私は移住先・スイスの公立大学を卒業したのですが、完全に日本育ちだったので、入学申請の手続きの段階で、いろいろな条件をクリアしなければいけませんでした。
入学資格の条件は、国籍ごとに設定されているので、私の体験がどなたかのお役に立つことを願いつつ、入学までのプロセスをまとめてご紹介したいと思います。
「日本人がスイスの国公立大学に入学するための条件」としてこの記事で扱うテーマはこちらです。
- スイスの国公立大学について
- 日本人がスイスの国公立大学へ入学するときクリアすべき条件
- 追加試験 (Ergänzungsprüfung ECUS) の試験科目と合格に必要なポイント
スイスにある国公立大学は12校
スイスには Hochschulförderungs- und Koordinationsgesetz (HFKG) という法律で認可されている国公立の大学が12校あります。うち10校は州立、2校は国立の連邦技術大学です。
スイスでよく耳にするのが、「スイスにある最高の資源は人」というセリフ。
国土が日本の九州ほどの面積しかなく、天然の資源に乏しいスイスでは、人間の資源が国を率いる原動力だという意識が国民に行き渡っている印象を受けます。
毎年、世界大学ランキングが発表されるたび、小さい国ながらもトップランキングの上位を占めるスイスの公立大学の現状を、国の人材資源の育成が成功している例だとして、多くのメディアが報道しています。
ちなみに、Times World University Rankings 2021でのランキングはこちら。
ランク | 大学名 |
14 | Swiss Federal Institue of Technology Zurich, ETHZ |
43 | Swiss Federal Institue of Technology Lausanne, EPFL |
73 | University of Zurich |
92 | University of Basel |
109 | University of Bern |
149 | University of Geneva |
191 | University of Lausanne |
251-300 | University of Lugano |
351-400 | University of Fribourg |
401-500 | University of Neuchàtel |
401-500 | University of St Gallen |
ユキの母校の BaselとFribourgがランクインしているわ♪
日本人がスイス国公立大学へ入学するときクリアすべき条件
- 高校の卒業証明書
- 高校を卒業した国ですでに大学に在籍していた証明書
- 入りたい大学へ入学希望申請提出
- 追加試験 (Ergänzungsprüfung ECUS) 合格証
【スイス国公立大学進学必須書類】①高校の卒業証明書
成績の平均値が5段階評価の3以上であることが条件。
大使館発行の翻訳証明も一緒に提出する必要がありました。
【スイス国公立大学進学必須書類】②高校を卒業した国での大学在籍証明書
私の日本での最終学歴は短大だったので、卒業証明書を大使館発行の翻訳証明を添えて出しました。
私が大学に問い合わせたときには、日本で4年生の大学を卒業して、すでに学士号を持っている場合でも、以下に記す追加試験が必要になる、ただし卒業までに必要な在籍年数が1〜2年短縮される可能性はある、との回答でした。
【スイス国公立大学進学必須書類】③入りたい大学へ入学希望申請提出
スイスでは、連邦というのが中央政府のこと。
連邦に属する26の州および準州は自治権を持っているので、それぞれの州に独自の法律があります。
そのため、税率・社会福祉や教育制度は、住んでいる州によっていろいろとちがいがあります。
例えば、小学校の外国語の授業では、
- ベルン州:3年生からフランス語、5年生から英語
- チューリッヒ州:2年生から英語、5年生からフランス語
と、どちらもドイツ語圏なのに、州独自の異なるシステムが適用されています。
大学に入学する前の段階では、各州の大学が州の法律にならった独自の方法で入学希望の申請データ適性を調査するので、初めから自分の選んだ大学に申し込みをしないと、チェックが二度手間必要になります。
ただし、大学入学後に単位をとってから別の州の大学に変わるときには手続きはスムーズで、通常、そのまま単位の移行もできます。
どの大学で、なにが日本人の入学申請に必要な条件になっているのか確認したい方は以下のサイトをご覧ください。
【スイス国公立大学進学必須書類】④追加試験 (ECUS) 合格証
私はこの追加試験(ECUS=Ergänzungsprüfung)を受けるまえに、ドイツ語とフランス語のインテンシブコースで、ホントに世界中からスイスに来ていた学生たちと知り合いになれました。
総勢人数100人くらいの学生の中で追加試験の免除がされたのは、スイス人のご両親が移住した南アメリカで育ち、移住先の国の大学ですでに修士を終えていたひとりだけでした。
私が通学した準備コースの先生たちは、「出身国の交換留学制度を使うなら別だけど、スイス以外の国で育った人が大学に入りたいなら、追加試験はほぼ免除されない」とおっしゃっていましたので、ふつうなら避けて通れない関門のようです。
ちなみに追加試験の合格証は、自分が入学申請を出した大学にかぎり有効なので、合格証が発行されたあとで他の大学へ進路を変更することはできません。
では、追加試験の具体的な内容を、次のパートで記していきますね。
【スイス国公立大学進学】追加試験ECUSの試験科目・合格基準点
試験科目は全部で5科目あり、1000スイスフラン(約12万5千円)ほどの受験費用がかかります。
ECUS申請手続きの詳細や試験日程については、ウェブサイトで確認をしてください。
ECUS | Examen Complémentaire des Hautes Écoles Suisses. http://www.ecus-edu.ch/anmeldeverfahren/ (閲覧日:2021年8月10日)
【スイス国公立大学進学】ECUSの試験科目は全部で5科目
- 大学の授業で使われる言語(ドイツ語かフランス語):筆記と口頭
- 数学:筆記と口頭
- 英語:筆記と口頭
- 歴史:口頭
- 生物・化学・物理・地理のなかから1科目選択:口頭
【スイス国公立大学進学】ECUS合格に必要な成績は?
テストの結果は6段階で評価されます(6が最高点、4が及第点)。
- 言語テストは4以上であること
- 数学・英語・歴史と選択科目のひとつを合わせた4科目の総合点が最低16ポイントあること
- 16ポイントあっても、6段階評価の2以下の科目が4科目のうちにある場合には、不合格
つまり、例えば数学6・英語6・歴史6でも生物で2だと、総合得点が20ポイントあるけれども不合格とみなされるという意味です。
言語テストについてですが、私が入学したフリブール大学はドイツ語とフランス語の2ヶ国語で学ぶことができるシステムなのですが、この追加試験のときにはドイツ語かフランス語、自分で選んだ言語をひとつ受ければOK。
入学後、バイリンガルで履修したい場合には、問題なく希望が受け入れられるはずです(ただし授業についていける言語のレベルがあるかどうかは、自己責任でした。私の知人のケースでは)。
【スイス国公立大学進学】追加試験ECUS合格までの準備に私が費やした時間
私はドイツ語がまったくできない状態からスタートしたので、まずドイツ語の習得だけで2年かかりました。←この時期、ドイツ語の練習本を食べるかのように、猛勉しました。
ドイツ語の日常会話ができるレベルになってから、追加試験ECUSの準備コースで2年間、毎日最低6時間は授業があったと記憶しています。
宿題も、中間試験も大量にあったので、寝ても覚めても試験の内容と格闘。
私は当時すでにアラサーで、高校で習った数学の公式は記憶からきれいさっぱり消えていたので、数学では赤点だらけ。
ドイツ語・英語・歴史・地理で頑張って、数学の赤点を補えるように猛勉強したことも、今では懐かしい思い出です。
追加試験ECUSに合格すれば、大学入学資格保有者とみなされるので、自分が進学したい大学と学部を自由に選ぶことができます。詳細は、コチラ↓の記事へ。
【スイス国公立大学進学】ドイツ語は Goethe-Zertifikat C1が必須
Goethe-Zertifikat C1 は大人向けのドイツ語検定試験です。 この試験では、非常に熟練したドイツ語の能力があることを証明することができ、ヨーロッパ言語共通参照枠(GER)にもとづく6段階の共通評価レベルで、5番目にあたるC1レベルに相当します。
引用元: Goethe Institute (閲覧日:2021年8月11日)
私はECUSのドイツ語テストでは6段階評価の5.5ポイント取れたのですが、大学に入学した当時のことを振り返ってみると、私のドイツ語レベルでは講義に追いついていくのがやっとの状態で、毎日息切れ。
しかも、学士課程1年目からプレセミナーで次々とドイツ語のレポートを書いて提出、毎回みんなの前でプレゼンテーションもしないといけなかったので、ドイツ語力の足りなさを実感する日々でした。
感覚的な表現になってしまいますが、大学入学当時の私のドイツ語のスキルは、
- 会話力:日常生活が問題なくこなせて、電話でこみ入った内容を話すのもOK
- 読解力:新聞や雑誌のSPIEGELはスラスラ読み進めて、辞書も必要ない。心理学の専門書や講義の内容では知らない言葉が多発
- 筆記力:とりあえずドイツ語で意見を文章にまとめることはできるが、動詞と前置詞のコンビネーションや冠詞はまちがいだらけ。読者が想像力を働かしてくれれば、意味が伝わるという文章も少なからずあった
という状態だったので、参考までに。
私が専攻した心理学ではスイスの全公立大学で、大学入学後に学生数を減らすためのPropädeutikumというテストが導入されています。いわゆる入試です。
そのテストに受かって、レポートでも単位を取れないと心理学の勉強が続けられなくなる、というプレッシャーが大きかったのですが、大学での学問に必要なドイツ語を書く能力は、すぐには身につかないので、悩める時期が続きました。
心理学部での入試に関する詳細は、コチラ↓の記事でご覧ください。
スイスの大学では、専攻した学科の知識を得るだけではなく、研究の視線からアクティブに学問に取り組むことを指標にし、実行しているので、これからスイスの大学に入学することを計画している方は、入学前にできるかぎり言語力、特に書く言語力を鍛えておくことをオススメします。
ちなみに、学士課程でも大量の英語文献を読まないといけないので、英語力を伸ばすことも忘れずに。
例えば私が在籍した大学では、講義で必要となる材料の3分の1ほどは英語文献だったのですが、テストとプレゼンテーション、そしてレポート提出はドイツ語。
「いい加減にして〜」と、日本育ちの私は何度心で叫んだことか(笑)。
言葉の壁は分厚くて高いですけど、満足度の高い学生生活を送ることができるのが、スイスの大学で学ぶ魅力だと思います。
・・・ただし、2022年現在、スイスは大学の研究面で「陸の孤島化」している状態。ヨーロッパへの留学を念頭においている方は、別のEU加盟国を選ぶ方が、無難かも知れません。
まとめ:日本人がスイス国公立大学へ入学するときクリアすべき条件
- 高校の卒業証明書
- 高校を卒業した国ですでに大学に在籍していた証明書
- 選んだ国公立大学へ入学希望の申請
- 追加試験 (Ergänzungsprüfung ECUS) 合格証
スイスの大学で楽しい思い出が作れるといいですね!