スイスの永住許可証を所有する私、5年ぶりの更新で「予約必須のスイス社会」のお国柄を、あらためて実感!
スイスの永住許可証更新時に必須の予約①居住区自治体の役所
スイス潜伏期間が来年で30年になる私は、永住許可証Cタイプ(Niederlassungsbewilligung, Ausweis C)の保有者。
スイスでの永住許可証は、5年ごとの更新が必要なので、切り替え時期の数週間前になると、「スイス連邦司法警察省移民局」という物々しい名前のお役所から、申請用書類が自宅に郵送されてくる。
必要事項を記入した書類は、居住区にある自治体のお役所に「直接出向いて提出すること」と記載されていたので、書類を携えて自治体の窓口へと向かった。
幸い、私以外に待ち人はいなかったので、「こんにちは〜。永住許可証更新用の書類を提出したいのですが」とにこやかに挨拶した私に返ってきたのは、「予約しましたか?」の冷ややかな声。
『アナと雪の女王』で、アナとエルサが同時に凍りついてしまうかのような冷たいトーンに、私の仮面エアライン・スマイルも吹っ飛んだわ。
だけどね、伊達に30年近くスイスにいるわけじゃないのよ、私。
頭に浮かんできた『飾りじゃないのよ涙は』の強気な明菜ちゃん風に、「移民局からの手紙に、『書類提出時に自治体窓口での事前予約が必須』との記載がなかったので、予約なしで伺いました」と言い返す。
こうでも言わないと、「では、予約を取って後日出直してください」と、平然とあしらわれるのがスイスの日常だから、油断禁物なのだ。
すると窓口の職員は、「仕方ないですね。では今回だけ特別に予約なしで受け付けます」と渋々対応。
あまりに不機嫌そうなので、「自治体での予約必須との記入を追加するように移民局に連絡しないと、皆さんのお仕事が増えて大変ですね」と返した私に職員も苦笑し、「本当にそうね」と、急に親切な態度に変わった。
「すみません」「ありがとう」を使わずに、事実を指摘するスイス式交渉方法に馴染んでしまった私は、日本では典型的な老害と見なされてしまうだろうから、注意せねばと自分に言い聞かせる。
スイスの永住許可証更新:今回初体験した変更点にショックと納得
「態度も言葉もスイス人」のかぶりものをしている私に向かい、ちょっと申し訳なさそうに職員は一枚の紙を差し出した。
「追加で『宣誓書』へのサインが必要なので、以下2点を確認して署名してください」と手渡された紙には、
- スイスで生活するための収入源が確保されている(銀行口座と名義)
- 過去5年間、生活保護などスイスの社会保障制度を利用していない
旨の申告・宣言をし、署名する欄があった。
過去の永住許可証更新時、このような宣誓サインを求められた記憶がなかった私はややとまどい、「税金申告の情報とか、ずっと以前に提出したと思うんですが……」と口ごもる。
すると、確かに私のデータは把握済みなので、該当枠にバツ印を付けて、署名すればOKとのこと。
署名しながら、スイスという国から「あなたは外国人だということをお忘れなく」と、境界線を引かれた気分になったが、事実なので致し方ない。
このような措置が、スイスの社会システムからの援助搾取を狙っている外国人居住者の制限に役立つならば、スイスで清く正しく生活している外国人にとっても、良い対策なのだから。
そうでもしないと、「だから外国人は〜」と、全員が犯罪者のような扱いを受ける事態になってしまう。
スイスの永住許可証更新時に必須の予約②移民局からの招待
自治体の役所に書類を提出した数日後、ベルン州の移民局からメールが届いた。
メールには、移民局出頭時に持参すべき物の一覧と、時間予約用のリンクが貼ってあり、そこで自分が希望する予約日時を選択すると、2時間後に予約確定の連絡が入るとあった。
なんだか「ミッション・インポッシブル」の世界に紛れ込んだようで、ワクワクする。
週末だったせいか、実際には8時間遅れで連絡確定のメールが届いた。
もしトム・クルーズさんが垂直の壁に張り付いたまま、エージェントの私の援助を待っていたなら、待ちくたびれて力尽きていただろうと、しょうもないことを想像する。
スイスの永住許可証更新時に必須の予約③移民局に出頭
「予約時間の5〜10分前に到着する」のは、スイスの鉄則。
そして早めに着くと、大抵の場合は自分の予約時間まで待たずに順番が回ってきたりする。
私が申告した時点で20分刻みの予約枠が1週間分、ほぼ埋まっていた移民局だが、予約時間にかかわらず入場できたので、整理券を取り、待つこと5分。すでに私の順番になった。
移民局では、職員と訪問者の間がすべてガラス板で仕切られているので、なんとなく緊張してしまう。
「感じの悪い職員でなければいいけど……」と思いつつ窓口に向かい、ベルン方言で自分の用件を伝えると、むっつり顔だった係員の人は、ニコニコ笑顔になった。
スイス人にとって、スイス方言は「自分たちのアイデンティティーの証」なので、スイス語はいつどんな場合でも、ハリー・ポッターの杖のように役立つのだ。
永住許可証に必要な生体認証写真・両手人差し指の指紋・署名をデジタルで採取する専用ブースが、「ミッション・インポッシブル」に出てきそうな最新鋭の先端技術搭載機という雰囲気のシロモノ。
でも、機械へのワクワク以上に驚いたのは、「もし写真が気に入らなかったら、撮り直しますから、遠慮なく」という係の人の発言だった。
「あれ?」と思う間もなく撮影された特大写真が、目の前に表示され、予期せずスッピンの自撮りモードを見た時のように動揺してしまう。
しかし、以前の永住許可証の写真は極小で、自分で見ても私かどうか定かでないサイズ。そんなに見せる機会もなかったので、一枚目の段階で「これでいいです」と答えたら、「本当に?」と係の人。
驚きが隠せない様子だったので、「えっ、そんなに映り悪いですか?」と、思わず聞き返すが、職員は曖昧な笑顔のまま。
きちんとメイクもしてるのに、アラカンの私の生体認証写真は、そんなにヤバいレベルなのだろうか。焦った私は、「でも、どうせ写真加工とかできませんから、本当にこれでいいです」と口走る。
すると職員は笑い、「いやいや、あんまりあっさりしているから、いいのかな〜と思っただけです」と答えた。
写真は何回取り直しができるのか、聞き忘れてしまったけれど、予想外のサービスにビックリ。
スイスの永住許可証更新時に必須の予約④自治体役所からのメール
移民局に出頭した数日後、今度は自治体のお役所から「永住許可証受け取りのための予約」を促すメールが届いた。
このメールには、「電話もしくはメールでの、出頭時間予約は必須です」とあったので電話すると、待ち受け音を暗譜できるほど聞かされた後、ようやくつながった。
スイスの永住許可証更新時に必須の予約⑤受け取りで再び自治体へ
予約時刻の10分前にお役所に到着したのだが、受付窓口には長蛇の列。
待てど暮らせど列は進まず、予約した時間に遅れそうになったので、並んでいる人たちにたずねてみると、皆予約なしと判明。
私も前回の訪問時、知らないまま予約なしで役所に来たのだけれど、しつこいほど予約にこだわるのに、なぜ役所の入り口を予約あり・なしで分けないのか不思議に思う。
前後の待ち人に声をかけ、予約時間に遅れてしまう旨を窓口で申告。するとやはり、そのまま待たされた。
先頭の人は、どうやら離婚で永住権を失うらしく、待ち人全員に聞こえてしまう大声で、個人的なエピソードを延々と語り、必要な手続きの指示と予約の必要性を訴える職員の発言は完全無視。職員さんも大変だ。
私たち待ち人は、耳を塞ぎたくなる思いを抱えながら、ひたすら待たされた。
予約時間から15分ほど遅れて、ようやく私の順番。約2万円の手続き費用を支払い、永住許可証を受け取る。
新デザインになった永住許可証は、旧式よりも写真サイズが大きくなっていたのだが、写真の映りが思っていたよりうんと良くて、驚いた。
やはり移民局のあのブースには、「ミッション・インポッシブル」に匹敵する最先端技術が隠されているようだ。
5年後の更新時、写真を何度も撮り直さなくて済むように、この日から顔ヨガの時間を倍増することにした。