私がスイスで出会ったヨーロッパの人たちには、「会話のキャッチボール? なんじゃそりゃ?」という風に、巧妙かつ図々しい作戦で会話の端を自分の方に手繰り寄せ、端っこをつかんだら最後、ラグビー選手のように会話のボールを胸ぐらに抱え込んだまま、ゴールへ向かって一直線という傾向が、よく見受けられます。
どんなシーンでも、こういうタイプの人に遭遇する確率が高いので、「私は聞き役のAIロボット?」と自問自答することも、しばしばあります。
そこで今回の記事では、海外在住者に起きがちな「自分語り」の聞き役になってしまった時に、イライラせずに、うまく切り抜ける対応方法をご紹介します。
- 「自分語り」とはなんぞや?
- 「自分語り」が好きな人の心の中をのぞき見【心理学の研究から】
- 「自分語り」への対応方法:気分で選べるバリエーション
「自分語り」とは?
自分語りをする人の話し方:
- 会話の内容がすべて自分中心の話題
- 話が終わらない
- 他人の話にまったく興味がない
「自分語り」が好きな人:仮面の下に隠れる低い自己価値観
熱狂的な自分語りをする人の、「私ってスゴイでしょ?」という仮面の下には、
- 自信がない:私は、ダメな人間だと思われているかも?
- 好かれたい:私、嫌われていないかな?
- 認めて欲しい:なにも言わないと見下されるかもしれないから、アピールしたほうがいい?
といった「低い自己価値観」が隠れているのです。
親子関係の愛の絆・アタッチメントと自己価値観の関係
成長過程で親子の間に育つ愛の絆・アタッチメントに関する研究は、心理学で盛んに行われているテーマのひとつ。a)
自分の定義に対する文化のちがい
「自分」に対する認識が、まわりとの関係性と自分に与えられたロールモデルを極めることで成り立つ集団社会(例:日本)と異なり、「自分」のアイデンティティが能力や実績で形成される個人社会(例:ヨーロッパ・アメリカ)の人々は、「私って、スゴイでしょ?!」と自己価値観を高める意識を「心の栄養素」として必要とする、という決定的な文化のちがいが、心理学の見地から報告されています。b)
主語がなくてもOKの日本語と主語がないと話が通じない外国語が生む差
これは単なる私の推測ですが、四半世紀もスイスでドイツ語中心の生活をしている日本育ちの私にしてみると、日常のすべてのシーンで「私」の立ち位置と他人を区別して会話をしないとコミュニケーションが成り立たない外国語が母国語だと、必然的に物事への視点が「私」中心になってしまうのかな、と思います。
日本語を使うときには主語がなくても、誰のことを指しているのかが(日本人には)明確ですものね。
「自分語り」への対応方法:気分で選べる5つのバリエーション
自分語りをする相手の聞き役は、退屈極まりないです。
私の体験では、日本では有効な方法、例えば、ひと通り相手の話が済んだところでテーマを変えるとか、ひどいときには体全体で「私、興味がないので」光線を発しても、ヨーロッパでは効きめがありません。
「相手はしゃべるよ、どこまでも」状態に抵抗できないと思うと、聞き役のコチラ側にかえってイライラがつのる経験を、私は幾度もしてきました。
なにを試みても、相手(特に自分語りを愛するようなタイプ)を変えることはできません。
ですから、聞き役の私たちが思考を変え、いっそのこと状況を楽しむ気持ちで、聞き方にバリエーションを入れてみる方法を、私はオススメします。
【自分語り対策】①いちばん無難:適当に聞き流しながら、たまに相槌を入れる
- 相手が乗りすぎないように、「ふ〜ん」「そう」と抑えた相槌を入れる
- 相手がどこまで羽目を外すのか、試してみたいときには「すご〜い!」「ワァオ」など、大げさな反応をして相手を観察する
以上ふたつのバリエーションを交互に使うことで、聞き役のコチラが、主導権を握っているつもりの相手を操ることもできて、イライラは解消。むしろ楽しめると思います。
ただし、あまり強烈に「ワァオ」反応を見せると、「稀に見る良い聞き役」と誤解され、自分語り愛好者にロックオンされてしまいますので、その点はお気をつけください。
【自分語り対策】②退屈しのぎ:相手が何回「私」と発言するか、数えてみる
このテクニックは、セラピストの友人が外国に留学していたときに利用して役に立ったと教えてくれたのですが、私には向いていませんでした。
なぜかというと、話を聞きながら頭の中で「正」の字を書いていても、自分語りの相手の話が長すぎて、もう何個「正」の字が増えたのか、指で数えても追いつかなかったのです。
けれども、そんなくだらないことに夢中でチャレンジしている自分を笑うきっかけになります。
【自分語り対策】③語学学習:外国語の練習と考えて、相手の話をおうむ返しに
相手の話の内容ではなく、言葉の選び方や文法に注目するのです。そして、「私が〜した」と続く文章の終わりに、「あなたは〜したのですね」と、おうむ返しに発言してみましょう。
ただし、この方法はあなたにも時間があるときに限られます。相手は楽しくなって、どんどん話が長くなりますから、その点はご注意ください。
【自分語り対策】④悪魔の囁き:相手をちょっと困らせる質問を投げかける
コチラから投げかける質問は、素朴な内容であることが決め手となります。相手が話したテーマを深く掘り下げるような質問だと、かえって長い解説が続きますから。
子どもの目線になって、単純な質問を考えてみるのです。
例えば、「ヘッドハンティングされて、転職する」というシンプルなニュースを、新しい部門・役職名・業務内容すべてを、ルー大柴さんのような英語連発(ご存知ない方は、ググってね)で話していた自分語りの相手に私が遭遇してしまったときのことです。
15分以上聞き役に徹して疲れた私は、相手が息継ぎで黙った瞬間を狙って「新しい会社は、イギリスかアメリカに本社があるのですか?会社での公用語は、英語?」とたずねました。
答えはどちらも「いいえ」だったので、「じゃあ、なぜ会社の業務に関することすべてに英語が使われているの?」と相手に質問。
私の予想外の質問に答えられなかったお相手は、スマホでその理由を調べ始めたので、ついに黙ってくれました。
私? 「じゃあ、良い1日を! 私、もう行かなくちゃ」とキチンと挨拶して、とっととその場を去りました。
礼儀正しさは、スイス社会の基本的なマナーですもの。挨拶はどんなときにも欠かせません。
【自分語り対策】⑤ひとりでニンマリ:相手の自分語りと同じ数だけ楽しい何かを考える
自分語りの相手の話は、長々と続きます。ですから、新しいテーマが出てくるたびに、コチラの頭の中にも同じ数だけ、気分が明るくなることを考えてみましょう。
あなたが好きな・・・
- サッカー/野球選手/相撲の力士など、スポーツの選手
- ジャニーズのメンバー
- イケメン俳優(別に個性派・演技派でもOK。それはお好みで)
- ミュージシャン
- ヨーロッパのロイヤルファミリーのメンバー
- アニメの登場人物
など、自分の好きなことに関連する人たちを思い浮かべるだけで、自分語りの聞き役という退屈な時も「フフフ」とほくそ笑むお楽しみの時間に変化を遂げます。
自分語りに夢中な相手は、どうせ他人には興味ゼロなので、コチラの反応が鈍いことでめげたりしません。
もしあなたがニヤけたとしても、「お、この話はウケがいい」と自分自身のポイントに換算するのが自分語りの話し手の特徴ですから、気にしなくて大丈夫。
あなたの頭の中にある妄想の世界で、思いっきり羽を伸ばしましょう。
【まとめ】「自分語り」の聞き役をらくらく切り抜ける方法
クリスマスの時期になると、「参加が必須」のホームパーティがいくつかあって、今から憂鬱な方もいらっしゃるんじゃないかしら?
外国人パートナーの親戚や知人に囲まれ、あなたひとりが日本人という設定のパーティは、現地の言葉に慣れていない間は、座禅修行並みの厳しさ。
加えて、まわりの人たちは熱狂的な「自分語り」に夢中となれば、ストレスレベルがあっという間にMAX状態となり、イライラ体験が増えてしまうかもしれません。
「なぜこの人(たち)は、こんなに自分中心なの?」とこだわると、コチラに話を振ってくれない相手への不満が、いつしか自分自身や海外暮らしのすべてを否定するようなドラマにつながってしまうこともあるので、注意が必要です。
不満のチリも積もれば、大爆発につながる可能性がありますから。
この記事で私がご紹介した内容は、一見おふざけが過ぎる印象を与えるかもしれませんが、どんなときにも「笑い」は最高のストレス・ガス抜き法なので、もしよかったら次回の憂鬱なパーティで効果をお試しくださいね。
笑いをきっかけにすることで、肩の力が抜けてストレスが溜まりにくくなりますよ〜。
<参考文献>
b)Markus, H. R., & Kitayama, S. (1991). Culture and the self: Implications for cognition, emotion, and motivation. Psychological review, 98(2), 224.
(閲覧日2021年11月16日)