フランスで行われたアルペンスキー世界選手権 (2023)で初優勝に輝いたマルコ・オーデルマット選手は、スイスでは「スキー界のロジャー・フェデラー選手」の呼び声が高い国民のアイドル。
そんなオーデルマット選手の優勝インタビューで、放送禁止用語が使われたことから、大騒動が勃発!
今回の記事では、スイス潜伏歴四半世紀の在住者の観点から、コチラ↓の内容を解説します。
【オーデルマット選手の優勝インタビュー、放送禁止用語でトラブる】
- スイス公共放送の局アナとオーデルマット選手が使った放送禁止用語とは?
- オンブズマンと世論の反応
- 渦中の放送禁止用語:使用OK/使用はNGケースの実例
オーデルマット選手のインタビューでトラブった放送禁止用語とは?
スイス公共放送の局アナ、パディ・ケリンさんとマルコ・オーデルマット選手の間で交わされた問題の会話は、以下のとおりa。
局アナ:「こんな発言をしてすみません。だけど、この体験(世界アルペン初優勝)は、«huere geil(発音:フゥーラ ガイル)»ではありませんか?」
オーデルマット選手:「はい、信じられません!これは «フゥーラ ガイル» です!」
スイスの放送禁止用語 «huere geil» の意味を在住者が解説
«huere(発音:フゥーラ)»とは?
スイスドイツ語で、本来は「娼婦」を意味する言葉(ドイツ語にはない)。
現代では「最高/最悪」などの状態をさらに強調する形容詞として口語で使用される。
«geil(発音:ガイル)»とは?
性的欲求を満たしたくなる状態。
ただし、ポジティブに感情が揺さぶられる「素晴らしい」体験を表現する場合にも、口語で使用される。
注:スイスドイツ語だけではなくドイツ語でも同様の扱い。
出典元:スイス潜伏歴30年弱の日本人心理学博士が日常生活で収集した体験
ですから、«huere geil(発音:フゥーラ ガイル)»は、「すごくその気にさせる娼婦」ではなく、「世界アルペンスキーでの初優勝は、最高に素晴らしい体験で、めっちゃ嬉しい!」が、オーデルマット選手と局アナの意図した感情表現だったのです。
スキー生中継で放送禁止用語発言:苦情申立にオンブズマンの対応は?
放送禁止用語
特定の人を差別する、不快感を与える、卑猥であるなどの理由で、テレビ局・ラジオ局が使用を自主規制している言葉。
オンブズマン
メディアの自主規制システムの1つで、メディアの報道に関して、編集・報道部門からは独立して意見を述べたり是正のための取り組みにあたる人またはその職。
現地での報道によれば、通常では放送禁止用語が使用されるとは思えない放送時間帯(日曜日の午後)に、健全な番組(世界アルペンスキーの生中継)を子どもたちと視聴していた人が、「未成年者の人権保護違反」を理由に、スイス公共放送のオンブズマンに苦情の申し立てをしたとのこと。
ただし、オンブズマンは
- 発言されたスイスドイツ語の«Huere»とドイツ語で娼婦を意味する«Hure»は同義語とは言い切れない
- «geil» に関しては、「DUDEN」(ドイツ語の広辞苑的存在)にも、性的興奮と同時に「いいね!」的意味を持つとの記載がある
以上2点を理由に、視聴者の苦情申立を却下したそうです。
関連サイト:DUDEN <geil>(閲覧日2023/03/04)
放送禁止用語発言:世論の反応は選手ならOK・局アナはXか?
スイスのオンラインジャーナルbが行った調査では、
「テレビで«huere geil(発音:フゥーラ ガイル)»発言をしてもかまわない」
賛成:92% 反対:8%
という世論の風向きのよう(ただし、調査参加人数の記載なしなので、元研究者の私は引用すべきか悩む)。
けれども、「優勝が決まったオーデルマット選手が興奮のあまり放送禁止用語を使うのはわかるけれど、なぜ局アナが誘導するかのように放送禁止用語で話しかけたのか、その行動は不快」という意見が、私の周囲では大多数でした(私も同意見)。
教育上、子どもが「フゥーラ ガイル」発言をしたら家庭と学校では禁止を促すのが一般的なので、局アナの態度は悪いお手本になりますからね…。
現在までのところ、局アナへのペナルティはない模様。
渦中の放送禁止用語:使用OK/使用はNGケースの実例
問題となった«huere geil(発音:フゥーラ ガイル)»をスイス社会で使っても平気なケースは、
たとえば、とある航空会社の懸賞にエッセイを応募して「夢の旅先への往復航空券2名さま分」の獲得者に自分が選ばれたと連絡をもらった大学の同期。しかも行き先は日本(笑)。
日頃は穏やかな同期の「フゥーラ ガイル!」という叫び声は、放送禁止用語以外の表現が思いつかないほどピッタリだったので、その場に居合わせた人たちの違和感はゼロでした。
逆に、«huere geil(発音:フゥーラ ガイル)»の使用を避けるべき状況は、
というところでしょうか。
大学院時代のセミナーで、「試験恐怖症」克服のセラピーを高校生の被験者に実施した経験をプレゼンテーションした同期がいました。
セラピーの結果も、プレゼンの内容もとても優れていたのに、教授は「落第」と評価。
落第点の原因は、同期がプレゼン中に、「参加した高校生たちは『フゥーラ ガイル!』と、セラピーの効用に満足していた」と発言したことでした。
もともと、若者世代が好んで使うようになった言葉なので、学生たちは「高校生らしいわね」と苦笑していたのですが、「アカデミックの世界にふさわしくない表現だ」と、担当教授はおかんむり。
同期が提出した「落第点再評価の申請」を受け取った主任教授が、「高校生なら、よくある感情表現。ウチの息子は毎日使っている」と、寛容な判断を下したおかげで、同期は単位を落とさずに済みました。
もしスイスの大学に留学を検討されている方は、「親しい仲間内ならOK」を目安にすると、わかりやすいかもしれません。
だけど、私は現地生活で今回ご紹介した放送禁止用語を実際に使った経験は、まだありません。
アラカンに年齢をアップグレードしましたけれど、なにしろ、山の手育ちでございますから(笑)。
もしロト億万長者になったら、その際には使おうかしら。
<参照サイト>
a Watson.ch <SRF-Ombudsstelle schmettert Beschwerde nach Odermatt-Interview ab> (更新日2023/02/28) (閲覧日2023/03/04)
b Nau.ch <Marco Odermatt: «Huere geil»-Aussage für Nar-Leser unproblematisch> (更新日2023/03/01) (閲覧日2023/03/04)