外の出来事でした。

私たちの後ろでトイレ待ちをしていた男性が、「みんな〜、ここのトイレにはブラシまであると後ろの人に伝えて! わざわざ外に出てきて報告すると、待ち時間が伸びて間に合わなくなる人が出るかもしれないから」とコメントして、観光客は笑いの渦に。「笑うと我慢するのが辛くなるから、やめて〜」と全員モジモジしながら大爆笑でした。

そんなこんなでスッキリした観光客は皆、固唾を飲んで初日の出の瞬間を待ちわびました。

魂を揺さぶる初日の出をシナイ山頂上で体験【生きていることへの感動】

シナイ山頂上での初日の出は魂を揺さぶる

太陽が昇った途端、漆黒のベールはサッと取り払われ、一瞬で赤紫の世界に変身!

オレンジ色の朝日が放つ光は、かつて感じたことがない力強い日差しで、私の体を包みました。

そして、先ほどまで漆黒の闇に包まれていた麓に広がる、ゴツゴツとした山並み。
地球が誕生したときの息吹きを感じる山々のフォーメーションが、どこまでも続く絶景。

太陽と山が織りなす光と影の芸術は、1秒たりともとどまらない。目にするものすべてが、言葉にできない美しさをたたえていることに、感嘆。

昇る太陽を目の当たりにして、「地球は動いている! 自然も人間も、生きている!!」と胸に湧き上がった感動は今でも熱く、私の心を揺り動かします。

そして当時シナイ山で体験した初日の出の感動は、どんなときでも再び夜が明け、私たちを照らしてくれる太陽の力強さを私に思い起こさせてくれる、貴重な体験です。

2022年が、みなさまにとって光あふれる日常でありますように。

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