ドイツのサッカークラブ・FCバイエルンが、10年以上チームを支えてきたキットマンを解雇した、とスイスでも報道されています。
解雇理由は、FCバイエルンの選手に対する人種差別発言とのこと。
残念ながらスイスでしばしば人種差別を体験している私にとって、有名なスポーツクラブが差別行為にレッドカードを出してくれることは、とてもありがたい対応です。
FCバイエルンのキットマン解雇理由:チーム選手への人種差別発言
ドイツのスポーツ専門情報局 ranによれば、人種差別発言があったのは、FCバイエルン・ミュンヘン本拠地で。
クラブの本拠地に自分の娘を連れて来ていたキットマンは、FCバイエルンに在籍中の選手2名を見かけた際、娘に向かって「ああいう奴らはウチに連れてくるんじゃないぞ」と暴言を吐いたそう。
人種差別発言の対象となったのは、
- セルジュ・ニャブリ選手:ドイツとコートジボワールの二重国籍。ドイツのシュトゥットガルト出身。父親がコートジボワール人。
- エリック・マキシム・シュポ=モティング選手:ドイツとカメルーンの二重国籍。ドイツのハンブルク出身。父親がカメルーン人。
のおふたり。
キットマンの暴言を耳にしたある職員が、人種差別発言があった旨をFCバイエルンの上層部に連絡し、解雇がすぐに決定されたということです。
FCバイエルンは2020年、人種差別の行為があったユースコーチを解雇したことをきっかけに、「人種差別へのレッドカード」というイニシアティブを進めています。
【人種差別】差別反対を行動で示してくれる人の存在は心強い
有色人種のアジア人としてスイスに在住している私は、残念ながらしばしば人種差別を体験しています。
そんな私にとって、差別が行われていることに気づいた人が、差別に反対する意志をはっきり表明してくれることほど、ありがたい対応はありません。
【スイス生活】バスの乗客から人種差別発言を受ける私に、救いの手
ひと月ほど前のことです。
路線バスで私の横に座ってきた老人は、行きつけの病院に対する不満を、私にこぼし始めました。
昨今はコロナの影響で、孤独に悩む人が多い世の中。老人に同情した私は初めのうち、相槌を打って話を聞いていたのです。
ところが老人は突然口調を変えて、「あんたと同じ外国人のバス運転手が、急ブレーキをかけたせいで私は怪我をした。スイスにいる外国人は毒だ。あんたもスイスから出て行け」と、私に差別発言を浴びせてきました。
5分くらい、自分の話を夢中でしていた老人の急激な態度の変化に、私は驚きました。
相手を刺激するのもよくない。だけど、黙ったままではいられない…。
そこで私は、「怪我を負ったとは、大変でしたね。その場合、バスの運営会社に事故が起きた日時の連絡を入れて、対処してもらうべきだと思います。運転手の人種に関係なく、お客様に怪我をさせたことは、バス会社が把握すべき事実ですから」と、対応しました。
ところが老人は、「あの外国人運転手は、私にわざと怪我をさせた。外国人は犯罪者だ」という主張から、一歩も引きません。
このまま議論を続けても、押し問答になることが明らかなので、バスを降りようかと考えました。しかし、私の座席はあいにくと窓際。通路側に座り、私に暴言を吐き続ける老人は、とても体格が良かったので、どうやって降車しよう…。
私が悩んでいた、まさにそのときです。私たちのすぐ後ろに座っていた青年が、老人に向かって話しかけました。
「先ほどから、こちらのレディ(私のこと)はとても親切にあなたの話を聞いていました。バス会社に連絡をすべき、というレディの意見も、まさにその通り。この礼儀正しいレディに比べて、あなたの態度は何ですか。あなたのようなスイス人が、私たちのスイス社会を悪くしているのです。レディに暴言を吐くのは、おやめなさい。スイス人の私の胸が、ムカムカします」と、見知らぬ青年はハッキリ響き渡る声で、私を擁護する発言をしてくれたのです!
同郷のスイス人に注意を受けた老人は、「あ〜あ、外国人の肩を持つスイス人がいるなんて、苦々しい。こんなバスには乗っていられない」と大声で発言。
するとかの青年は、「すみません、次の停留所で降りたい人がいるので、ボタンを押してください」と、ドアの横にいる乗客に声をかけました。
他の乗客からも注目を浴びた老人は、事の展開に驚いたのでしょう。誰とも目を合わせないようにして、次の停留所でスゴスゴとバスを降りて行きました。
もうアラカンの私をレディと呼んでくれた青年の心遣いも、もちろん私が嬉しかったこと(笑)。でも、私を罵倒する老人の行為に気がついた周囲の乗客から、まさか救いの手が伸びてくるとは、まったく思いもよらなかったので、本当に嬉しかった。
老人が降車した後、私は青年にお礼を述べ、しばらく談話しました。
駅に着いてバスを降りる際、「僕はあたりまえのことをしただけ。あなたのような外国人がスイスにいることは、スイスにとっても、素晴らしいことだから」と私に告げ、手を振って颯爽と去っていった青年。
彼の後ろ姿を見ながら、「あと30歳若かったら、惚れてまうやろ〜」と、私は思わずつぶやきました。
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FCバイエルンのように人気のあるスポーツクラブが、人種差別に対して速やかに対応してくれることは、差別防止にとても効果的だと思います。
ヨーロッパで生活していると、人種差別体験は残念ながら、避けられない出来事。
私自身も、心が折れそうになることも何度もあります。
そんな私が常に心がけているのは、差別をしてくる人のネガティブなエネルギーに流されて、「この国全部がもうイヤ」と、思い込まないようにすること。
そして、差別してきた相手と同じ土俵にのぼらないように、凛とした姿勢で落ち着いて対応すること。
どの国にも、いい人も悪い人もいるのが、人間社会ですもの。
せっかくの人生、少しでも明るい、有意義なことに目を向けて過ごす方が、お得ですわよ。