女優の秋吉久美子さんが、50代で早稲田大学大学院に進学し、公共経営修士の学位を取得されたという記事を目にしました。おめでとうございます!
昭和化石の私にとって、秋吉久美子さんといえば、「子どもは卵で産みたい」発言で、記憶に残る女優さん。
プレママ期に、どんどん大きくなる自分のお腹を眺めつつ、秋吉さんの発言に遅ればせながら同意していた私も、結婚を機に移住したスイスで、リカレント教育(社会人の学び直し)を体験したひとりです。
「いっそのこと、スイスで大学に進学したいけど、無謀かしら…」と揺れていた私が、最終的に決断できたのは、人生の素敵な先輩のおかげでした。
【カルチャーショック】社会の潮流が私だけ読めないスイス生活
海外に長期間滞在/移住なさった方は、みなさん体験済みのことでしょうが、私も移住先のスイスでカルチャーショックの驚愕体験を味わいました。
海で泳ぐ魚の群れの映像、ご覧になったことありますか?
テレパシーか何かで、魚がお互いにサインを送り合っているのかどうかは、私は存じません。でも、魚の群れって、何かの合図をきっかけに、泳ぐ向きを一斉に変更することがありますよね。
スイスに来てからの私はいつも、魚の群れからはみ出る感覚に悩まされていました。周囲のスイス人には読み取れる何かのサインがある(らしい)のに、私だけはサインを見落としてしまう。だから、スイス社会からはみ出てしまう。そんな感じで、呆然とする日々を過ごしていたのです。
移住先駆者の経験を知るために、毎日図書館にGO【海外生活苦】
私は、悩むより行動に移すタイプです。
すでに私の幼少時代から、アメリカやドイツで暮らした経験のあるクラスメイトがいたわけだから、その人たちの体験報告書みたいなものが、図書館に行けばあるのではと想像した私は、大学の図書館に足を運びました。
そう、時代はまだアナログ真っ盛り。
そこで、図書館司書の方に薦められて、心理学の文献と出会ったのです。
「スイスドイツ語どころか、ドイツ語もまだわからない。でも、英語は読めるからいいもん」と自分に暗示をかけ、毎日科学論文とにらめっこ。ホントは英語で文献読むのも、辛かった〜。
日本では短大卒・航空会社勤務のお姉様(当時よ、当時)だった私にとって、図書館も文献も完全に場違いな世界。
実際初めのころは、図書館の警備員の人に立ち入りを拒否されたこともありました。当時はまだ容姿から明らかに外国人である来館者は私以外ゼロ、お化粧していた女性(しかも航空会社の名残で厚化粧かも)の来館者もゼロだから、仕方のないことだったのでしょう。
【海外生活苦のトンネルに光明】ヘイゼル・北山論文との出会い
図書館に通い詰めていた私はある日のこと、社会心理学者であるアメリカ人のヘイゼル教授と日本人の北山教授の共著論文、「Culture and the self」(1991)を発見しました。
この論文を読んだ日には…、もう、頭がガツンと叩かれた感じ。「だから、私は群れからはみ出てしまう1匹の魚なのだ」と、ようやく私の胸にあったモヤモヤ感を、言葉で理解することができたのです。
まさに、目から鱗体験でした。
論文1本で、私が抱えていた「文化の壁」による悩みの答えをプレゼンテーションしてくれる心理学とは、なんと素晴らしい学問なのか!
「もうこれは、私も大学で心理学を学ぶしかない!」と即決したほど、私にとってこの論文との出会いは、感動する出来事だったのです。
大学入学資格追加試験合格が必須とわかり、スイスでの進学を迷う私
思い立ったが吉日とばかり、私は早速、ベルン州のAkademische Berufsberatungsstellen(大学進路相談所)に予約を入れ、私がスイスの大学に進学するためにクリアしなければいけない条件をたずねることにしました。
そこで衝撃の事実が、判明。
短大卒の私は、ECUSと呼ばれる試験に合格しないと、スイスの国立・州立大学への入学資格が得られないと知りました。
スイスの大学入学資格追加試験・ECUSは、全5科目。受験科目は、①ドイツ語かフランス語②英語③数学④歴史⑤生物/科学/物理/地理から選択で1科目。③〜⑤の試験科目は、ドイツ語かフランス語で行われます。
当時の私は、まだカタコトのドイツ語しか話せない状態。「大学で心理学を学びたいのはいいけれど、ちょっと手が届かない目的を選んじゃたかも…」と、一度決めた決意がグラグラ揺らいだのです。
スイスの大学入学資格追加試験・ECUSの詳細については、コチラの記事をご覧ください。
【社会人で進学】私が弱音を吐いたお相手は、50歳で学生になったマダム
とりあえずドイツ語を習得せねば、と毎日集中レッスンに通っていた私は、朝の通学時にご近所さんのKさんと、毎朝駅で同じ電車に乗り合わせることになりました。
Kさんの息子さんは、当時ニューヨークで駐在生活の真っ最中。息子さんたちご家族が体験していたカルチャーショックに、スイス生活で苦労する私の気持ちを重ね合わせて理解してくださるKさんは、私にとってありがたい存在の人でした。
そんなわけで、ある朝私はKさんに、「スイスの大学で心理学を勉強したいけれど、アラサーの私が今からドイツ語をマスターして、大学入学資格試験に合格できるか、自信がない」と、弱音を吐いたのです。
すると驚いたことに、Kさんも50歳にして学生に戻ったというではありませんか。
【リカレント教育】看護師の夢に50代で挑戦するマダムが私のお手本に
Kさんは会計士だったのですが、実は看護師になることが、子どもの頃からの夢。
50歳の誕生日に、「この先ずっと、『看護師さんになりたかった』って気持ちを引きずって生きるのは、イヤだ。ダメでもともと、今から挑戦してみよう!」と思い立ち、看護学校に入学を決意したそう。
50歳の新入生は、当然ながら最年長の学生。看護学校の先生たち、周囲の学生、そして研修先の病院も、初めは驚きを隠せなかったとか。
「貫禄あるせいで、いつも婦長に間違われるのが、いい意味で誤算だったわ」と冗談を飛ばすKさんは、ハタチそこそこの学生さんに囲まれながら猛勉強し、筆記も実習テストも難なく合格。
こののち、看護師免許を見事取得したKさんは、退職するまで看護師として働き、「あのとき、思い切って学び直して、本当によかった!」と素敵な笑顔を見せていました。
【リカレント教育】社会人の学び直しに失うものはない
50歳から看護学校に入学し、看護師になる夢を叶えたKさんが私に教えてくださったのは、
社会人の学び直しに、失うものはない
ということ。
頑張って挑戦しても、もしかしたら学び直しは思い通りに進まないかもしれない。けれども、人生経験を積んだ社会人だからこそ、「学ぶ」ことそのものを心から楽しむことができる。たとえ学び直しの挑戦が失敗で終わっても、挑戦しなかったことを後悔するより、マシ。
そして学び直しは、想像以上に大きな実りをもたらします。
「すぐ忘れられるようなら、おやめなさいな。でも、ずっと心に引っかかるようなら、チャレンジすべき」というKさんのお言葉を、今現在、「社会人だけど学び直しをしたい。でも、私にできるかな…?」とお悩み中のあなたに、贈ります。
あとから振り返ってみると、私の人生かなり無謀なリカレント体験になりましたが(笑)、後悔はしていません。なにしろ、学べることが多かったので。
結果論になりますが、私が大学院で心理学を学んでいなかったら、ギフテッド娘の育児も、ここまでスムーズには運ばなかった、と感謝しています。
それに・・・夢を持つことをやめたら、人生は退屈ですもの。