ジョコビッチ騒動:ロジャー・フェデラーの無反応はスイス文化の象徴

スイスのニュース

オーストラリアオープンへの参加どころか、国外退去命令を受けたジョコビッチ選手。

騒動開始以降、一貫して自分の意見を表明しないロジャー・フェデラー選手の対応は、私がスイス社会で体験している国民文化の特徴と一致しています。

ジョコビッチ選手入国騒動でフェデラー選手への愛丸出しのスイス

観客が満員のテニススタジアム

私の潜伏地・スイスはロジャー・フェデラー選手のお膝元。
そのせいか、ジョコビッチ選手のオーストラリア入国ビザ騒動が始まってから、スイスのメディアでは「Live Ticker」まで設置され、

「ジョコビッチ、入国管理局指定のホテルに収容!」

「ジョコビッチの収容先ホテルでトコジラミ騒動!」

「コロナ感染発覚翌日に、ノーマスクで子どものイベントに参加!」

「ジョコビッチ、数年間刑務所に収監?!」

といった内容のニュースタイトルが連発されていたのです。

ATPランキングで世界1位の通算350週と、無敵の王者的な存在のジョコビッチ選手。

現在40歳で、引退間近と噂されるフェデラー選手の快進撃を何度も阻んだのがジョコビッチ選手という背景があるためか、日本人の私にしてみると「ちょっと、スイスのメディアはしゃぎすぎじゃない?」の印象も受けたほど、あえて好意的でない(と感じる)報道スタイルが目につきました。

その風潮を受けてか、スイスに赴任中のセルビア大使が「もしこれがフェデラー選手に起きたことなら、スイスはどう反応するのか」と、コメントを出したほど。

報道タイトルと記事の合間からあふれ出る、「ざまみろジョコビッチ」的ニュアンスから、「We loveフェデラー」のエールが声高に流れているようにも思えたのです。

フェデラー選手:地元スイスでは不動のナンバーワン・オブ・ハート

We loveフェデラー・スイス出身のフェデラーは地元で大人気

フェデラー選手は、気さくな人柄で有名なお方。

大スターであるにもかかわらず、出身地のバーゼルでファスナクト(伝統的なカーニバル)を訪れたところをファンに見つかっても笑顔で謙虚に対応。また、幼少時から大ファンであるサッカーチーム・FC Baselの試合をスタジアムで観戦して、チームの勝敗に感情ぶちまけでいたのに、試合終了後には相手チームの選手にも挨拶を欠かさないなど、嫌いになる要素がないのが、フェデラー選手と言えるほど。

加えて、お母様の出身地である南アフリカの子どもたちへの教育・スポーツを支援するプログラムの主催者としても活動中で、2020年に親友のナダル選手と行った「The Match in Africa」のエキシビジョン・マッチでは、約3億8400万円の寄付金を集めたことも報道されました。

フェデラー選手の無反応はスイス文化のあるあるを象徴

ジョコビッチ騒動にフェデラーはコメントするか?全員NOと予想

さてさて、ジョコビッチ選手のオーストラリアへのゴリ押し入国が報道されてからすぐ、フェデラー選手の親友であるナダル選手はパキッとわかりやすいコメントを発表しました。

ここで、「フェデラー選手も、コメント出すかな?」と私たち家族は親戚も巻き込んで賭けをしようとしたのですが(賭け品はチョコレート)、「フェデラーは絶対沈黙を守り通す」と全員の意見が一致してしまい、賭けが成立しませんでした。

なぜ、フェデラー選手は公に意見コメントを出さないのか?

私たちが確信した理由は、個人的なレベルで私たちが体験したスイスと他国の文化のちがいから。

私の親族は、スイス・ドイツ・フランス・オーストリア・ベルギーと、血縁もしくは長期滞在者としてヨーロッパ内のいくつかの文化相違を実際に体験した人間の集まりです。

少なくとも、私たちが経験上比較できる欧州の国と比べてみて、全員が思っているのは「ダンマリを決め込む」または「まわりの動向がはっきりするまで、状況を観察する」のがスイスの文化の特徴であること。

発言は金のドイツ人・沈黙が金のスイス人:大学での私の体験

発言は金のドイツ人・沈黙が金のスイス人:大学での私の体験

スイス人の沈黙キープは、筋金入りです。

スイスの国公立大学の教授陣は過半数以上がドイツ人なのですが、講義中にジャンジャン質問や自分の意見を発言するドイツ人と相反して、最初から最後まで、ひと言も発せずにジーッとしているのがスイスの学生の特徴。

ですから、スイスに来たばかりでシーンと静まり返る教室を初体験するドイツ人教授たちは、ショックを受けます。

「おぉ、私の講義がまったく受けない。そんなに内容がつまらなかったかな」と驚愕し、学生に意見を求めてくることも度々あったほど。

逆に、講義の進行を中断させるほどアクティブに、教授から発言許可が出なくてもベラベラ発言をしていたドイツ人の学生に向かって、発言ゼロの学生の聴講態度が当たり前のスイス人教授が「君、邪魔だからいい加減黙ってよ」と注意を促し、それでも発言を控えなかったドイツ人学生に「沈黙か退出」の選択を迫った講義も、学生時代には体験したことがあります。

同じドイツ語が公用語とはいえ、「発言が金」のドイツに対して、「沈黙が金」のスイス。

出る杭になるのを避け、大騒動になったジョコビッチ選手の事態の展開に沈黙を貫いているフェデラー選手は、世界中で愛されるスターになっても、スイス人らしさを失っていないと、私には思えるのです。

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