【小学校で同級生のお世話係】実体験から考えるインクルーシブ教育

エッセイ

小2のとき、同級生のお世話係になった娘の体験を振り返る回顧録です。

インクルーシブ教育が成功するためには、学校側の組織としての受け入れ態勢が万全でないと、お世話係への圧迫は相当なものだというのが、保護者としての実感です。

この記事の趣旨は、インクルーシブ教育に反対するものではありません。例えば大阪府豊中市のように、「共生社会の形成」を実現するために、地域と関連機関が連携して取り組むインクルーシブ教育は理想的な形だと、個人的には考えております。

関連サイト:豊中市障害児教育方針(改訂版) 平成28年(2016年)4月1日改定

この記事を投稿すべきか、丸2日間悩みました。

けれども、私たちが体験したインクルーシブ教育の「軋み」は、同じような「お世話係」の立場で悩んでいるお子さんを抱えているご家庭にとって、少しは参考になるかもしれないと考えました。正直に意見を述べるのが非常に難しい状況は、体験者でないと理解しにくい点もあるかと思いましたので。

教育・行政機関が必要とされるサポート体制を整えた上で、意義のあるインクルーシブ教育が行われることを、願っています。

同級生Eちゃん(仮名)のお世話係で起きた出来事

  • 学校側は当初、受け入れ体制不備でEちゃんの転入を拒否
  • Eちゃんのお世話係は同級生の当番制でスタート
  • お世話係のプロフィールにぴったりだったわが子
  • 学校生活のすべての場面で、Eちゃんへのお世話が娘に期待されている状態に
  • お世話係の重圧がエスカレートしたため、担任教諭と話し合い
  • 学校がEちゃんご家族に転校の要請

【インクルーシブ教育】学校側は当初受け入れ体制不備で転入拒否

【小学校で障害児のお世話係】学校側は当初受け入れ体制不備で転入学拒否

娘の母校は、子どもの個性と才能を尊重する個別教育を重視していた私立学校。そのせいか、ADHD・算数障害・失読症など、DSM(米国精神医学会の診断と統計マニュアル)で何らかの診断をされた子どもたちが、生徒のなかにはたくさんいました。

1・2年生合同クラスで、娘が2年生になったときには、クラスメイトの総数が15人前後。

特別なケアを必要とする生徒が多い環境で、担任の先生は本当にきめ細かく、それぞれの生徒が必要とするサポートを提供できる方でした。

小1の時点で飛び級を提案され、辞退していたわが家の娘へのサポートも素晴らしく、2年生になった娘もまだ退屈知らずで通学していました。

そのクラスに、身体的障害(聴力/手足の運動機能)のあるお子さん・Eちゃんが転入してくることになりました。

学校側は、「知的面で不均等な発達を示す子どものサポート体制は整っているが、身体面での援助体制は不備」として、初めはEちゃんの入学を拒否。それでも転入が認められたのは、Eちゃんのお母様が、この小学校の教諭(以下、P先生とします)だったという、特別な事情がありました。

P先生は当時、3・4年生の合同クラス担任/小1〜6年の英語担当/学童保育(同じ私立校が提供)の責任者を兼務する先生。特に、生徒たちの英語能力開発に関するP先生の功績は、誰もが認めることでした。

小1のとき、Eちゃんは養護学校に通学していたそうですが、P先生はEちゃんへの援助体制が不適切だと感じたため、自分の勤務先である私立校への転入を希望したとのことでした。

【小学校で同級生のお世話係】初めは同級生の当番制でスタート

【小学校で障害児のお世話係】初めは同級生の当番制でスタート

Eちゃんは、ひとりで文字を書くことができなかったので、クラスメイトが当番制でEちゃんの隣の座席に座り、お手伝いを担当することになりました。

しかしこの当番制は、すぐに失敗します。

クラスメイトの過半数は、保護者が躍起になって先取り教育を行い、天才のラベルを貼られていた子どもたち。彼らの親御さんは、Eちゃんのお世話に時間が取られ、自らの先取り課題がクリアできない子どもを、他人の前でも叱責することさえありました。

もともと息つく暇もないほど勉強させられている彼らは、お世話係になると、Eちゃんに辛く当たるようになったそうです。

そして、自分自身がADHD・算数障害・失読症などを抱えている子どもたちは、お世話係としてのキャパシティが常にあるわけではない。

結局、ウチの娘ともうひとりの男の子が、日替わりでEちゃんのお世話係を担当することで落ち着きました。しかし女の子同士ということもあり、Eちゃんのお世話係は娘の担当ということで、次第に定着していったようです。

【小学校で同級生のお世話係】しっかり者の生徒がお願いされる傾向

【小学校で障害児のお世話係】しっかり者の生徒がお願いされる傾向/OKサインのスマイリー

教職という立場での経験から「お世話係」について執筆されている方たちの記事を拝見すると、わが子はまさにお世話係にぴったりのプロフィールの持ち主でした。

  • 学校が大好きで、先生のお話に夢中
  • 授業内容の理解が早い
  • 面倒見が良い
  • 責任感がある

この時点で私は何度も「あなたは大丈夫?」と娘にたずねていましたが、「うん、大丈夫!だって学校楽しいもん」と笑顔で元気よくお返事が戻ってきたので、私は当面そのまま見守っていました。

【小学校で同級生のお世話係】学校生活すべてが「お世話係」一色に

学校で楽しく過ごす子どもたち

授業中・休憩時間・学童の全時間、娘のEちゃんへのお世話が期待されている状態だと気がついたのは、それからしばらくしてのこと。

きっかけは、学童を担当していたL先生からのフィードバックでした。

「P先生が、お宅のお嬢さんの学童の日程に合わせてEちゃんを学童に通わせるようにしたこと、ご存じですか?」とL先生。

さらに、「P先生は、『サリーちゃん(娘)がEちゃんのお世話係だから、学童での活動もふたりがいつも一緒になるように心がけて』と私に指示しています。でも私自身、学童の時間だけでさえ、Eちゃんを普通学級で受け入れることに限界を感じているのです。このままでは、サリーちゃんが息詰まることが確実です」と告げられたのです。

この私立校の学童は、小1〜6年の生徒に対する縦割りのグループ形成。学童にいる間、娘は年上の生徒さんと一緒にチェスやクイズで遊んだりする機会があり、とても楽しんでいたのです。

ところが娘が他のお子さんと仲良くすると、Eちゃんがひどく暴れてしまう。

どの子どもたちも、「EちゃんはP先生の子ども」と知っているので、揉め事が起きても「いつも通り」の対応がしにくいことは、学童のL先生にとっても明らか。

見かねたL先生が仲裁に入ったところ、Eちゃんは「私のママはP先生。言うこと聞かないと、P先生に言い付けるわよ!」と、L先生を威嚇してきたと言うではありませんか。

【小学校で同級生のお世話係】補聴器のバッテリー交換まで小2の娘に丸投げ

またL先生によれば、Eちゃんが使用している補聴器は2〜3日に1度のペースでバッテリー交換をしなければならないそうなのですが、P先生はその作業までウチの娘に丸投げ(娘は当時8歳)。

お話を聞いて、娘が追い込まれている状況を理解した私は、愕然としました。

このころになると娘も、「授業中だけなら、Eちゃんのお手伝いをしてもかまわない。だけど、休み時間や学童でも他のお友だちと遊ぶきっかけがなくなるのは、もうイヤ」と言うようになっていたのです。

「担任のH先生は授業中、どうしてる?」と娘にたずねたところ、「私がお世話係を辞めたら、誰もお手伝いしない。先生もそのことを知っているから、困ってると思う」という返事でした。

【小学校で同級生のお世話係】誰もが目を背けるインクルーシブの限界

【小学校で障害児のお世話係】誰もが目を背けるインクルーシブの限界。目を背けるサイン

学童のL先生のお話によると、Eちゃんの母親であるP先生は、教諭陣に対しても「手伝わないといけないムード」を作り上げていたとか。

特に娘の担任・H先生は新米教師のころ、P先生に指導を受けていたそう。Eちゃんをクラスで受け入れることの限界を何度発言しても、「あなたならできる」とP先生に対応され、H先生ご本人も追い詰められていると、L先生から伺いました。

冒頭で述べたように、娘のクラスには学習に必要な能力レベルが凸凹のお子さんも、数多くいたのです。生徒の才能がまんべんなく伸びるよう、それぞれの子どもに適した課題を用意/指導するH先生の対応は、本当にお見事でした。

さまざまな能力レベルにいる子どもたちをインクルーシブで受け入れ、成功していた娘のクラス。

しかしEちゃんが必要とするサポートは、一般の学級における支援の域を超えている。そのことに、関係者の誰もが気がついているのに、Eちゃんの親御さんは事実から目を背けている…。

私たちが動かなければ、娘の肩にのしかかるお世話係としてのプレッシャーが増えることは、簡単に予想できました。

同時期に、P先生から「いつもお世話をありがとう。これからもよろしくね」と、高価なプレゼントを娘が頂戴したので、娘も私たちも非常に複雑な気持ちとなりました。

私立の一貫校で、小学生時代にスタートしたお世話係の役目は、いったいいつまで続くのか。

けれども、「健常児の親が、このような気持ちになることさえ、いけないのではないか?」と、葛藤しました。

【小学校で同級生のお世話係】重すぎる責任について担任教諭と話し合い

【小学校で障害児のお世話係】重すぎる責任について担任教諭と話し合い

親の立場から申し上げると、娘は表面的には「いい子」の典型でしたが、本人の心の中では「まわりと違う」自分に対する悩みも多く、天才児特有の苦しみを抱えていました。

彼女の苦しみの良き理解者は担任のH先生でしたから、私たちから要望した面談では、わが家で議論していた「公共の場では口にし難いお世話係の苦痛」、そして「(おそらく)天才児だから普通の児童よりも許容力があると決めつけられることへの困難」などについて、正直に気持ちを打ち明けました。

三者面談では、問題を悪化させた根源は自分にあると、担任教諭は涙を流して、謝罪。追い詰められていたH先生に同情するとともに、私たちはやり場のない怒りを感じました。

【小学校で同級生のお世話係】学校がEちゃんご家族に転校の要請

クラスルーム

結局、担任のH先生と学童のL先生が共同で、Eちゃんのインクルーシブ教育受け入れが無理である現状を学校の上層部に連絡。

Eちゃんの転校により、娘はお世話係からは解放されました。でも、わが家が体験したお世話係にまつわる出来事を振り返ってみますと、サポート体制が整わない状態でのインクルーシブ教育では、関係する人たち皆が傷つく結果になったのではないか、と思いました。

実り多きインクルーシブ教育を実現するためには、さまざまな見地から全体像を把握して、クラス単位ではなく、教育・行政機関の体制が万全である必要性を、ひしひしと感じた次第です。

【小学校で同級生のお世話係】現在悩みを抱えるご家庭に私たちの反省点

わが家のケースでは、学校側から正式な依頼がないまま、娘の「お世話係」が定着してしまいました。

もし、あなたのお子さんが「お世話係」に任命される、または「お願いね」という雰囲気が生じている場合、「お世話係」がどのような定義に基づいているのか、不明な点をすべて学校側に問い合わせ、はっきりとした回答を求めましょう。

インクルーシブ教育の体制が整っていれば、学校側の説明にあやふやな点はないはず。新たな疑問が生じる場合でも、「誰が・何を・どのように・いつまで」という答えは、お世話係の担当者ではなく、学校/組織が把握し、責任を持って調整すべき内容です。

私たちの場合、やや特殊な環境で起きた出来事でしたが、今回の記事の内容が、どなたかに少しでもお役に立つことを願っています。

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