【バーゼル劇場付属バレエ学校】虐待行為を元生徒が実名で批判報道

スイスのニュース

バーゼル劇場付属バレエ学校(Ballettschule Theater Basel、略称BTB)の元生徒たち33名が、自らが学校で体験した教師陣の虐待行為を告白(うち7名は実名で記事に登場)。

地元スイスの新聞社・NZZ(ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング)日曜新聞版の報道に対し、学校側は「事実無根」だと、虐待行為を否定しています(2022/10/24現在)。

ちなみにNZZは、スイス国内で最も信頼度が高く、影響力のある新聞社(創刊1780年、発行数約33万部)。

今回報道された内容は、NZZの日曜新聞とバーゼル在のオンラインメディア「Bajour」が、数ヶ月間にわたり共同調査を行った結果だということです。

バーゼル劇場付属バレエ学校に対する批判の内容は、同じく生徒への虐待行為が問題となり、2022年末まで行政調査中のチューリッヒダンスアカデミー(taZ)への批判と、酷似しています。

バーゼル劇場付属バレエ学校(BTB)とは?

バーゼル劇場付属バレエ学校(BTB)とは?

バーゼル劇場付属バレエ学校(BTB)の公式サイトによれば、

  • 2001年に学校創立
  • 子どもから大人、そして趣味からプロを目指す人まで、あらゆるレベルの目的に対応しているバレエ学校
  • ローザンヌ国際バレエコンクールおよびユース・アメリカ・グランプリ参加者のためのパートナー校
  • スイス連邦認定の「舞台ダンサープロ資格EFZ」取得コース提供校

というのが、学校のプロフィール。

そして学校の指針は、

  • 全生徒と職員が、並大抵ではない熱心さで物事に臨む姿勢を、学校側は期待
  • 指導重点は、生徒の身体面・感情面における幸せと、個人的な進歩

とのこと。

外部リンク:バーゼル劇場付属バレエ学校(BTB)の公式サイト(英語版)

スイス認定の「舞台ダンサープロ資格EFZ」は難関な職業資格

舞台上のバレエダンサー

ちなみにスイスには、国が認定している「舞台ダンサープロ資格EFZ」というものがあります。

「舞台ダンサープロ資格EFZ」が導入されたのは、2009年。

資格を取得するためのコースを提供している学校は、バーゼル劇場付属バレエ学校(BTB)と、チューリッヒダンスアカデミー(taZ)の2校だけです。

スイス連邦が認定している職業資格のうち、「舞台ダンサープロ資格EFZ」取得が難関と言われる理由は、

  • バーゼル劇場付属バレエ学校(BTB)での中途退学者約20%
  • チューリッヒダンスアカデミー(taZ)での中途退学者30%以上

だから。

例えばバーゼルでの中退率は(2018年度)、他の職業資格の2倍以上だと報告されています(下記に詳細記載)。

【バーゼル劇場付属バレエ学校での虐待行為実名告白】新聞社の報道内容

バレエ学校の生徒たち

NZZが、バレエ学校の所在地バーゼルにあるオンラインメディア「Bajour」と共に調査・報道した内容は、

  • 元生徒たち33名の虐待体験告白(うち7名は記事内に実名で登場)
  • 元教師へのインタビュー
  • メールやメッセージ内容の分析
  • 元生徒たちの病院での診療記録

に基づいているとのこと。

新聞社の調査によると、少なくとも過去10年間、バーゼル劇場付属バレエ学校で生徒への虐待行為があったと、報道されています。

【バーゼル劇場付属バレエ学校】報道された虐待行為の実例

ジャンプするバレリーナ

記事内では、元生徒たちの体験談/心理セラピストの意見/元生徒の親の体験談/学校の管轄担当である州の教育部門関係者の発言などが、取り上げられています。

【バーゼル劇場付属バレエ学校】元生徒たちからの虐待証言

泣いている天使の像
  • 「1日の食事内容はリンゴ1個とヨーグルト1個にするべき」と教師がレッスン中に指導
  • 教師がレッスン場で生徒の体をつまみ、太り過ぎかどうかをチェックし、生徒への夕食禁止/許可を言い渡す
  • 「デブの豚」と、教師が生徒を名指しで批判
  • ケガによる痛みを教師に申告しても、レッスン続行
  • 意にそぐわない生徒には、授業参加拒否・徹底無視・暴言を浴びせる教師
  • 男性教師たちからのセクハラ行為(少なくとも1名では記録が存在)とセクハラ発言

また、このような虐待行為の結果、

  • 生理が止まる
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD)/パニック障害/摂食障害の発症
  • 「虐待体験を親に相談しても、その後教師に倍返しで意地悪をされる可能性」に対する恐怖心から、親にさえ沈黙を貫く

など、心に深い傷を負ってしまった元生徒さんたちの痛々しい声が、記事には綴られています。

【バーゼル劇場付属バレエ学校】心理セラピストの発言

心理セラピストと患者

バーゼル劇場付属バレエ学校の卒業生である患者は、「学校の恥」と罵られるなどの心理的虐待を受けたため、治療中とのこと。

また、別の心理セラピストは、「恐怖心をあおることで、メンバーが自分自身で考える力を奪うバレリーナの養成課程は、カルト教団的」と、コメントしています。

【バーゼル劇場付属バレエ学校】元生徒の親の体験談

医者の聴診器とカルテ

2015年のこと。ある父親は、激やせした娘の診察をしたスポーツ専門医師から、「健康上の問題を抱えるバーゼル劇場付属バレエ学校の生徒を数人診察したので、お嬢さんの件を州の教育部門に通報したい」と、許可を求められたそう。

父親が了承したにもかかわらず、この医師と州の教育部門が協力して、バーゼル劇場付属バレエ学校のアマンダ・ベネット校長と(21年前から在任)、生徒たちの現状について議論する予定だった話し合いは、結局実現されないまま、問題が風化したとのこと。

該当の医師も州の教育部門関係者も、問題が手付かずになった理由は不明だと、記事内で発言しています。

この元生徒さんの父親によれば、ベネットさんのダイエット思考に従っていたお嬢さんは、学校を無事卒業したものの、現在も摂食障害に悩み、抗うつ剤を服用しているそうです。

記事を読むだけで、やり切れない気持ちになってしまいます。

【バーゼル劇場付属バレエ学校】州の教育部門関係者の発言

中途退学

この記事の冒頭にも記しましたが、スイス認定の「舞台ダンサープロ資格EFZ」は取得までの道のりが難関で、2018年度のデータによれば、バーゼル校での資格取得者は4名で、中途退学者は10名。

全部で250種類ある職業資格と比べた場合、「舞台ダンサープロ資格EFZ」の中退率は2倍以上と、過去のデータで把握したバーゼル州は、中退者が多い背景には、学校側と生徒の関係に問題があるのではないかと推測。

そこで、バーゼル州の教育部門やスポーツ担当部門の関係者が、「栄養摂取・プレッシャー・暴言」について学校側と何度も話し合いを重ねたそうなのですが、具体的な問題への対策・解決には、至らなかったとか。

前出の医師と教育部門関係者の問題提議は風化、そして虐待疑惑の解決策を見出さずに放置とは、部外者には不可解すぎる対応の連続です。

スイスを揺るがしたスポーツ界での虐待報道措置後も悪習維持だったバレエ界

平均台上の体操選手

実はスイスでは2020年の10月、8名の体操選手たちがコーチのパワハラ・セクハラ虐待を実名で批判した「マグリンゲン・プロトコール」と呼ばれる告発が、世間を騒がせました。

スイス代表選手で、お茶の間でもお馴染みの存在だった彼女たちの告発への反響は大きく、当時のナショナルコーチは解雇処分に。

このスキャンダルを受け、スイスの連邦政府は2022年初めから、

  • 行動規約の発効(=虐待の認定・罰則などへの法的対応)
  • カウンセリングセンターや通報窓口設置

と、「スポーツ選手の身体的・心理的人権を守る」姿勢で、すばやく対応。

国の積極的な対策は、これまで虐待を容認していたスポーツ界全体の風紀見直しに影響を与えたのですが、バレエ界では、指導方針の問題摘発・改善の努力は見られないままだったと、報道記事は指摘しています。

おそらくそういった背景から、チューリッヒダンスアカデミー(taZ)、そして今回のバーゼル劇場付属バレエ学校(BTB)の元生徒たちが自ら虐待体験を告白する流れになったのではないかと、思われます。

バーゼル劇場付属バレエ学校への虐待報道を学校側は全面否定

拒否DENIAL

調査にあたった報道関係者は、元生徒たちの虐待批判を、直接学校側に伝え、話し合いの場を求めたようです。

話し合いに参加したのは、バーゼル劇場付属バレエ学校のトップ(アマンダ・ベネット校長/ジュリー・ワーロック子ども部門校長/ヴォルフガング・キルヒマイヤー取締役)3人のメンバー。

この場で、ベネット校長とワーロック子ども部門校長は、元生徒たちからの虐待批判を全面否定。

「では元生徒33名が、虐待されたと嘘をつく理由は何か?」という、報道記事担当者の問いに対して、ベネット校長は無回答のままだということです。

バーゼル劇場付属バレエ学校は、

  • 報道された虐待の現状を把握するために、外部調査を依頼予定
  • 当面の間、ベネット校長は休職

する旨のステートメントを、2022年10月25日発表しました。

参照元:Blick <Direktorin der Ballettschule des Theaters Basel freigestellt>(更新日2022/10/25)(閲覧日2022/10/25)

【バーゼル劇場付属バレエ学校への虐待批判】知人が在校生なので衝撃

見て見ぬふり

実はわが家の娘の友人のひとりは、現在バーゼル劇場付属バレエ学校に在校中の生徒さん。

学校の休暇中だった彼女と久しぶりに一緒にトレーニングをした娘が、「バーゼルでのレッスン、ものすごく楽しいんだって!良かった〜」と、私に笑顔で伝えてくれたのは、つい最近のこと。

ですから、NZZの記事を読んだ娘も私も、本当に絶句。

報道記事にある元生徒さんの発言によれば、「校長先生のお気に入りの生徒たちは、虐待の標的にはならない」とのこと。

娘の友人は、

  • 優れた才能とバレリーナとして理想的なスタイルの持ち主
  • これまで大きなケガは一度もなし
  • 食べてもまったく太らない体質

という、バレリーナにとって最適の条件を備えているお嬢さん。

だから、虐待の対象にはならなかったのかしら…などと想像しましたが、それにしても授業を満喫している様子の彼女と、報道されている虐待経験者たちの悲惨な様子が、あまりにもかけ離れているので、衝撃を受けました。

自分が標的になっていなくても、同じ環境にいる誰かが虐待されているのなら、その行為を周囲が黙認するのは「消極的な虐待行為」ではないかと、私は思うので。

でも、生徒全員が服従・恐怖心を抱く環境では、勇気を出して先生に反発なんて、無理でしょうし。その悪い環境を作り上げたのは、大人ですしね。

【バーゼル劇場付属バレエ学校への虐待批判】ケガで中退した知人も

足の怪我

娘が通っているバレエスタジオからはその他にも過去5年間に2名、バーゼル劇場付属バレエ学校の「舞台ダンサープロ資格EFZ」コースに入学した生徒がいました。

ただし2人とも、ケガが原因で資格コースを中退し、その後まったく別の進路に変更を余儀なくされたのです。彼女たちは中退する時点まで、授業をものすごく楽しんでいた印象があったので、それも記事を読んでショックを受けた原因。

もしかしたら、彼女たちも痛みに耐え続けなければならない状況下で、無理してレッスンを続けたため、取り返しのつかない故障につながってしまったのかしらなどと、本当にやるせない気持ちで、胸がいっぱいになりました。

バーゼル劇場付属バレエ学校、プロ養成コース閉鎖決定

バーゼル劇場バレエ学校は、プロ・ダンサー養成コースを今年度(2022/2023学期)で閉鎖すると、2022年11月30日に発表しました。

最重要点は、以下のとおりです。

  • バーゼル劇場付属バレエ学校・プロ養成コースを直ちに閉鎖すると決定(2022/2023年度の学期で終了)
  • 最終学年の学生20名のみ、予定通り(2023年)にスイス連邦の「舞台ダンサープロ資格EFZ」を取得して卒業できる
  • それ以外の学生30名は、別のバレエ学校への転校を余儀なくされる状態。ただし、現実問題として転入先を探すのは非常に困難(2022年11月30日の段階では、解決策の見通しがないまま。以後の報道は、この記事の追加執筆時点でなし)

スイス国内にあるチューリッヒのバレエ学校も、虐待疑惑の調査中なので、転校先はスイス国外で探すしか方法がない見込み。とは言え、学生が個別に受け入れ先の学校を見つけることは、はたして可能なのか…と、スイス公共放送のニュースでは、悲観的に解説していました。

バーゼルバレエ学校・プロ養成コースが閉鎖に追い込まれた原因

  • 虐待スキャンダル発覚以前から財政難(例:プロ養成コースが3年制から4年制に変更された際、州による追加資金がすでに増加・圧迫)
  • 実名を含む虐待告発以降、公的機関以外からの資金集めが不可能な状態に陥る
  • 学生がほぼ全員外国人(50名のうちスイス人は1名)であることも、消極的な公的資金による援助体制に影響した可能性あり(スイス公共放送レポーターのコメント)

虐待行為への調査は、まだ続行中とのことです。

参照サイトSRF <Basler Ballettschule stoppt den Lehrgang für Profitanz> (更新日2022/11/30)(閲覧日2023/02/02)

虐待報道続きのスポーツが本来の良さを発揮できる日が近いことを祈る

踊るバレエダンサー7人

「子どもが夢中になれることを、サポートするのが親の役目」と、たびたびdryukiネットのサイト内で繰り返している私。

わが家のケースでは、バレエは娘の心身の成長に、良い影響があったと言えるのですが、バーゼルとチューリッヒバレエ学校での虐待報道を鑑みると、クラシックバレエのお稽古を堂々とオススメできない心境になってしまいます。

才能プラス自己規律がなければ、トップの地位を目指せないのは、どのスポーツ界でも共通している事実。

しかし、スポーツが子ども・青少年の健康な発達を促すどころか、心身に深い傷を負わせる原因となるのは、許し難い問題です。

勇気ある虐待体験の告白が、スポーツ選手の人権を守ろうと本格的に着手しているスイスという国で効果を発揮し、世界的に蔓延しているスポーツ界での虐待行為に終止符を打つきっかけになることを、願わずにはいられません。

スポーツには本来、人生を豊かにしてくれるエッセンスが、たくさん詰まっていますからね。

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