『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち(鈴木忠平著)』は、人口6万人弱の地方都市・北広島が、北海道日本ハムファイターズの新本拠地「エスコンフィールド」を中心とする行楽地「北海道ボールパークFビレッジ」を創生するまでの背景で大奮闘した、野球を愛してやまない「背広姿の選手たち」のノンフィクション物語です。
途方もない夢を実現した男たちの熱い生き様が、読者の「夢を忘れた心」にも火をつけることは、確実!
『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』本の概要
- 著者:鈴木忠平氏
1977年生まれ。愛知県出身のスポーツライター。
『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(2022年文藝春秋)で、ミズノスポーツライター賞(2021年度)と大宅壮一ノンフィクション賞(第53回)受賞。 - 登場人物:ボールパーク「エスコンフィールド北海道」を含む「北海道ボールパークFビレッジ」実現化に携わった、野球に夢を賭ける男性たち
『アンビシャス』を読み始めた途端、雑誌「Number」に掲載されていた山際淳司氏の記事の世界に足を踏み入れたかのような感覚に陥った私。
『アンビシャス』著者の鈴木忠平氏は、「Number」の編集部にお勤めだった経験があると知り、クールでホットな文体に、思わず納得。
『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』あらすじ
ノンフィクション小説である『アンビシャス』では、「ボールパーク構想」の発案者、前澤賢氏と三谷仁志氏(両名共、北海道日本ハムファイターズ取締役。2024年8月時点)が、「北海道ボールパークFビレッジ」プロジェクトを実現するまでの経緯が描かれています。
日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールド」を中心とする「ボールパーク構築」のアイデアは、将来を先取りしすぎたビジョンだったためか、発想から実現まで、さまざまな障害に直面。
しかしながら、とてつもなく大きすぎて絵空事のように受け止められた前澤氏と三谷氏の発想は、野球と北広島という土地を愛する公務員の元野球少年たちとの官民連携プレーにより、実現化に成功!
日ハムの新スタジアム建設だけではなく、北海道の街づくりとしての行楽地開拓の先端を担う大規模プロジェクトの裏側を知ることができる、とても興味深い本が『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』です。
『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』に出てくる名言
日ハムが北海道移転当初使用していたドームのある札幌市と、実際に「北海道ボールパークFビレッジ」が創設された北広島市は、ボールパーク誘致でしのぎを削ったわけですが、北広島が選ばれたいちばんの理由は、前澤氏と三谷氏の描く壮大なボールパークが、真っ白なキャンバス、つまり建設に利用可能な広大な土地を有しているかという条件だったのではと本書から推測できます。
すでに街が出来上がっている札幌市では、その点なかなか融通が利きませんものね。
けれども、立地決定のカギとなった登場人物の心情を、的確に表現しているのではいか?と想像させる名言が、コチラ↓。
出来ないことに出来ない理由を整理するのではなく、あらゆる可能性を追求し、その方向性を見出す。
引用元:『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』 第八章 ラストイニング
このメッセージは、ボールパーク誘致で、北広島市の牽引役を担っていた市職員の川村裕樹氏が、シンポジウム運営スタッフ用のマニュアルに記したものとのこと。
ちなみに川村氏は1988年、「ミラクル開成」と呼ばれ旋風を巻き起こした札幌開成高校の野球部4番だった甲子園球児です。
同日のシンポジウムで、「北海道ボールパークFビレッジ」構想発案者の前澤氏は、
どこで何をやるかよりも、誰とやるか。そのほうが大事だなと。そう考えています。
引用元:『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』 第八章 ラストイニング
と発言なさったそう。
まるでキャッチボールのようなおふたりのやりとりに注目し、ボールパークが北広島に創設される案は実現されるかも?!と、胸を躍らせたのが、川村氏の部下であり、川村氏に上記のスタッフ用メッセージ作成を依頼した杉原史惟氏。
杉原氏は、「ミラクル開成」に憧れて札幌開成高校に進学、野球部員になったものの、甲子園出場の夢は叶わなかった経歴を持ち、川村氏の要請でボールパークプロジェクトのために教育委員会から市役所に出向したというプロフィールの持ち主だという点も、読者が登場人物の「夢実現」を心の底から応援したくなるポイントです。
ね、「Number」のノリでしょ?
『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』名シーン
今のご時世、『アンビシャス』に登場する「背広を着た元野球選手たちの勝負服に必須のアイテムは、ネクタイ!」などと書いたら、男女(またはそれ以外)不平等な文章だなどと批判を受けてしまいそうですけど、やはり熱い男の物語に欠かせないのは、ネクタイ。
ボールパーク建設地発表日、万一プロジェクトの誘致に失敗したら、辞表を出す覚悟を決めていた北広島市職員の川村氏のために、奥様が「結果はどうあれ、カメラの前に立つから」と用意していたのは、北海道日本ハムファイターズのチームカラーである鮮やかなブルーのネクタイ。なんて素敵な奥様!
そしてボールパーク発案者の前澤氏は、建設地発表の記者会見前日、プロジェクト発案時からのパートナーである三谷氏に派手目の藤色のネクタイをプレゼント、自分用には地味な紺色と、あえて「北風と太陽」と呼ばれている自分たちのキャラを反転させる色のネクタイを用意していたなんて、これぞ「Number」流の価値観。
もし登場人物が女性ばかりで、プロジェクトの成功を祝うために企画発案者が「シャネルの口紅・ルージュココの458番と779番を自分たちのために準備」なんて文章を読んだとしても、ネクタイほど胸に響かないと思うのは、私が昭和化石のせいでしょうか。
『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』最大の魅力
「北海道ボールパークFビレッジ」は、2023年3月オープン以来、開設当初の年間来場者目標であった300万人を、わずか半年で突破、2024年6月にはすでに500万人の来場者累計を達成したとのことで、夢に賭けたサラリーマンと公務員の男性たちが実現化した官民連携プロジェクトは大成功という、素晴らしい結果に!
私のようにアラカンになりますと、「人生は不平等」という認識は、「地球は丸い」と同じレベルの事実だと悟っております。
そして、「夢が叶わない」経験は、全人類に平等に訪れる共通事項なのではと、考えたりもします(大谷翔平さんだけ例外かな?)。
同時に、自分の夢に本気で取り組み、たとえ途中で失敗しても、あきらめずに挑戦し続けていれば、周囲の人には無謀に見えた夢でも実現できるケースを、私はたびたび目にしてきましたし、幸いなことに自分の人生でも、同様の体験をすることができました。
でも誰にでも、思うように物事が進まなくて気分が腐ってしまう時期って、ありますよね。
『アンビシャス』で描かれている、北海道にボールパークを創った男性たちも、「自分の夢が叶わない」経験をした人たちなのですが、夢を信じる力を失わなかった彼らが、彼らの人生で最重要な登板シーン/打順が巡って来た際に、全力でそのチャンスを活かせたノンフィクション物語は、読者にも爽快感と新たに「夢」を信じる力を、与えてくれると思います。
北海道ボールパークのスタッフオフィスの入り口にある壁には、
“In the beginning, no one believed the project had a chance.”
“最初は誰も、できるとは思っていなかった。”
引用元:『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』 第九章 運命の日
との文が記されているそう。
この点だけ、私は声高に異議を唱えます。
前澤賢氏と三谷仁志氏のおふたりは、自分たちの夢が実現できると、最初から信じていたはず!
<参照サイト>
フリー百科事典 ウィキペディア <鈴木忠平>(更新日2024/01/21 20:48 UTC)(閲覧日2024/08/28)