兵庫県の百条委員会で斎藤知事が証人尋問を受けた際の動画を視聴して、斎藤知事の「させていただく」の使い方に違和感を持った私が、「させていただく」という表現について調べてみました。
兵庫県斎藤知事の「させていただく」に違和感:百条委員会尋問での実例
兵庫県斎藤知事の「させていただく」の使い方は、誤用ではないのかと私が違和感を持ったのは以下の例。
実際に、どのような文脈で「させていただく」が使用されたのかがわかるように、該当部分をサンテレビニュースの動画↑から文字起こししました。
違和感のある使い方:① 斎藤知事が職員に「指摘をさせていただいた」
【質問内容】播磨町の県立考古博物館訪問時、進入禁止の車止めがあったため、斎藤知事が職員を叱責したとされる件。
奥谷委員長の質問:「証人の方からはかなりきつい言い方だったということですが、そのように認識はありますでしょうか」
斎藤知事の回答:「 えっと、それなりに強く指摘をさせていただいたと思います」(動画の19:46〜)
違和感のある使い方:② 斎藤知事が前西播磨県民局長の「処分をさしていただいた」(発言のまま)
長岡委員の質問:「告発者の前西播磨県民局長の定職3ヶ月の処分は不適切であったと、今は認識をお持ちでしょうか」
斎藤知事の回答:「えっと、今も思ってはいません。適切だったと思います。(省略)やはり事実でないことが多々多く含まれる誹謗中傷性の高い文書だというふうに、私、県としては認識しましたんで、それで調査をして、そしてあの処分をさしていただいた(発言のまま)ということです」(動画の47:16〜)
引用元:YouTube動画 サンテレビニュース <【アーカイブ】「パワハラ疑惑」斎藤知事 何を語る 百条委 初尋問 〜2024年8月30日15時ごろ予定> (閲覧日2024/09/02)
つまり、兵庫県の斎藤知事は「上司(知事)が部下を叱責した/部下に処分を下した」という行為を説明する際に、「させていただく」という表現を用いているのですが、この使い方に対し、私は違和感しか感じません。
けれども、その違和感がどこから発生しているのか、自分ではわからなかったので、「おかしい……」と感じる原因を探ってみることにしました。
「させていただく」が使える条件:文化庁の定義
文部科学省に属する「文化庁」は、日本の文化芸術を世界と次世代に継承するために活動している政府機関。
その文化庁が作成した「敬語の指針」によれば、「させていただく」という敬語は、
- 相手側または第三者の許可をもらって、自分が何かを行う
- その行いで自分が恩恵を受ける
という2条件を満たす場合に、使われる表現とのことです。
させていただきます症候群とは? 言語学者の解説発見!
ところが、言語学者の加藤和夫金沢大学名誉教授の解説によると、
相手の許しを得て行う自分の動作を謙遜するときに使われる
引用元:TBS NEWS DIG <あなたは“させていただきます”症候群?…言語学者に聞いてみたら「今後ますます拡大するかも」>(放送日:MRO北陸放送2023/11/11 08:10)(閲覧日2024/09/02)
はずの謙譲表現「させていただく」は、本来の使い方から逸脱する形式で用いられるケース「させていただきます症候群」として、その使い方が拡大されているとのこと。
「させていただきます症候群」が広まっている背景には、
- どの動詞にでもくっつけて使える
- 相手に失礼のないように発言者が配慮していると示せる
といった、「させていただく」表現の便利さにあるようだというのが、加藤名誉教授の見解です。
関西人は「させていただく」への違和感が関東人より少ない?
前出の言語学者・加藤名誉教授の記事に、「『させていただく』はもともと大阪を中心とした関西方言で多用されていたものが共通語に広がっていった」旨の解説があったので、もしかしたら「関西人は関東人より『させていただく』への違和感を持たないのかも?」と思い立った私。
早速調べてみましたら、「させていただく」表現に関するデータを、NHKの「日本語のゆれに関する調査(実施日2015年3月6日〜15日、回答者数1192人)」で見つけました。
NHKの「日本語のゆれに関する調査」によれば、
「させていただく」問題
▼現代日本語の「相場」としては、「させていただきます」の使用に関して、「禁煙・差し控え・休業・値引き」は「正用」であると言える一方で、「営業・お訴え・感動・チョコを渡す」は「誤用」的な色彩が強いものとして位置付けることが可能である。
▼学歴別には、非大卒層のほうが「させていただきます」を好む傾向が強い。
▼地域別には、「関西・東海・甲信越」は「させていただきます」が好まれる地域、また「関東」は「させていただきます」がそれほど好まれない地域であると言える。
という結果が判明したとのこと。
ちなみに私は生まれも育ちも東京都でしたので、成長過程で受けた地域の影響から「させていただく」への違和感が、関西出身の人より強いのかもしれません。
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兵庫県の斎藤知事が百条委員会で用いた「させていただく」表現に、私が違和感を抱いた理由は明らかになりました。
本来の謙譲表現形式から外れる「させていただく症候群」が世間に広まっているとはいえ、百条委員会証人尋問という場で取り上げられている問題の内容と照らし合わせると、叱責/処分という自分の行いに「させていただく」を用いることは、不適切だと個人的には思います。
読者の皆様は、どのようにお考えでしょうか。