映画『オッペンハイマー』日本人こそ観て批判すべき!スイスでの鑑賞体験

スイスライフ

映画『オッペンハイマー』をスイスで鑑賞した私の感想です。

被爆国の日本人だからこそ、映画を自分で観て意見すべき! スイスでの観客の反応、そして日本通の現地友人との失望体験を報告します。

ドイツの雑誌シュピーゲルは、『オッペンハイマー』が世界諸国から8ヶ月ほど遅れで日本での上映が決定した背景をたずねたロイター通信の問いに、配給会社のビターズ・エンドは、「ノーコメント」の回答だったと報道。

ただし公開決定時に、配給会社が日本国内のメディアに発表した、「映画の題材が、日本人にとって特別なテーマを扱うものだから、公開を決めた」というコメントの要旨を、同記事内で載せています。

配給会社ビターズ・エンドが発表したコメント全文は、コチラ↓のリンクに掲載されています。

シネマトゥディ <ノーラン新作『オッペンハイマー』2024年日本公開決定 議論&検討を重ね決断、ビターズ・エンドが配給> (更新日2023/12/07) (閲覧日2024/02/06)

映画『オッペンハイマー』のあらすじ

映画『オッペンハイマー』のあらすじ

第二次世界大戦中、原子爆弾開発の指揮研究者であったアメリカの理論物理学者・オッペンハイマーの人生経路を、彼自身の視点から描く映画です。

映画の焦点は、原爆開発・製造期間と、原爆投下後におけるオッペンハイマー個人の変遷記。

特に戦後、原爆の父・オッペンハイマーが、スパイ行為を行った共産主義者とみなされ、凋落していく過程に重点が置かれており、広島・長崎に原爆がもたらした被害に関する描写は、抽象的な表現のみとなっています。

映画『オッペンハイマー』スイスのメディアによる評価

映画『オッペンハイマー』スイスのメディアによる評価
  • クリストファー・ノーラン監督が得意とする「込み入った」手法のストーリー構成により、時代・登場人物・場面描写などが変化しすぎるため、オッペンハイマーの人間性を把握できないまま、3時間の映画が終了してしまう
  • ノーラン監督は、オッペンハイマーの視点から描くことで、彼の胸のうちに焦点を当てたかったと主張しているが、それならば、原爆開発者から水爆開発反対の提唱者へと、オッペンハイマーが180度立場を変える要因となった広島と長崎への原爆被害状況を、なぜ抽象的に表現するだけにとどまったのか?

といった内容の指摘を、SRF(スイス公共テレビ局)をはじめとするさまざまな現地記事で目にしました。

またオッペンハイマーが、ドイツ人理論物理学者でナチスの原爆開発に携わっていた、ヴェルナー・ハイゼンべルクと言葉を交わした場所は、スイスのETHチューリッヒ工科大学なので、その場面はオッペンハイマーの原爆開発に対する焦りに影響を与えた重大なシーンだと、示唆する報道もありました。

映画『オッペンハイマー』観るべきか悩むあなたの参考になる動画

アメリカの尺度から作成された映画なので、オッペンハイマー自身の伝記とはいえ、映画の内容は日本人にとって、不愉快さを生じさせる構成であることは、否めません。

フロリダ州の日本人大学生・FURAIPANさん作成のコチラ↑のYouTube動画は、「『オッペンハイマー』を観るべきか、やめておこうか」と思考中の方に、とても役立つ映画解説。

FURAIPANさんの動画では、『オッペンハイマー』の

  1. 映画作品としての完成度
  2. 原爆の描写・被爆シーンの有無
  3. 原爆の扱われ方
引用元:FURAIPAN TV <【レビュー】日本人がオッペンハイマーを観た感想。日本公開未定のクリストファー・ノーラン最新作は日本人に受け入れられるのか?> (閲覧日2024/02/06)

そして、「日本公開は可能か?」という疑問について、

  1. 原爆が被人道的だと明示されているか
  2. 広島と長崎への原爆投下が正当化されていないか
  3. オッペンハイマーの罪がぼやかされていないか
引用元:FURAIPAN TV <【レビュー】日本人がオッペンハイマーを観た感想。日本公開未定のクリストファー・ノーラン最新作は日本人に受け入れられるのか?> (閲覧日2024/02/06)

に絞って解説してあります。

私はスイスで映画視聴後に、FURAIPANさんの動画を拝見したのですが、解説が本当にわかりやすくて、素晴らしい。

ちなみに私は、すべての点でFURAIPANさんと同意見です。

『オッペンハイマー』をスイスで観て:観客への失望と意見する必要性

『オッペンハイマー』をスイスで観て:観客への失望と意見する必要性

①『オッペンハイマー』スイス観客の反応に失望

『オッペンハイマー』がスイスで公開された2023年7月末、現地の映画館で鑑賞した私の体験は、非常に苦いものとなりました。

当日、スイス・ベルンの映画館はほぼ満席の状態。

スイスの映画館では上映中、映画の半ばで15〜20分ほどの休憩時間があるのですが、その際、「まだあと半分もある」といったやや否定的な発言が、あちこちから聞こえてきました。

ちょっとだらけた雰囲気の観客が、一気に盛り上がった『オッペンハイマー』のシーンは、悲しいことに「日本のどの都市に原爆を投下するのか?」という会議の場面。

ヘンリー・スティムソン陸軍長官が、「京都は外そう。妻とのハネムーンで訪れた場所だから」と発言すると、スイスの映画館内で大爆笑が起きたのです。

アメリカ在住の方たちが、同じ場面で客席に笑いが起きたと報じていた情報は目にしていたものの、まさかスイスの観客で同じような反応が起きると想像していなかった私は、爆笑という信じられない反応に、傷つきました。

私たちの後ろの列にいた3人連れは建築を専攻する大学生のようで、映画が始まるまで大学の課題のことなど熱心に話していたのですが、彼らが「ホントそうだよね」「京都が残って良かったよ〜」と大笑いしながら発言しているのを聞き、私は思わず怒りで落涙。

被爆地広島が地盤の岸田首相は、国税を使ってでも世界中の『オッペンハイマー』上映映画館で『はだしのゲン』の抜粋画像を広告部分で放映し、原爆の悲惨さについて国をあげて訴えてほしかった……などと、考えてしまいました。

②『オッペンハイマー』日本通である友人(スイス人)の態度に失望

かれこれ20年交友しているスイス人は、自他共に認める日本通。渡日歴は10回以上の親日派である彼女も、『オッペンハイマー』を観たとのこと。

友人が訪れた映画館でも、「京都を外す」部分で笑いが起きたそう。そして「京都は飽きるほど訪れたから、私にはもう関係ないけどね」と、彼女が軽い調子で言ったので、私は腹が立ちました。

「原爆の死亡者だけではなく、その後も後遺症で苦しみ続けている人々がいるのに、なぜ笑えるの?!日本通のあなただからこそ、広島・長崎の被爆者の心情を、慮ってよ!」と、私は憤慨。

すると彼女は、「ん〜、でもスイスではあれが普通の反応なんじゃない?悪い意味で出た笑いじゃないし。それにみんな、原爆の惨状ってピンとこないから」と答えました。

「だけど、あなたは原爆被害の実態を、資料館で見て知っているでしょう?」との私の問いに、彼女はさらりと、「行ったことないから、わからないわ」と返事。

この返答は私にとっては、信じ難い内容でした。

なぜなら、高校教師だった彼女は、引率教諭としてベルリン・ユダヤ博物館をたびたび訪れ、アウシュヴィッツ強制収容所を私的に訪れたこともあると、私は知っていたので。

「広島にも長崎にも何度も滞在しているのに、原爆資料館を訪れたことがないのは、なぜ?」

「興味ないから。気分悪くなると思うし」

「ホロコーストの資料館には、あれほど足を運んだのに?」

「……」と、私の言及に彼女は無言のままでした。

私の反応も、大人気なかったかもしれません。

だけど、スイス・ベルンの原発に反対し、ウクライナの戦争で胸が痛むと言っている、自他共に認める日本通の知識人が、原爆被害の実態を「知ろうとすらしない」という事実は、私にとっては受け入れ難いものだったのです。

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私のスイスでの体験は、一個人のものにすぎませんが、いかに原爆の被害が他国で理解されていないのか、という表れではないかと思います。

だからこそ、日本人の視点からは不快極まりない『オッペンハイマー』を実際に観て、自分の意見を述べるきっかけとなる日本公開は、非常に意義のあることだと、私は思います。

<参照サイト>
NZZ <Dr. Oppenheimer oder: Wie er lernte, die Bombe zu lieben> (更新日2023/07/19) (閲覧日2024/02/06)
SRF <«Oppenheimer»: Unspektakuläres als Spektakel – klappt das?> (更新日2023/07/20) (閲覧日2024/02/06)
週刊NY生活 <「原爆の父」功績描く、広島長崎惨状触れず>(更新日2023/08/09)(閲覧日2024/02/07)

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