いつも15分遅れ?! スイスでは大学の講義が必ず遅れて始まる謎

いつも15分遅れ?!  スイスでは大学の講義が必ず遅れて始まる謎 スイスライフ

スイスの大学では通常、講義が必ず15分遅れで始まります。

時間の正確さで有名なスイスの、知られざる文化です。

【スイスの大学】朝のキャンパスはミステリーゾーン

大学に入学したての頃、その習慣を知らなかった私は朝イチの講義のときガラ〜ンとした人気のない教室に佇んで、「ミステリーゾーンへようこそ」みたいな感覚に何度も包まれていました。

真面目な私は(自分で言う? でも山羊座だから)、朝の8時からスタートする講義に遅れないよう、7時50分には教室に到着。

教室の番号は合っているのに、私以外は見事に誰もいないのです。講義中は、座席を確保するだけでも大変なのに、どういうこと?! と、焦ったのなんの。

普段はギュウギュウづめの教室が空っぽなのって、ちょっとコワイ。
♪タラララ ララララ〜♪と頭に浮かぶメロディーを口ずさむ余裕はありませんでした。

だけど不思議なことに、講義予定時刻を15分過ぎるちょい手前になると、次々と学生が教室にやって来ます。

【スイスの大学】15分遅れの講義開始は大学での伝統

「いつも15分遅れ」の習慣には、実は »die akademische Viertelstunde»という呼び名がついています。

直訳すると、「学究の15分」と呼ばれるこの習慣は、高校までの学校教育では見られないもので、大学でだけ存在します。

15分遅れがあたりまえの習慣が大学に根付いた理由は、

  • 教室移動に必要な時間とみなされる
  • 講義開始直後の15分は、前回の復習に当てられるので、出来が良い学生は15分遅れで講義に参加してOK

という説を聞きかじったのですが、教授たちも15分経過してからしか教室にやってこないので(笑)、現在ではまったく関係ないようです。

前回の講義の復習と質疑応答より、みんなコーヒー確保に走りまわっていた感があります。

一斉に休憩時間が始まるので、特に新入生が多い時期は大学のカフェテリアでコーヒーやお昼ご飯用のサンドイッチを手に入れるのは、至難の業。
スイスの大学は、歴史上伝統のある建物を利用していることが(まだ)多いので、急激に増加している学生数に対応できるようなレストランなどの設備が追い付いていないことが多いのです。

東京育ちの私が、数多くのバーゲンセールでの経験を大学でのコーヒー獲得で活かせるとは思ってもみませんでした。何事も、ムダになる体験はないことの証ですね。

【スイスの大学】現代に残る「学究の15分」習慣、まもなく廃止?

ベルン大学では、「c.t. “cum tempore” =15分遅れ」というラテン語の記載が時間割にはないけれど、相変わらず常識として適用されている、と新入生への案内に書いてあります。

大学が親切でよかった。これで私のようにミステリーゾーンでゾワゾワする学生さんがいなくなること間違いなし。

ちなみに「s.t. “sine tempore” =定刻通り」と呼ばれる開始時間は、ゲスト教授の講義のときなど特別なケースだけで、この場合にはメールや口頭連絡で「時間厳守」のお知らせがありました。

大学で身につけた15分遅れ制度とも、就職と同時にお別れしなければいけないわけですが、卒業後もプライベートの場面で15分制度を使うクセがみんな抜けないようです。

いろんな経歴の人が混ざっているパーティーだと、大学出身者は打ち合わせしたかのように15分遅れで登場します。
パーティーの主催者や他のゲストも、「あぁ、『大学出身者たちの15分遅れ』ね」とコメントしています。

短いようで長い15分を、私を含めてみんな簡単に手放せない(私の場合、出かける寸前になるとなぜか毎回、カギがみつからなくてパニックになることも原因ですが)。

でもチューリッヒ大学では2005年、15分遅れ制度が廃止されています。
その理由は、学生数の増加に伴い、大学が新たに確保している講義用の教室間の移動だけでときには30分も時間がかかるため。
15分遅れ制度をそのまま容認していたら、講義の時間がなくなってしまいますからね。

時代の変化とともに生まれた問題に対応するため、仕方のない処置だとは思いますが、伝統が消えていくようでちょっぴり寂しい気がします。

からの教室

もしスイスの大学に留学して、大講堂にひとりぼっち、なんて状況に遭遇したら、あわてずに時計を見て、とりあえず15分待ってみるほうがいいかもしれません。

15分過ぎるころには、あっという間に教室がいっぱいになりますから。

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